断腸亭料理日記2006

蛤の湯豆腐

1月4日(水)夜

仕事始めは、明日、5日である。

正月用に買っておいた、蛤(はまぐり)、まだ食べていなかった。
蛤は、正月の吸い物用、である。

今、蛤は一般に、正月の吸い物として、定着しているといって
よいのであろう。

もともと、貝類は、春から初夏が旬、であるものが多い。
蛤も真夏が産卵期で、それ以前。春のもの。
とりわけ、ひな祭りのもの、ということになっている。
そして、そのひな祭りの前の、めでたい行事の新春、にも登場する、と、
いうことになったのか、、。
あるいは、雑煮に入れるところもあるようである。
このあたりからであろうか。

ともあれ、実際には、これらは旧暦であろうから、今でいうと、
正月は2月で、ひな祭りは4月。
今の正月は蛤の旬、というには、早い時期である。

昨年も1月に食べている。

蛤といえば、湯豆腐、である。
もちろん、吸い物(潮汁)でもよい。

池波正太郎先生の好物、で、あった。

「池波正太郎 食卓の情景」新潮文庫など、エッセーにもよく登場する。

先生は、この蛤の吸い物、もしくは、湯豆腐で酒を呑む。
湯豆腐はともかく、吸い物で酒が呑める、というのが、少し不思議であった。

汁物は飯とともに出され、酒を呑んだ後、と、決まっている。
汁で酒が呑めるものであろうか、と、いうことである。

しかし、真似をしてやってみると、
これが、また、酒、とくに、日本酒に、まったくよく合う。
うまいことおびただしい。

さて、これは、昨年同様小鍋立て。
ステンレスの小鍋を、用意する。
別に、土鍋でもよいのであるが、蛤の色と合うような気がする。

これも、火鉢、で、ある。
炭を増やし、熱くする。

貝を入れ、蓋をする。
しばらく、煮る。

、、、、、、?、、ん?

煮立っているのであるが、貝が開かない。

うーむ。暮れに買ったもので、死んでしまったのか、、。

火鉢から、ガスレンジへ移し、強火で加熱してみる。
と、開くものもあるが、やはり半分くらいは、開かない。

開いたものだけを入れ直し、火鉢に戻り、
豆腐を入れ、とりあえず、始める。


今年の青みは、これも雑煮の余りの三つ葉、で、ある。

しょうゆや、薬味なども一切使わない。
味付けは、塩のみ。
これで、充分である。

汁、貝、豆腐、三つ葉。
これで、酒を呑む。

小鍋で煮るせいであろうか、つゆはとても濃厚に、なる。
しょうゆ味や、他の薬味など、まったく余計である。

筆者はやったことはないが、先の池波先生の「食卓の情景」では、
大根を薄く切ったものも入れる。
「豆腐が、ふっくらとおいしく煮える」、ということである。

さて、開かなかった、蛤。
もったいないので、開けてみることにする。

拙亭には、牡蠣用に買った、貝を開ける小刀がある。
さほどに変わったものではない。
細い、切り出し、のようなものである。
この切っ先を、かすかに開いた貝の口に差し込んで、
開けてみる。
なんなく開く。
見たところ、ちょっと、“弱っている”ようにも見えるが、
さほど、問題はなさそうである。
火も通っているので、食べてみると、別段なんということもない。
もったいないので、全部開け、鍋に戻し、食べてしまった。

じゅうぶんに、うまかった。
外は寒い冬であるが、春の味、で、ある。



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