断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その13 志ん生・火炎太鼓

引き続き、志ん生師。

No.1は「黄金餅」として、次は「火炎太鼓」。

志ん生の「火炎太鼓」はあまりにもおもしろい。
若い人が聞いてもおもしろいのであろうか。
聞いてみたい。

ただ、昨日書いたように、志ん生以外が同じことを演っても、
おもしろくは絶対にならない噺の典型であろう。
私が志らく師に習っていた頃、この噺が好きで演ってみたいと
思ったことがあったが、素人が演る噺ではないといわれた覚えがある。
「冷静に考えると、たいしておもしろくないよ」と。
目から鱗であった。

そうなのである爆笑噺のように聞こえるのだが、実は例えば文字に
起こすと、たいしておもしろくない。オンパレードである。

志ん生師の「火炎太鼓」も録音がいくつかあるが、その中でも
多少の違いがあるのがおもしろい。文楽師(8代目)のように毎回
寸分違わぬ噺をする落語家もいるが、志ん生は同じ噺でも毎回ブレが
大きいということである。つまり志ん生師の「火炎太鼓」でも、とても
おもしろく演れた時と、そうでもない時がある。(ポニーキャニオンの
ものがよさそうである。)

道具や(古道具や、高いものはない)。
主人と内儀(かみ)さんと小僧の定吉と三人でやっている。

主人が市で品物を仕入れてくる。
きったならしい、古い太鼓。
買い手がいなくて押っ付けられてきた、と内儀さんに
くさされる。

定吉にはたきで、埃を落とすようにいう。

内儀さんが「はたきをかけると、太鼓がなくなっちゃうよ」。
これも、志ん生がいうとかなり可笑しいのであるが、
冷静に考えると、実のところそれほどではないなかろう。
これが志ん生マジックである。

はたきをかけると、太鼓が鳴る。

主「お前のおもちゃに買ったんじゃないんだよ。
  はたけって言ったんだ、叩くんじゃないよ」
定「はたいてるだけなのに、音が出るんですよ〜〜」

すると、立派な武士が「今、太鼓を叩いておったのは、その方の
ところであるか」とくる。
主「あいすみません。はたけって言ったんですが、こいつが、叩い
  たんですよ。親戚の者でして、大きな形(なり)をしてますが
  まだ十一なんですよ。馬鹿な目してるでしょ。バカメっていって
  おつけの実にするよかしょうがない」
  
ここも、実はたいして可笑しくないのだが、爆笑の志ん生マジック。

武「いやいや、太鼓を打ったたのをトヤコウ言いにきたのではない。
  お上がどういう太鼓であるか、見たいと仰ってな」

と、いうことでお屋敷に背負って出かける。
出かける前にも内儀さんに、売れると思っていくんじゃないよ、
こんなむさい太鼓を持ってきてといわれて縛られるよ、と脅される
一件(ひとくだり)ある。

歩きながら、内儀さんの悪口を喋る。
「・・・まごまごしやがると、叩きだすぞ!
 こんちは」

「なんだ、へんな奴がきたな。あー、たいそう威勢がいいな。
 なんだな。」
「道具屋でございます」

つまり喋りながら、着いてしまうのであるが、このタイミングが絶妙。
上手いところである。

で、まあ、結局これが三百両で売れる。
むろん、道具やの主人も取り次ぎの家来もわからなかったが、
殿様は骨董の趣味があり「火炎太鼓といって、世に二つという」
ものであった。

三百両を受け取り「金子を落とすなよ」「落としません。自分、
落っことしても金は落としません」。

大喜びで家に帰り、内儀さんにも金を見せる。

なんでも音の出るものに限るね。
そうさ。今度、俺は半鐘を買ってきて叩くよ。
半鐘はいけないよ、おジャンになるから。
で、下げ。

とにかく、志ん生流のくすぐりが満載。
逆にいえば、くすぐりがなければほぼ成立しない噺である。
従って、演る方はかなり難しい。

さて「火炎太鼓」。
志ん生師のものは初代三遊亭遊三からのものといわれている。
(「落語の鑑賞201」延広真治編)
三遊亭遊三といえば、上から読んでも下から読んでも、三遊亭遊三と
当代(三代目)はよく高座でいっていたと思う。初代遊三という人は、
天保10年(1839年)〜大正3年(1914年)なかなかおもしろい人で、
元御家人で上野戦争にも参戦しているという。
天保生まれなので円朝同世代である。杉本章子氏の「爆弾可楽」
(文春文庫)

に入っている「ふらふら遊三」という小説になっている。

初代遊三と五代目志ん生は年が離れているので、楽屋で聞いていて
覚えたということになっているよう。明治40年(1940年)の初代遊三
の速記が「集成」にあった。下げが多少違っており、その他細かい
ところはむろん違っているが大筋は同じ。こんな噺なのでやはり
細かいくすぐりがたくさんあってそれで聞かせるという作りも同じ
である。
だが、成立年代などはやはりわからないといってよいのだろう。

志ん生師が十八番(おはこ)にしたので、志ん朝師他古今亭系、
円鏡の円蔵師(8代目)、文治師(10代目)などなど演った人も
多いし、今も志らく師も演るし、白酒師のCDを持ってもいる。

ただ、書いているように、志ん生版をそのまま演ってもダメ、なのは、
プロであればわかっている。演る人は、自らのくすぐりを大量に
入れて、作っている。まあ、これは必須であろう。
それで、皆、おもしろい。おもしろくできる人、しか演っていない
ということであろう。
「落語のぴん」の志らく師のものは今視ると懐かしい上に、
今もおもしろい。この頃まだ二つ目であったか、真打になりたてか、
師の真骨頂。
談志家元の言っていたイリュージョン、まではいかぬが、かなり
ぶっ飛んだ発想、ドタバタ、ハチャメチャにできるセンス、そして
テンポは必須である。喬太郎師は演っていないようだがやはり
喬太郎師、ちょいと真面目なのかもしれぬ。
昇太師はまずおもしろくできるだろう。演っていないのだろうか。
私は聞いたことはないが。

さて、そんなことで。
志ん生師、次。「富久(とみきゅう)」を書こうか。

文楽師も十八番にしていた。
違っていて、どちらもいい。
談志家元も演った。

 

つづく

 

 

 

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