断腸亭料理日記2022

東日本橋・あひ鴨一品・鳥安 その1

4221号

12月3日(土)夜

さて。

老舗鍋シリーズ?。

今回は東日本橋の[鳥安]。

“鳥”といっているが、鶏ではなく鴨、合鴨。

つまり、軍鶏鍋ではなく、鴨鍋。

これも江戸・東京伝統の、といってよい。
郷土食。

東京に郷土食などない、と思っている者も多いかもしれぬが
もちろん、そんなことはない。

にぎり鮨、うなぎ蒲焼、天ぷら、皆、江戸生まれか、
江戸で発展した料理。

鶏(軍鶏)以外にも鴨、合鴨、鶉雁(がん)あたりは、
江戸でもかなりあたり前に流通し、食べられていた。

「鷹将軍と鶴の味噌汁」菅豊

江戸当時、獣食禁止が建前でもあり、鳥食はたんぱく源という
意味もあったのであろう。

天然の鳥、野鳥もあり、また鶏、合鴨など、養殖もあり。
つまり、獲る人々があり、育てる人々があり、
流通させる人々があり、小売りする人々があり
料理する人々があり、食べる人々がたくさんいた。

ただし、一般町人よりはやはり中下級武士が食べることが
多かったよう。中下級武士でも食べられたので、超高級食
でもない。将軍家のお家芸、幕臣の表芸、鷹狩なども
少なからず背景にあったよう。

一方、池波先生が「鬼平」で書かれた、軍鶏鍋や「五鉄」。
落語にも出てくるが他の鳥ではなく、鶏、軍鶏鍋は庶民の
時たまの贅沢、夏に精を付けるものとして、馴染み深かった。

例えば、明治の頃でも、浅草の料理やのリストを見ると、
まだまだ、鳥、鶏、軍鶏鍋などを看板にする料理やは
今では考えられぬくらいの数にのぼることには驚かされる。

ただ、明治維新後、獣食の解禁とともに、ご存知の牛鍋
(牛すき焼き)の流行、明治終わりから大正の豚のカツレツ、
とんかつの流行など、牛、豚を盛んに食べるようになり、
押され、徐々に鳥食の習慣は東京から影を薄くしていった。

今日の[鳥安]、先日の神田須田町[ぼたん]、あるいは、
有名な人形町[玉ひで]などなど、今でも東京下町に、
いくつかの鳥・鶏料理やの老舗があるのはこうした江戸以来の
鳥食の名残。江戸・東京の郷土食といってよい。

さて[鳥安]。
ここは明治5年(1872年)創業。創業者は元秋田佐竹藩の
留守居役という。御一新を機に商売を始めた、ということ
なのであろう。
今年でなんと150年。

少し前から予約を取ろうとしていたのだが、なかなか
取れず、今日になった。

最寄は、都営浅草線の東日本橋だが、元浅草の拙亭からは
タクシー。浅草橋を渡れば東日本橋なので、意外に近い。

17時到着。

もう真っ暗。

門を入り、飛び石を踏み、玄関の格子を開ける。

ここは下足のお祖父さんではなく、着物姿のお姐さん
(若女将?)がいて、名乗る。

と、お待ちしておりました、と。

ここ、かなりちゃんとしている、のである。

靴は脱がずに、そのままエレベーター。
三階もあるが、今日は二階のよう。

お姐さんは階段を走って昇り二階へ。

ここで靴を脱いで、一番奥の部屋へ案内してくれる。

座敷に大きなお膳だが、掘りごたつ式。
いつも三階で二階はもしかして、初めて、かもしれぬ。
三階は、和モダンであるが、この部屋は襖に床の間でノーマルな和。

黒に赤いマット。ここは和モダン、コースターがかわいい。

料理は、合鴨すき焼きオンリー。
飲み物は、瓶ビールを。

前菜がくる。

箸は箸袋なしでコースターと同じ鳥安マークの紙の留め。割り箸ではなく割ってある。
かなり軽い正目。

月替わりなのか季節のもの。
左上、干柿のなます。玉ねぎ、にんじんを和えてあるのだが、
甘酸っぱいちょっと南蛮漬けのようなのがおもしろい。
右、鴨の燻製。芽葱にちょっと辛子。
右下もおもしろい。むかごの真薯(しんじょ)とのこと。
むかごは山芋の実。
真薯というと海老などを使ったすり身を揚げたもの、
なのであろうが、むかごの実も見える。
やっぱり、ちょっとさつま揚げのような感じ。
左下、八幡巻き。八幡巻きは牛蒡の巻物だが、
巻いているのは、鴨?鶏?肉。
中央は、鮭の麹漬け。

これはいつもの吸い物。

かわいい土鍋風の器。

三つ葉、ねぎ、なめこ。
白いのは、鴨ではなく、鶏のささ身。この形に成形しているので
あろう。上品。

焜炉(こんろ)がきた。

木の箱に組み入れられた使い込まれた鉄製。
真っ赤に熾きた炭。
鴨を焼くので相当な火力を長時間続けなければいけない。
真ん中に穴の開いたおが炭を使うところもあるが、
備長炭であろうか、ほんものの炭。

鍋もきた。

熱する。

 

つづく

 


鳥安

 

 

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