断腸亭料理日記2009

蛤の湯豆腐、、長火鉢、で。 その1

池波レシピベスト10

1月11日(日)夜

昨日、いつもの、菊屋橋の豆腐やで、木綿豆腐を買ってあった。

うまい豆腐、で、ある。

特段のあて、が、あったわけではない。
なににしようか。

うまい豆腐なので、奴でもいいのだが、
さすがに、寒い。

湯豆腐?

おお!、そうである。
湯豆腐だったら、蛤を入れよう。

蛤の湯豆腐。

これは“うまいことおびただしい”、ので、ある。

これぞ、池波レシピ。

私が池波正太郎先生の小説やエッセイに登場する
料理を再現してきた
わけであるが、どれが一番うまいか。

蛤の湯豆腐はそうとうまいのだが、
池波レシピの中で、順位をつけるとすると、どうであろうか。

そういえば、今までこんなことは考えたことがなかった。

しかし、実際には、
これはあまり意味のないこと、ではあるとは思う。

なぜか。

それは、池波レシピの本質に関わることである。

先生は、作品の中で、季節感を表現するために
食い物を使う、とおっしゃっていた。

そのものを食べる場所、食べる人、作る人、
そういう、もろもろの背景のなかで、初めて
その料理のうまさが、現れる、のである。

これは、なにも小説の世界だけの話ではない。
食い物、特に、日本の食い物は、季節、あるいは、旬、というものと
切っても切れない関係にあることは、
私が、改めてここに書くこともなく、皆さんも
納得されよう。

真冬でも今はむろん、きゅうりは売っており、
いくらでも食べることができるが、
実際にうまいかまずいか、ということ以前に、
うまそうな、感じが露ほどもしない。
和食の料理としては、真冬にきゅうりは断じて、ありえない。
これは日本人としての、季節感の問題である。

きゅうりもみでも、酢のものでも、なんでもよいのだが
あれは、真夏。
たとえば、夕方になって、風鈴の音などが聞こえて、
縁側であろうか、蚊取り線香の薄い煙が漂い、
浴衣なんぞを着て、
わかめと、きゅうりの酢の物で、冷や酒をやる。
そういうものである。

魚でも、然(しか)り。

やっぱり、秋刀魚は秋口。
子供の夏休みが終わって、9月の声を聞くか聞かないか、、
そんな頃が、秋刀魚の晴れ舞台、と、いうものである。

季節感だけではない。
日本には、風土というものがある。
その土地で採れる野菜類、その海で獲れる魚介類。
これはもともとは、その土地固有の食事と
切っても切れないものであった。

また、誰が作るのか。
誰のために作るのか。
どのくらいの手間と時間をかけて作るのか。
そういうことによって、食いものは規定されている。

そういう背景も含めて、うまい、ということなのである。

背景はまったくなしで、レシピと材料だけ切り出し、
物を作って、食って、うまいか、というのは、
まったくナンセンス、なのである。

(では、絶対値として、切り出しても、うまいもの、と
いうのは、この世に存在するのか?という議論になるのだが、
今日は、それは置いておいて。)

年がら年中、ハンバーガーを食べて不足を感じない、
どこやらの国の人々と比べると、
まったくもって、日本人というのは、
想像力豊かな、民族、で、ある。
(むろん、ハンバーガーも昨日書いたように、
うまいものではあるが。)

この想像力を日本人は決して失くしてはいけない。
むろん、真冬でも、きゅうりは食えるが、
それはかりそめのものであることを、常に考えて
食べるべきである。

と、まあ、私の主張は主張として、
そういった、もろもろも込み、に、して、
池波レシピに順位をつけてみると、どうなるか、
ということをやってみよう、というわけである。

10位 里芋と葱の含め煮

9位 鰈の煮付け

8位 鯵の煮びたし

7位 ポテトフライ

6位 大根鍋

5位 浦里

4位 鴨飯(かき混ぜバージョン)

3位 蛤の湯豆腐

2位 しょうゆだけの鴨鍋

1位 軍鶏鍋

※それぞれの内容については「池波正太郎レシピ」をご参照。

断っておくが、いうまでもなく、これは、
私の、順位である。
池波ファンには、皆様それぞれの順位があるだろう。
それでよいのである。

実際にやってみて、結局、池波レシピに順位を付けるというのも、
作品と無縁ではない、ということになった。

1位の軍鶏鍋は、やはり、鬼平といえば、五鉄の軍鶏鍋。
これしかないであろう。
おそらく、これは皆さんご納得できよう。

2位のしょうゆだけの鴨鍋であるが、
これは先日、正月に食べたものである。

2006年

鴨、というのは、うまい。
中でも、このしょうゆだけ、というのは
最もうまいのではと、今、思っている。
そういう意味では、作品の中での位置付け
というよりは、絶対値として、うまい、という
ものかもしれない。

で、3位が今日の、蛤の湯豆腐。

理由の一つは、おつゆ、吸い物で、酒が呑める、
と、いうことを教えてもらった、ということ。

また、蛤の存在感である。
蛤は正月料理、でもあるし、
雛祭りでも昔から使われている。

民俗学的にいうと、日本人にとって、儀礼食的な
位置付けにあるといってもよいのかもしれない。
つまり、祝いの食材という。

蛤は、浅利や蜆と同じように馴染みの深い貝でありながら
そういう特別な位置にもあった貝である。

こうした蛤の存在感。

以上のような理由で、3位のポジションを
獲得、ということである。


と、いったようなことでだいぶ長くなった。
二週にわたるが、続きは、次回。




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