断腸亭料理日記2018

浅草・すき焼き・今半別館 その2

引き続き[今半別館]。

部屋のこと。
「初音の間」という。 お姐さんも説明してくれたが、初音というのは「鼓(つづみ)」のこと。
「初音の鼓」というものがあるがそれが由来。
そこから部屋の各調度のモチーフが鼓なのである。

廊下側の欄間(らんま)と障子(しょうじ)。

欄間の左右に鼓そのもの。
中央に並んでいるものも鼓であろう。
これは色は褪せているが、緑系の彩色がされていたように
見える。

それから下の障子の桟(さん)も鼓のモチーフであろう。

それから隣室との境の欄間。

鼓と扇。
やはり彩色がある。

その下の障子。

桟は廊下側と同じもので、下が襖状になっており、
ここが波に浮かぶ鼓の絵。

以前に入った二階の部屋は天井は格天井(ごうてんじょう) という超豪華なものであったが、ここは特にそういった ものはなし。

床の間はないのだが、掛け軸はかかっている。

これは、季節などで掛け替えているのであろう、
鼓と関係のない、菊。

一番玄関に近いということからか広さは四畳半。
貧乏性の私などは、むしろこのくらいの方が落ち着く。
だが、狭い部屋でもこのような趣向を凝らすだけで、
印象は随分と変わってくる。

ともあれ、座る。
瓶ビールをらって、注文はすき焼きの「こととい」という
近江牛のコース、10,000円也。
この下に産地が限定されていない和牛のコース7,500円
というのがある。過去二回はこちらであった。
今日はちょっと奮発である。

先付け。

湯葉の和え物。
とんぶり、銀杏、しめじなどが入っている。
お上品で乙なもの。

鍋がきた。

向こう側に玉子、手前二つは割り下。
左の白い陶器が薄めるための出汁。
右が、継ぎ足し用の割り下。

肉がきた。

7,500円のもの
比べてみると、サシの入り方が美しいように見える。

野菜類。ねぎ、春菊、焼き豆腐、白滝。

最初はお姐さんが焼いてくれる。

取ってくれて

食べる。
これがまずかろうはずがない。
まさに、日本人に生まれてよかったと思う瞬間である。

野菜類も全部入れてくれて、

あとはお願いしますと、お姐さんは退出。

[浅草今半]、[人形町今半]系列は最後までお姐さんが
焼いてくれたと思うが、むしろこちらのほうが異例か。
勝手にやらせてもらった方が気楽でよい。

肉がよいせいであろうか、脂っこくて飽きてしまう
ということもなく、どんどんと食べられる。
さすがのもの。

そうそう、先に部屋の説明をしたが「初音の鼓」のこと。
歌舞伎をご存知の方であれば、思い出されよう。
「義経千本桜」。
物語を通してキーアイテムとして出てくるのが「初音の鼓」。
もともとは伝説のようなものであったと思うが、
太陽に向かって打つと雨が降るというのが「初音の鼓」。 「義経千本桜」はこの「初音の鼓」伝説を取り入れて創作された
ものということができよう。
この部屋の「鼓」のモチーフは伝説の「初音の鼓」ではなく
「義経千本桜」の「初音の鼓」をイメージしていると思われる。
芝居上「初音の鼓」は義経が静御前に賜り、高貴で華やかな
イメージ。芝居を知っている人であれば、このイメージ
ストーリーも込みでこの部屋の意匠を感じられるというもの。
ただ静御前などの人物は描かれてはおらず、そこがまた
押しつけがましくなく、ほどがよい。製作者のセンスであろう。

途中、お酒にかえて、食べ終わり。

ご飯と味噌汁。

ふたを取ったところの写真を撮り忘れていた。
酔っぱらっていたか。

リンゴとブドウの水菓子がきて、お仕舞。

うまかった、うまかった。
ご馳走様でした。

毎度思うが、この見事な数寄屋造りの部屋。
東京の食い物やではかなり珍しいのではなかろうか。
少なくとも私は知らない。

戦後すぐの建築というが、もう既に60年以上はたっていよう。
国の登録有形文化財。
東京という街は震災、戦災で焼けているので古いものは
ほぼ残っていない。
戦後になってこういう凝ったものを建てようとした人が
いなかったということかもしれぬ。
それをまた、この店では60年の間、改修を重ね状態を保っている。
老舗が改築をすると、鉄筋コンクリートで新和風というのか
和モダンというのか、そんな感じになってしまう例が多い。
私自身の趣味だが、和モダンよりも本物の方がよいと
思うのだが。需要があれば、継承する若い職人も増える
というもの。
そんなことも含めて、希少なすき焼きや。
浅草の価値を高めていると思うのである。





今半別館

台東区浅草2-2-5
03-3841-2690






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