断腸亭料理日記2018

鳥越祭2018 その3

引き続き、鳥越祭。

一日目の土曜日は夕方から町会神輿の
連合渡御。

そして、日曜日は神社の宮神輿、
本社神輿と呼んでいるが、の氏子各町の渡御と
なっている。

三社なども含めて、大方この界隈はこんな流れになっている。

影祭、本祭という言い方がある。
神社側からいうと、大祭なんという言い方にもなるのか。

神田明神、深川八幡、近所では隣の下谷神社なども
影祭、本祭の区別をして、大規模な祭と
そうでもない祭とに年によって分けている。
(場合によっては、やらない年もあって、やる年、
やらない年というところもある。)

鳥越も以前はそういう区別があったようで、
影祭の年は、本社神輿の渡御はなかったようである。

この影祭と本祭というのは、なんであろうか。
年によって、祭の内容に強弱、違いがある。
または、毎年やるわけではない、というもの。

古い神社では、祭といってよいのか、
伊勢神宮などの式年遷宮のようなもの。
社殿の建て替えのサイクルになっているものがある。

以前に書いたことがある諏訪大社の御柱祭も
寅と申の年というサイクルがある。

諏訪大社が式年遷宮的なものかどうか、書いたように
諸説あるが、社殿を新しくするというのは、いわゆる
神様のいる社殿が時間が経ってケガレ、ケ(日常)がカレル
(疲弊する)それを新しくして、エネルギーを満たす。
ハレ=非日常の行事といってよいのであろう。

一般論としては祭は基本、このように日常たまったエントロピー
=ケガレを払い、また、その後の日常暮らすエネルギーを満たすための
ハレの行事という位置付けができる。
このサイクルがどのくらいなのか、どういうタイミングなのか
ということである。

そしてさらに、江戸・東京の本祭と影祭の区別が
こういうサイクルと同様に考えてよいものなのかどうか。

開催がなん月なのか、という問題では、
江戸期、幕府の都合で移されたということも書いた。
こういう民俗的なことではない要因、お上によって
決められたということも考えられる。

神田祭と山王祭はどちらも江戸鎮守の祭で、
ともに行列が江戸城に入る。それぞれ毎年では
幕府にしても氏子にしても人、物、金ともに負担が大きい。
それで隔年交互に行われるようになったという歴史がある。
(今も交互。)
また、江戸後期の天保の改革の倹約令で衰微したともいい、
神田、山王以外も経済的な理由で、本祭と影祭を作った
ということも十分に考えられる。

こういう記録が残っているのかいないのか。
神田明神や日枝神社であれば残っているかもしれぬが、
それ以外では、どうなのであろうか。

日本の祭は先に書いたように、多くは田植えだったり、
稲刈りだったり稲作作業の年間処々のタイミングで行なわれている
行事であった。江戸の祭というのも、元来は土着の農耕民の
祭であったと思われるが、江戸期に入ると農耕民の生活から離れ、
いわゆる農耕民俗的な生活基盤から離れた都市民の祭に
なっていたといって問題はなかろう。
経済的な背景があってお上からも指導され、隔年であるとか、
本祭のサイクルが決まっていった、のか、あるいは都市民的な
民俗要因のようなものがあって決まっていったのか。なんとなく
前者のような気がするが、ともあれ、この問題、宿題にしよう。

日曜であった。

当町内の本社神輿の渡御は11時すぎ、北側の永住町から
春日通りを渡って南の小島二西へ渡す。
これは町会の案内でも知らされるし、町の掲示板にも
貼り出される。

少し前に昨日と同じ格好をして、内儀(かみ)さんと出る。

どんよりと曇ってはいるが、昨日も雨は降らなかった。
今日も今のところは大丈夫そうである。

鳥越祭というのは、6月の第二週末と決まっており、
関東地方の梅雨入り日とほぼ一致している。
それで、どうであろうか、3〜4年に一回は降られているか。
雨が降ると、寒い。
当然傘を差して神輿を担ぐわけにはいかないわけである。

出ると、北側路地の遥か奥だが、永住町で担がれている
本社神輿が見える。

引き渡し場所へきてみる。

町会ではなく、全体の「睦」の役員さんの面々、そして
いわゆる役半纏を着た、祭全体の裏方を取り仕切る
文字通り、鳶の頭らしき方などが既に到着している。

ここで引き渡し時に、簡単な神事が行われる。

本社神輿の渡御は神輿が最後で、前に様々な行列が付いている。
三社など近隣の祭もほぼ同様のようだが、
馬に乗った宮司さん、一本歯の下駄を履いた天狗、昔は
芸者衆がやった、手古舞。今は氏子の娘さん。

今ではわからなくなっているが、これ男性の格好なのである。
たっつけ袴を履いて、若衆風の男髷(まげ)。

美形で妙齢な芸者衆が男性の格好をするというのは、
今言えば、宝塚のようなちょっと倒錯した色っぽさ
であったのである。

手に金棒を持っている。これはさらに古い形を残したもの。
江戸期になるようだが元来は鳶の役割で警備のために
祭の行列に加わっていたのである。(それで男装なのである。)
金棒は火の用心などの夜回りなども持つ護身用のもの。
重いので引っ張ることも多いが、上部に輪っかが付いており
突くと、シャンシャンという大きな音がする。(落語
「禁酒番屋」にも出てくる。)
金棒引きなんという言葉があったが「長屋歩きの
金棒引き」(落語「子別れ」)なんという使い方をする。
噂話を大袈裟に触れまわるお内儀(かみ)さんの悪口である。

引き渡し場所。だいぶ神輿も近付いてきた。
当町の「わ組」の鳶の方がスタンバイ。

足元に砂の山が見えると思うが、神事のために
この真上に神輿の中心がくるように置くのである。
その向こうに赤い傘が見えると思うが、これが天狗様。
天狗様は猿田彦(さるたひこ)という名前が本来。
なぜ天狗が行列に入るのかというと、移動の自由からか
旅人の守り神とされ、道案内のためである。





つづく





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