断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その47 三遊亭金馬・藪入り

引き続き、三代目金馬師の「藪入り」。

母「うるさいねー、この人はぁー。おっ母売りに来たようだね〜。
  なーおっ母ぁ、なーおっ母ぁ、って。
  なんだよー?。」
父「なん時だよ?」
母「今、時間聞いたばかりだよ。
  三時少し回ったよ。」
父「どうも、剣のまわりが遅いような気がしてしょーがねーなー。
  起きて時計の剣、一まわり回してみろよ。」
母「おんなじこったよ。そんなこと言ったって。」

父「大きくなりゃがったろーなー。
  なんて言って来るかなー。たのしみでしょーがねぇんだ。

  なーおっ母ぁ。」
母「少しお寝なさいよ!。」
父「いいよー。一晩ぐらい寝なくったって。
  子供だって来てぇ一心だ。寝られやしないよ。

  枕元に着物(きもん)だの帯だの、下駄まで置いとくんだよ。
  こうやって見てるとな、ぽろぽろぽろぽろ涙が出てくるんだ。
  寝られやしねえ。

  子供が寝ずにいるんだ。親だけグーグー寝てたんじゃ、
  可哀そうだ。ものには付き合いってことがあるよ。
  
  今夜一晩お通夜しちゃおう。」
母「いやだよ!、この人は。縁起(いんぎ)でもない、お通夜だなんて。

父「なーおっ母ぁ。」
母「寝られないねー!」
父「なん時だい?」
母「まだ五時ちょっとまわったばっかり。」
父「お!、〆た。」
母「ちょいと、お前さん、今頃から起きてどうすんだよ。
  まだ電車と通りませんよ。」
父「電車、通らなくったって、野郎来てぇ一心だ、歩いたって来るよ。

  飯を炊け、飯を炊け!。」
母「今からご飯炊いたら、あの子が来る時分には、お冷(しや)に
  なっちゃうよ。」
父「お冷になってもいいから、温かい飯食わしてやれ!。」
母「わからないこというんだから。まいっちゃうよー。」
父「箒、出せよ〜!」
母「どうすんだい?」
父「表ぇ履くんだよ〜!」
母「お前さんが〜?、珍しいね〜。ま〜ど〜して〜?。」
父「どうもこうもねえや。久しぶりに帰(け)ぇってくるんだ、
  表だけでもきれいにしとこうってんだよー!。」
母「後であたしが掃除しますからね。
  箒持って、あらかたやっといて下さい。
  あ、じきにね、あたしが行きますからね。
  だいじょぶですからね。」

A「吉っつぁ〜ん。」
B「え〜?。」
A「ご覧よ〜。」
B「なんだい?。」
A「普段無精もんの熊さん、箒持って表掃いてるぜ。」
B「へ〜、変わったことあんだな〜。
  なにか不思議なことあるぜ、これは。
  
  あ、そ〜〜だ。
  16日だろ。亀ちゃんって、子供がいたぁ〜な。
  しばらく見えませんね、ってったら、かわいい子には旅をさせろって、
  やすから、奉公に出しましたよ、なんつった。
  宿(やど)りに帰(けぇ)ってくんじゃねーか。」
  (“藪入り”は小正月の1月15日とお盆の7月15日だが、この日は奉公先の
   行事があり、それを済ませ、翌日が実際のお休みであった。“宿り”は
   宿下がりといったことの転か。)

A「そーだ。子供は可愛いんだね〜。
  がさつ者で、乱暴者だがね、家の前だけでもきれいにしとこうっていう
  心掛けだけでも、ありがてえじゃねーか。
  声掛けてやろうじゃねぇか。
  湯、行くんなら、誘おう。

  熊さん!。おはようございます!」
父(熊)「(箒で掃く仕草、そっけなく)
  あ、おはようございます。」
A「いい塩梅に、お天気んなりましたねー。」
父「えー、あっしのせいじゃありませんよ。」
A「ヘンな挨拶だなぁ。
  
  なるほど、あの人のせいで、天気んなったんじゃねーんだけど。

  亀ちゃん大きくなったでしょーなー!。」
父「えー。小さくなったら、なくなっちゃうからねー。」
A「喧嘩だねー。まるで。

  後で、あたしんちに遊びにくるように、そいってくれますか〜?」
父「当人がなんていうか、わからねえからねー。」

母「お前さん、いい加減におしなさいよー。冗談じゃない。
  ご近所の人が出て、笑ってるじゃない。」
父「笑ってるたって、
  野郎、遅ぇなー。」
母「仕方がありませんよー。
  一番新しい奉公人ですもん。
  古い人をみんな出して、後でお店の掃除でもしてからくるの。」
父「店の掃除たって、三年目に初めて来るんじゃねーか。
  店の掃除くれぇ、そこの家の主がするがいいや。」
母「あたしに怒ったって、しょーがないじゃない。」
父「あそこの番頭、皮肉そうなツラしてやがったからな、
  宿りの出掛けになって、あそこ行ってこい、ここ行ってこい、
  って、用、言い付けてるんじゃねーかな。
  もう三十分たって、来なかったら、あそこんち飛び込んでって、
  番頭の横っ面、張っ倒してやるかな!。」
母「いやだねー、お前さん。

  はい!。(表へ向かって。)

  ちょっと、来た!。(父に)
  見て!。」
父「お、お前(めえ)見ろよ。」
母「あたし、今、ご飯が噴いてきたんだからさ。
  すいませんが。」
父「あ、あいよ。
  
  あ、今。(戸を開ける仕草。)

  はい。(下を向いている。)」

亀「(頭を下げながら。)
  めっきり、お寒くなりました。
  お父っつあんも、おっ母さんも、おかわりもなく。
  ご主人様、皆さま、おかわりもありませんで。
  お家へよろしく、って。

  お父っつあん、こないだ風邪引いて、たいへん熱があるってこと
  吉兵衛さんに聞いて、心配したんです。
  
  旦那に、そいえば、あんないい人ですから、行っといでって、
  言って下さんのわかってるもんですから、言い出しにくくって、
  言えなくって。
  でも来たかった。
  も、すっかりいいんですか?。
  心配だから、手紙書いて出した。
  あたしの書いた手紙、見た?。
  ねぇお父っつあん。
  あたしの書いた手紙、見た?。
  お父っつあん、お父っつあん!、お父っつあん!!」

 

つづく

 

 

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