断腸亭料理日記2017

桜鍋・森下・みの家

7月23日(日)夕

引き続き、日曜日。

森下にある、桜鍋の[みの家]に行くことにした。

鍋で夏、というのは奇異に思われるかもしれぬ。
しかし、もともとは桜鍋もさらに、鬼平などに出てくる
軍鶏鍋なども新牛蒡の笹ガキを使う、といって、夏。

夏の暑いときには、熱いもので、
力の付く肉を食うということ。

甘酒なども今は冬のものだが、実は夏。
夏に熱い甘酒で、栄養ドリンク的な位置付けで
あったのである。

暑いときに熱いものを、ふうふう汗をかきながら
食べるというのは、実際によいもの、である。

と、いうことで、桜鍋の森下[みの家]。

[みの家]の創業は明治30年。
明治は45年までなので、あと15年ほど。

日清戦争が明治27年、日露戦争が明治37年。

日露戦争直前といえばよいのか。

我が国も徐々に力を付けてきた頃。
当地深川にも、江戸からあった水運を利用して
工場が立ち始め、そういった、水運や工場で働く人々
それに江戸からの木場で働くいなせな兄イもお客だった
のであろう。

桜鍋というのは、むろん馬であるが、
この頃流行ったという。
それ以前にはまだなかったのか。
牛鍋や、近所ではあるが両国の[ももんじや]の猪鍋あたりか。

吉原大門前に今でも[中江]という店がある。
今でこそ[中江]一軒であるが
当時はこの大門前の土手通りには桜鍋やが軒を連ねていた
と聞いている。

ともあれ。

夕方、ちょっと半端な時刻、4時すぎに内儀(かみ)さんと到着。

拙亭のある新御徒町からは大江戸線で三つ目。
すぐである。

かの名物居酒屋[山利喜]の数軒先。
硝子格子を開けて入る。

紺の半纏を引っかけた下足の小父さんから下足札を
もらって座敷に上がる。

先客は一組。
真夏の半端な時刻、こんなものであろう。
今は、夏に桜鍋、などと考える者は、酔狂以外なにものでもない
のであろう。

大きな入れ込み座敷。

障子が新しくなっているようである。
白木がそれらしい。
凝ってはいないが、桜模様の透かし彫りが洒落ている。

向かって右手の一番奥へ。

瓶ビール。

桜鍋二人前と、追加で焼き豆腐、刺身ももらう。

ステンレスのお膳に焜炉。

鍋もきた。

銅(あかがね)の使い込まれた店名入りの小鍋。

味噌と割り下。

そうそうこの味噌。

黒い甘味噌。
これ、江戸味噌、ではなかろうか。

ザク、鍋に入れる具材は、水でふやかせた麩と白滝、ねぎ。
これがセットで追加で頼んだ、焼き豆腐。

お姐さんが火をつけていく。

桜肉の場合、すぐに硬くなるので、火を付けたら、
どんどん食べ始めなければいけない。

刺身。

うまいもんである。

鍋アップ。

なにしろ、この甘い味噌と割り下の塩梅がよい。

煮えてきたら、どんどんと、食う。

焼き豆腐も一丁もらったので、せっせと食べねば。

私はやめたが、ビールを二本呑み終ると内儀さんは
ご飯をもらっていた。

このつゆで、いくらでも飯が食える、で、あろう。

うまかった、うまかった。

御馳走様でした。

ここは席で勘定。

下足札と代済の札を持って立つ。

やっぱり、夏にきたい店、で、ある。



P.S.江戸味噌、いよいよ気になってきた。
早く、入手せねば。






みの家


 



  

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