断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その69 桂三木助 へっつい幽霊

引き続き、三代目桂三木助師「へっつい幽霊」。


熊さんは銀ちゃんに道具やからへっついを一円付けて
もらってもらう、という話をする。
銀ちゃんも噂は聞いている。
熊さんは幽霊は俺が引き受けるから、一緒にもらってこようと誘う。
一円は五十銭ずつ山分け。

こんちは。

おや、熊さん。ま、一服おやんなさい。

(ここのリズムも、芸術的である。絶妙な口調。)

へい、ありがとう。
大将。塀越しの話だからね、間違えてたら勘弁して下さいよ。
そこにあるへっついかなぁ。誰かに一円付けてもらってくれると
なんて、お内儀さんと今、話してやしませんでしたか?。

(パン、と膝を叩く。)
いい方に聞いていただいたなぁ。こりゃぁ、熊さん。
あなた方のご商売には随分強い方が、、。

ええ、強いも弱いもねぇやな。実はあっしがもらおうってんだ。

熊さんが?、え?。
けっ・こ・う、、だけど、、少ぉし近すぎるなぁ。
実はねぇ、このへっついに、、、

おー、とっと。
なんにも言わなくっても、わかってる。
お前さんの方だって、元の出ている代物(しろもん)だ。
そこへたとえ、一円でも付けよう、ってんだ。
なにかいわくがなきゃ、そんなことしっこねえ。
あっしも男だ。一円付けてもらったからにはねえ、鬼が出ようが
蛇(じゃ)が出ようと、お前さんとこにこれっぱかしも、苦情なんか
持ってきやしねえ。今日はあっしばかしじゃねーや。
銀ちゃんも一緒だ。くれますか?。
じゃ、その一円っての先ぃくれませんか。
正直なこというと、そいつが目当てだ。

五十銭玉で二枚もらって、熊さんと銀ちゃん、差し担いで
へっついを担いで、道具やを出る。

熊さんの方は身体もがっちりしているし、担ぎものにも慣れている。
若旦那の方はてぇと、身体はか細い、担ぎものにも慣れない。
まだ、通りの広いうちはよかったんですが、狭い路地い
入ってきますと、余計よたよたしています。
どぶ板いつまずいた、トントントンとのめる。
掃き溜めい、ドシーンとぶつけましたから、へっついの角が
ポロっとかける、と、途端に白いこのくらい
(手ぬぐいを丸めて塊を作り転がす。)
の塊がコロコロコロっと、銀ちゃんの足元に転がる。
驚いたのは、若旦那で、

熊さん!幽霊の玉子!。

幽霊の玉子なんざぁ、あんまり聞かねえなぁ。
そんなもの、出やがったかい。

このまま路地に置いておくと邪魔になる。
縄を切ってしまったので、へっついを場所が近かった
銀ちゃんの家に入れ、出てきた塊を持って二人熊さんの家へ。

さっきの白い塊の封を切ってみる。
すると、中から出てきたのは、十円金貨で三十枚。
三百円という金が出てきた。
(年代が不明だが今の価値で、三百万円くらいとしておこう。)

どうだい、こんなことだと思ったんだ、と熊さん。
これに気が残って出てくるんだ。

銀ちゃんは、
熊さん、仕事は山分け?!。

わかってる、わかってる。
わかってるから、今、がっかりしてるんだ。

と、半分の百五十円ずつ、分け、

熊さん、どうでもいいんですけど、五十銭は?。

しっかりしてるね。
百五十銭あるんだから、いいじゃねぇか。
やるよ、やらないとはいわねえよ。

銀ちゃんは、百五十円と五十銭持ってピーっと、吉原へ。
熊さんは博打へ。

銀ちゃん、明くる日の夕方までにきれーに、使ってしまって
一文無し。

おーや、おや、せめて五十銭だけでも残しときゃよかったな。
家い帰って、熊さんに借りよう。

と、熊さんはまだ帰ってない。

熊さんの方も、悪銭身に付かず。
やっぱり、きれーに取られて、一文無し。
元手がなきゃ、博打にもならない、銀ちゃんに借りよう。

お、帰ってやがる。
若旦那!
(戸を開ける仕草。)

熊さん、お金貸してください。

じゃ、俺の言うことねーじゃねーか。
みんな使っちゃったの?。
俺かい?俺もすっかり取られたんだ。
まーいいや。端(はな)っから、なかった銭だと思って
あきらめて寝よう。

熊さんはあきらめよく、布団にもぐずり込んで寝てしまう。

若旦那の方は、そこへいくとなんとなく寝にくい。
夕べの今頃は、みんなで踊りを踊ったりなにかして、
おもしろかった、、と考えているうちに、
どこやらでうち出だす鐘が、ゴーン。
土間に置いてありました、へっついに隅からちょろちょろ、
ちょろちょろっと、火が出たかと思うと、やせーた蒼い顔を
したのがスーッと銀ちゃんの枕元へ出まして、

金返せぇ〜〜〜〜

と言ったんだから、驚いたの驚かないのって、

キャー、ってぇと、そのまま目を回しちまった。
この声を聞くと、熊さんは表の戸を蹴破って飛び込んできた。

おー、銀ちゃん、若旦那!。

あ、熊さん。
あーた、嘘ばっかり。
幽霊引き受ける、引き受けるって、ちっとも引き受けやしない。
私の方に押っ付けっぱなし。

 

つづく

 

 

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