断腸亭料理日記2009

並木藪蕎麦

11月20日(金)夜

金曜。

あわただしい一週間が終わった。

今日ぐらい早く帰ってもいいだろう。
夕方からなにを食べようか考えていたのだが、
並木藪の、天ぬき。

日も短くなり、だいぶ寒い。
寒がりの私は、既にコートを着ている。

温かい天ぬきで、一杯。

これがよさそうだ。

池の端藪の天ぬきもいいが、やはり天ぬきなら、
濃いつゆの、並木藪が好みである。

だが、ウイークデーに並木藪へいくことはあまりない。
閉店が、7時半と早く、また元浅草の拙亭より
帰り道としては遠方になる。
それで、仕事帰りの場合は、帰り道の途中の
池の端藪、になる。

6時半前、オフィスを出る。

牛込神楽坂から大江戸線に乗り、
上野御徒町で銀座線に乗り換え、上野、稲荷町、田原町、浅草。
降りて、雷門通りの南側の出口から、地上に上がる。

まぐろ人の立ち喰い。
にぎわっている。

雷門前、向う側に渡り、左へ。

真っ直ぐ歩いて、並木藪。

7時すぎには、着いた。

格子を開けて入ると、
だいぶにぎわっている。
小上がりの座敷も一杯。

テーブル席に、相席で座る。

座ると、お姐さんが新聞を置いてくれる。

お姐さんは、11月から、鴨もはじめていますので、
鴨ぬきもできますが、と、いってくれるが、
やはり、予定通り、お酒お燗と、天ぬきを。

そういえば、ここの鴨は、わりに有名だが、私は食べたことがない。
いや、鴨どころではない。最近のこの日記を
読み返してみると、天ぬきとざるの組合せ以外、
頼んでいない。
いうところの、判で押したような、というやつである。
私の場合、どうも、特定の店で、気に入ると、
それだけに決めてしまう、というのがよくある。

ともあれ。

スポーツ新聞を眺めながら、待つ。

待っている間にも、お客が入り、
同じテーブルに、相席。

酒がきた。


そば味噌をなめながら、一杯、二杯。

待ってました、天ぬき。


この、薬味もなにもない、芝海老のかき揚げが、
つゆにそのままひたっているだけ。
飾り気がないのがこの店らしい。

れんげでくずしながら、つゆとともに、すする。

どうして、天ぬきというのは、
こうもうまいのであろうか。
天ぬきというのは、そもそも、天ぷらの衣が、
つゆにひたって柔らかくなっているのがうまい、のである。
では、衣だけ、つまり、天かす、だけを
つゆにひたしたもの、でもよいようなものだが、
さすがにそれでは、一品の料理にはならない。
やっぱり、芝海老がなければ、さびしい、ではないか。

酒を呑みながら、つゆも、呑む。
つゆで、酒を呑む、というのも、
また、よいもの、で、ある。

夢中で、食べ、呑む。

つゆも全部飲み干す。

寒かったが、酒と温かい天ぬきで、薄汗も出てくる。

仕上げは、ざる。


日本一の濃いつゆ。
ほんのちょいと、そばの先をつゆにひたし、
たぐる。

うまかった、うまかった。
お勘定。

これからの季節、並木藪の天ぬきで、一杯、
なにものにも代えがたいもの、で、ある。



並木藪蕎麦

TEL:03-3841-1340
住所:〒111-0034 東京都台東区雷門2丁目11−9





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