断腸亭料理日記2017

森下・やきとん・山利喜 その2


引き続き、森下の[山利喜]。

なにを頼もうか、考えていると、

最初に頼んだレモンサワーがきた。

さて。

頼むのは、、、

「煮込み玉子付きに、ガーリックトースト」。
ここではこれを頼まなければ、きた意味がない。

それから、と。

まぐろぬた。

うまそうである。

焼きとんは、、、

レバは決まりで、なんこつ。
ここは各二本ずつがきまり。塩で。

お通しは、ちょっと見えずらいかもしれぬが、
小鯵をさらに一口に切った南蛮漬け。

こんなものも、うまい。

なにがというと、まず火の通り方。
骨までしっかり柔らかく、それでいて、カリッとし
よい食感。そして、味付けもちょうどよい塩梅。

こういうちょいとしたお通しにも細かく
気が配られているのが、ここをただの焼きとん
大衆酒場に留まらせていない所以であろう。

目の前の煮込みの大鍋。

ぐつぐつと煮えている。

モツの多くは、いわゆるマルチョウではなかろうか。
私はこれは、脂がたっぷり出るのがポイントとみている。

右側、鍋の持ち手に紐のようなもの結び付けられている
のがおわかりになろうか。

これ、いわゆるブーケガルニだと思われる。
ローリエなどのハーブ類が入っていたと思われる。

ここのご主人はフレンチの修行をされた方で
このつゆにはポートワインなども入っている。

ぬたがきた。

ぬた、というのは好物の一つである。
自分でもよく作る。

ここでぬたを食べるのは初めてではなかろうか。
注目すべきは、赤い味噌の色。

商売人の作るぬたの多くは、白味噌を使った
からし酢味噌である。

ひょっとするとこの赤い色は、江戸味噌、では
なかろうか。

味は甘めでからしも入っているか。

江戸味噌というのは今はごくわずかしか
作られていない東京伝統の味噌。

浅草の[万久]というところで手に入る。

いわゆる白味噌と赤い八丁味噌の中間のような味噌で
甘いが独特のこくがある。
駒形[どぜう]ではどぜうの下味付けに使われている。

まあ、わからぬが。
まぐろもうまい。
しっかりした食感の中トロ。よいものではなかろうか。

そして、真打の登場。

焼きとんやで煮込みというのは、どこにでもあって、
前座的なポジションかもしれぬが、ここのものは
間違いなくトリを取るものであろう。

目の前なので盛り付けも見ていた。
素焼の平たい器をガスで熱し、そこに煮えたモツをのせ、
玉子、そしてつゆをまわしかけ、ねぎをのせる。
それで、ずっと熱いままで食べられる。

先に書いたように、独自のレシピで濃厚なつゆと脂。
そのつゆを十分に吸った、ゆで玉子。

そして、このつゆをガーリックトーストを
つけて食べる。

フランスパンでバジルとにんにくの
オリーブオイルでカリッと焼かれている。
このにんにくとバジルの塩梅も絶妙。

この完成度の高さ。
やはり、それぞれのものにかなり細かく
神経が使われていると思うのである。

間違いなく、押しも押されぬ大衆酒場・森下[山利喜]の
大看板。
メインディッシュ、スペシャリテである。

焼きとんもきた。


レバとなんこつ。

溶きがらしが添えられている。
これもここの特徴である。
意外に他では見ないのではなかろうか。

そこそこ辛めだが、辛すぎない。
これもよい。

うまかった。

レモンサワー二杯。

ご馳走様でした。

勘定をして、出る。

ここの開業は関東大震災後の大正14年。
なんと創業92年。
現ご主人は三代目だが、三代目になってからも
すでに30年以上にはなるのであろう。

フレンチ仕込みの煮込みの味もこなれ、
深川大衆酒場の味になっている。
それがここの底力。
そして、多くの料理に細やかに神経が行き届いている。
やはり居酒屋としては別格であろう。


山利喜





 

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