断腸亭料理日記2020

浅草・弁天山美家古寿司 その2

引き続き、浅草[弁天山美家古寿司]。

光物をにぎってもらい、海老をはさんで、白身に。
白身は、昆布〆の鯛と平目。
ここまで。

そして、かじきとしまあじ。

左がしまあじ。

親方が言っていたが、
この店で今日唯一の“仕事をしていない”種。

創業慶応2年(1866年)。
おそらく、現代まで続く鮨やの暖簾では、
最も古い店の一つといってよいと思われる。

冷蔵設備のなかった頃、にぎる種には、煮る、茹でる、〆る
など“仕事をする”のが当たり前であった。
ここはこの100年以上の歴史のある“仕事”を看板にしている。

ただ、そうはいっても、この店も変わってきている、
ように見える。

どちらがうまいのか、ということでよいのであろう。

変えた方がうまいものもあろう。
変えない方がうまいのであれば、続ければよい。

親方に聞くとかじきは、昆布〆とのこと。

私が、金沢や富山だったり、北陸では昆布〆にしますよね、
というと、親方は、そうなんです。私もあちらへ行って知って
いただいたんです、と、正直な方。

東京ではかじきは生で食べる習慣は今もないが、
北陸では伝統的にかじきが好まれてきた。
よく獲れたのであろう。
昆布〆は、かじきに限らず一般的な鯛などの白身はもちろん、
名物の鰤(ぶり)などでもする。

もともと、生のかじきもうまいのだが、
昆布〆はさらに濃厚。
これは流石であろう。

富山、金沢でもいろいろな技があろうが、
むろんのこと、この店流にしてある。

さて。

生のいかを忘れていたことに気が付いた。

生のいかは、もちろんすみいか。

厚い。
あまいのだが、この季節ちょいと硬い。

すみいかといういかは、一年しか生きない。
夏に生まれ、これが新いか。
8月、9月のこの、小さな子供のすみいかは柔らかく
応えられないうまさである。

それが段々に大きくなり、今が一番大きい。
東京の鮨やでも、この3月あたりから、すみいかは
使わなくなるところも多いが、ここはすみいか一本。

次。
ヅケのまぐろ。

よい塩梅。これも流石。

まぐろのヅケというのは、一説では、天保の頃
(1830年〜40年頭)馬喰町の鮨やで始めた

という。「守貞謾稿」という天保から幕末の風俗辞典にも
まぐろのしょうゆ漬けは出てくるので、幕末期には
一般的であったのであろう。
まぐろは鯛や平目に比べ下魚と呼ばれており、あまり
食べられなかったなどというが、これがまぐろが食べられて
いなかった本当の理由ではないのでは、なかろうか。
江戸っ子の初鰹好きは有名であったし、赤身を嫌ったとは
思えなかろう。実際には、まぐろは足が速く、常時流通するもの
ではなかった。つまり積極的に獲ってもいなかったと考える。
大量に獲れると塩漬けにし、庶民には出回っていたともいう。(前出)
幕末から明治、ヅケの一般化とともに、まぐろを狙って
獲るようになり、流通もするようになった。
そういうこと、なのではなかろうか。(私の仮説である。)
ただ、脂のあるトロを積極的に食べるようになったのは
大正期、日本橋の[吉野鮨]を待たなければならない。

ともあれ。

そろそろ、終盤。

玉子のみ。

これも、伝統のもの。江戸前を看板にしている鮨やにはある。
玉子だけでなく、白身魚を入れている。
玉子の方が貴重であった頃のものだが、今となっては
手間のかかるこちらの方が、高価である。

巻物。

かんぴょうと、鉄火。

かんぴょうは、わさびを入れますか、と親方。
もちろん、お願いする。

かんぴょうは濃い味。
わさび入りは、鉄砲などともいうが、定番。

今さらのことなのだが、海苔というものの味が、
やっとわかってきた。
これは自分でよい海苔を買って巻物やらおにぎりに
使うようになってからである。

かんぴょう巻は海苔のうまさがよくわかる。

鉄火。

ねぎは入っていないが、中トロあたりをちょいと
叩いたものではなかろうか。

ばかうま。
堪えられない。

ここまで。

いつもながら、うまい鮨を食べさせてもらった。

勘定は、二人で酒も入れて、2.5万。
つまみ3品、ビール二本、こんなものであろう。

ご馳走様でした。
今日も、おいしかったです。

 


弁天山美家古寿司

台東区浅草2-1-16
03-3844-0034

 

 

 

 

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