断腸亭料理日記2021

東京おでん

3949号

10月11日(日)第二食

さて、おでん、で、ある。
東京という冠を付けている。

少し前からおでんが食べたかった。

9月になると、おでん種などの売り上げが
増えると聞いたことがある。
もちろん、まだ暑いので、本格的に売れるわけでは
ないのだが、ちょっと気温が下がると、人は、
温かいものが食べたくなるようである。

で、東京おでん。

少し前から、地方のご当地おでんというのが
よくTVなどで取り上げられ、話題といってよい
だろう。

静岡、金沢はよく知られるようになったし、
名古屋は味噌おでん、京都、大阪の関東炊き。
最近は笹かまなど入る仙台。高松おでん、
香川のうどんやの多くにはおでんも売っている
という。そして屋台食文化の福岡。
また、とんこつの鹿児島おでん。そして、豚足が入る
沖縄おでん、などなど、各地に独特のおでんが
存在している。もはやブームといってよいだろう。

が、しかし、で、ある。
表題の東京おでん、というのはちっとも
話題にならない。

東京生まれの方も、若い方は知らないのだろう。
コンビニのおでんが既にあった時代に育てば
東京のおでんが、あれ、だと思っているかもしれぬ。

だが、そうではないのである。
おでんという食い物は、そもそも東京発祥である。

おでんは、豆腐などを焼いて味噌をつけて食べる
田楽が元であるが、これが明治になって、しょうゆで
煮込むおでんが主流になった。
生まれたのは、東京。
東京の煮ものなので、濃口しょうゆで、
真っ黒に煮込んだもの。 (紀文)

そして、その後。
東京おでんは大阪など関西へ伝播し薄味の関東煮(だき)
となった。そしてまた、関東大震災後、関西から東京に
大量に料理人が流入し、透明なつゆの関東煮も東京に
逆流してきた。

浅草の[大多福]

は震災前だが大正4年(1915年)創業 の老舗だが、初代は
大阪出身で透明なつゆ。逆流の例といってよろしかろう。
透明つゆおでんの東京での歴史も古いといってよいだろう。

ともあれ。
東京にはおでんの源流、しょうゆ味おでんが
あったのである。

いや、今も多くはないが、ある。
代表は、銀座や日本橋などにある[お多幸]

お多幸・断腸亭

しょうゆで煮〆て、真っ黒。
だが、これがうまい。

家庭でも、私の家も、ここまで黒くは
なかったが、やはり濃口しょうゆのみで
煮たものであった。出汁など取らない。
種から出るうまみが出汁なのである。

おでん種を買ってくる。

つみれ、すじ、豆腐、里芋水煮、ごぼう巻き、
がんもどき、それから、煮ていない種のセット。
どうも、大量に買ってきてしまう。

玉子も欲しい。
事前にゆでておく。

玉子だけ、先に鍋に入れ、しょうゆで煮ておく。

買ってきて、他のものも投入。

下に、半端になった昆布〆用の昆布の切れ端を一枚。
酒も入れない、濃口しょうゆとちょいと水だけ。

やっぱり量が多かった。セットはやめておこう。

30分ほど弱火で煮込む。

これでもう、味が染みる。
まあ、それだけ、濃くしてあるということ。

皿に取る。

豆腐、つみれ、里芋、すじ、ごぼう巻き。

ほんとは、燗酒、菊正なのだが、さすがに暑いので
ビール。

つゆが濃いので、どんどん染みてくる。

つゆから、あげておかなければいけない。
まあ、濃くなりすぎたら、水で薄めればよいのだが。

二皿目。

がんもどき。
深谷のねぎ入りというのがあったので、買ってきてみた。
おでんでは、がんもどきも書かせない。

おでんというのは、練り物と豆腐系、野菜の三種に
大きく分けられると思うが、田楽からの流れを
考えれば、練り物よりも、豆腐系、里芋などの
野菜が源流に近いのかもしれない。
もちろん、どちらもおでんに合った種である。

おでんは、江戸落語にもそう多くはないが、出てくる。
もっとも有名なのは志ん生師の「替わり目」であろう。
また、円生師の「ちきり伊勢屋」にもおでんの屋台が
出てくる。酒を呑んで、おでんをつまみ、茶飯を喰う。
先に書いたように、煮込みのおでんは明治初期に
一般化していると考えて、舞台は江戸だが、おでん部分は
明治になってから創作されたと考えるべきか。
(「替わり目」は人力車が出てくるので、明らかに
明治である。)

ともあれ、茶飯というのは、お茶の飯ではなく、
茶色の飯で、おでんのつゆで炊いたご飯のこと。
おでんやの決まりもので[お多幸]にもあった。
(今もあるか。)

 

 

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