断腸亭料理日記2019

須田努著「三遊亭円朝と民衆世界」
〜断腸亭考察その37

引き続き、今の東京の落語界について。

元来私は談志信者である。小谷野先生

は「立川流真理教徒」と書かれている。自分ではそこまでではない、
とは思っているのだが、素人落語の師匠である志らく師はもちろん、
立川流の師匠連を一番多く聞いてきているのは事実。
亡くなった左談次師は大好きであったし、志の輔師は落語会は行かない
(行けない)がCDはよく聞く。今は行かないか、談春師もよく
聞いたし、ブラック師も贔屓であった。やはり偏っているかもしれぬ。

それで存命で立川流以外の落語家は限定した人しか聞いていないのは
事実かもしれぬ。
また、自分が多少でも落語をするせいであろうか、自分より年下の
落語家の噺を聞くというのは、やはり多少ハードルがあるのである。
よっぽど認めないとだめ。

小三治師を書いておかねばならないだろう。なにしろ人間国宝。
前落語協会会長。独特のとぼけた雰囲気はおもしろいし、上手い、
とも思うのだが、どうしてもこの人は好きになれないのである。
やはり談志家元と比べてしまっているのかもしれぬ。兄妹弟子であり、
対照的。陰と陽というのかご本人も談志師との違いを意識していた
はずである。(談志家元の方はわからぬが。)談志信者であった私は
今更、小三治師を聞きに行けない、そんな屈折したところもあるかも
しれぬ。公平ではないのは承知しているが、どうしても、批判的な
頭でみてしまう。

それ以外というと、やはり少ないが五街道雲助師、柳家喬太郎師は
時折は生の高座も聞くし、CDも聞く。

雲助師は談志師亡き後、数年前に友人に誘われて知らずに個人の会に
行ってみて、驚いた。
派手ではないが、実に丹念に、そしてきれいに、長い、重い古典も
演じられている。この世代ではピカイチであろう。ただ、地味。

喬太郎師も談志師後、聞き始めたが、ファンといってよい。
志らく師もそうだが喬太郎師は1963年生まれで、私と同い年である。
同じ時期に東京で育ったからか、感覚、センスがかなり近い。
細かいことをいうと若干口跡がよくないところがあるが、落語の
基本的な技術は高い。新作も演る。喬太郎師は「名人長二」なども
演っているが、新作のできる人は、このような円朝ものの長い噺も
比較的簡単にできるのではないかと思っている。(もちろん志らく師も
演っていないと思うができるだろう。)また、なにより喬太郎師は
華がある。落語家、華がなければ、しょうがない。
枕ばかりおもしろいともいえるのだが、それでもよいではないか。
「ちゃんとした古典が聞きたければ他のCD買え!」と喬太郎師も
叫んでいた。それでよい。過去の名人のものも含めて落語ファンは
聞けばよい。なんら問題ない。「現場主義」から頭を切り替えても
よいのではなかろうか。

この人も書いておかなければいけないか。
責任ある立場なので。
柳亭市馬師。現、落語協会会長である。1961年生まれ。私の二つ上。

会長になるまで、不勉強ながらこの人自身を知らなかった。
もちろん聞いたこともなかった。TVにも出演るようになったので、
聞いてみてもいる。確かに、上手い。特に、いわれているように
歌がうまい。そんなに以前から有名であったのか。
まあ、小さん師以後、円歌師、馬風師、小三治師ときてその後である。
小三治師の考えであったのであろう。
上手けりゃいいのか、であろう。まあ、そういうことか。

その他では春風亭小朝師、林家たい平師、芸術協会では三遊亭
小遊三師、春風亭昇太師、といったあたり。上手くて、おもしろく、
メディア露出も比較的多い(人気もまあ、あって)のだが、足を
運びたいという人はいない。

結局、談志家元亡き後、行くところがない、落語難民?。
そういうことかもしれぬ。

既に東京落語界は変わっているし、これからも変わっていくだろう。
ただ、そこまで悲観もしていないのである。

下の世代も多くはないが、挙げてみよう。
桃月庵白酒師。1968年生まれ。

この人、かなり上手い。古典。緻密である。さすがに雲助師の弟子。
口跡がよい。声もよい。枕もおもしろい。
キャラもよい。CDだがよく聞いている。
この人は、わざわざ足を運んでもよいかと思える落語家である。

春風亭一之輔師。1978年生まれ。
メディアにもそこそこ出演る。坊主頭の噺家然とした佇まい。
上手い、という噂でCDで聞いてみた。
確かに、上手いのだが、なにか、もう一つ。
なんであろうか。小三治師ではないが、ニンなのだろうか、
ちょっと、引いたようなところ。
これが鼻につく、のかもしれない。

落語家ではないが、この人にも触れておかなくてはいけない。
神田松之丞さん。
今、知らない人は少なかろう。来年伯山を襲名し真打とのこと。
1983年生まれ、35歳。談志ファンを公言しているがあえて、
講談に入った。
TBSのラジオ寄席に出演るようになり、聞いていた。
確かに、この頃、上手かった。
今、チケットの最も取れない講談師。出演すぎか。
CDなどを聞いてみると、本(噺)によっては、だいぶアラが
目立つように感じる。若いので仕方がなかろう。これからも
変わっていくはず。勢いがあり、声、口跡がよいのはなにより
強みであろう。頭もよく、今後がたのしみ。

さて、さて、私にとっての東京落語界はこんな感じか。
なん度目かの落語ブームとかで「渋谷」など若い女性も聞きに
きているという。今回書いてきたことも含めて、江戸(東京)
落語の噺、コンテンツは時代が変わっても、世代が変わっても、
続いていくだけのクオリティー、普遍性を持っていると信じて
いる。もちろん過去、百年以上、談志師までの長い長い名人達の
積み重ねがある。若手も努力をしているのであろうし。
江戸(東京)落語は、変わりながらも続いていける。
希望的観測でもあるが。

そんなことで、現在、存命の落語家のことはここまで。

折角なので、過去の、音の残っている落語家達も書いておこう。
書いているように、過去の音も含めて、今の東京(江戸)落語と
いうべきだと思うからである。(存命の落語家は過去の師匠達と
戦わなければいけない。たいへんではあるが、意識して然るべき
であろう。)

信者なので、談志師は後に回そうか。

昭和の3名人と書いている三人から。
むろん、三遊亭円生(6代目)、古今亭志ん生(5代目)、
桂文楽(8代目)である。

今も寝る前、聞きながら寝ているのはこの3人。

三人三様、好きなのだが、私のNo.1といえば円生師である。

三人の中ではこの人が一番賢かったであろう。
三遊派トップとして、長い人情噺も抜群の聞きごたえ。
かといって、軽い噺も、不思議なおかしみがあって秀逸。

また持ちネタの数も、志ん生師も多いが、この人も多い。
須田先生なども書かれているが、世間的な評価は美人局
(つつもたせ)の噺で唄が入る「包丁」が高い。

 

 

もう少し、つづく

 

 

 


須田努著「三遊亭円朝と民衆世界」より

 

 

 

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