断腸亭料理日記2022

桜鍋・森下・みの家

4022号

1月30日(日)夕

さて、今日は、深川森下の桜鍋[みの家]。

なにか続くようだが、昨日は本所、今日は深川。

ほんとうは、先日の軍鶏鍋もそうだが、
桜鍋なども夏、食べるものであったが、
まあよいであろう。

ここも少人数では予約は受けない。
こんな時期なので、入れないことはあるまい。

16時頃元浅草の拙亭を出る。
森下であれば、大江戸線で一本。

森下は深川でも最北部。
徳川家康が江戸を本拠に決め、城下町を作り始めた頃には
まだ、隅田川(大川)の東側は、江戸の町ではなかった。
人口の増加とともに土地がなくなり、当時湿地であった
こちら側を埋め立て、城下町にしていった。
深川でも早い時期に街になったのがこのあたり。
そして、徐々に南、海側に埋め立てを進めていったのである。

このあたりのこと、以前やった町歩き講座を
ご参照されたい。

この界隈、今は、ちょっと裏に入ると、静かな郊外住宅地
といってもよいような街並みなのだが、
歴史をさかのぼると、なかなかおもしろい。

芭蕉庵があったり、先日の伊藤深水が生まれていたり。
また、本所側になるが、このすぐ北に東西に流れる堀、
堅川沿いに、塩原多助の炭問屋があった。
塩原多助というのは明治の巨人三遊亭圓朝師の
「塩原多助一代記」に
http://www.dancyotei.com/2019/apr/encyou10.html

描かれ、歌舞伎などにもなっているが、江戸後期の
豪商。
今はあまり想像できないが、商店街というのか、
数多くの大店が軒を連ねてもいたのである。
「鬼平」に出てくる弥勒寺のような大きなお寺もあり、
むろん、大店があれば裏長屋もある。また、岡場所
(私娼街)が数多くあったのも有名である。
まあ、繁華街といってもよかったと思われる。
街の雰囲気が変わったのは、最終的には戦災が大きかろう。
むろん、空襲では東京中が焼けたわけだが、
特に東側の本所深川は壊滅的であったのは周知のこと。
膨大な人命が失われたのはもちろんのこと、戦前のもの、
歴史的なものはこの地域にはほとんど残っていない。
建物はむろんのこと、丹念に探すと見つかる古い石碑や
石塔の類も今も残っているものは、石がボロボロになって
読むことも難しい。
こうしたことも心に留めなければいけなかろう。

閑話休題。
桜鍋[みの家]。

そんなことで、この建物も、戦後の建築。

ここの創業は明治30年(1897年)という。
東京の桜鍋の老舗というと、ここと吉原大門前にある
二軒が挙げられると思う。
どうも明治から、大正の頃、馬肉の鍋、桜鍋がたいそう
流行ったのである。昔の地図を見ると、吉原大門前の
土手沿いには二軒どころではなく、まさに軒並み、
桜鍋やであった。
まあ、吉原に繰り込むのに、馬力を付けよう、なんという
下世話なことであったのだが。
ただ、なんでこの時期桜鍋が流行ったのであろうか。
私も理由はわからない。
書いている通り、江戸から続く、鶏、鳥食の習慣は
続いていたわけだが、明治になり、牛鍋(今のすき焼き)
が流行り、その後、ということにはなろう。
日清、日露の戦後で、日本が豊かになり始めた時期
ではあるが直接は関係なさそうである。

ともあれ、あがって、奥の入れ込みに案内される。

ここは、いろんなものが名入り。

瓶ビールと鍋二人前、それからちょいとつまみたくなった、
べったら漬けを頼む。

いつもある大きなお酉様の熊手。

べったら漬け。

大根の甘い麹漬けだが、東京の冬の味覚であろう。

桜鍋。

黒い味噌と割り下。

ねぎなどのザク。

やはり、白滝は細く、ねぎは太く立派。

猪肉は、長く煮なければいけないが、馬肉は反対。
火が通ったら、すぐに食べなければいけない。
硬くなり、小さくなる。

今日は、お替りももらおう。
ひれ。

馬のひれ、というのが牛や豚と同じ部位なのか、謎だが、
ロースよりも脂が少ないのか。

お酒ぬる燗。

白鶴だが、ここもメーカーのガラス瓶入り。

終盤はこんな状態。この、馬の脂が溶け、くろーくて
甘い味噌がまたたまらなく、よいのである。

これはもう、飯しかあるまい。

飯を頼み、味噌のたれ、残して置いた肉、
残った玉子もぶっかける。

まさに、堪えられないうまさ。

この味噌、なんであろうか。
東京伝統の、例の江戸甘味噌

で、あろうか。
東京の老舗では使っているところもある。
味は、ちょうど八丁味噌と白味噌を1:1で
合わせたものとほぼ同じ。素人にはわからない。
従って、結論はわからない。

ともあれ、うまかった。
勘定は、ビール二本、酒を入れて二人で
10,380円也。
こんなもの、であるが、やっぱり安くない。

 

みの家

 

 

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