断腸亭料理日記2009

池の端藪蕎麦

10月30日(金)夜

今週もタフな一週間であった。
仙台、名古屋・大阪のとんぼ返りの出張が二回。

霞ヶ関方面への掛け合い。
大事な会議が一つ。
その他、いろいろ。

やっと終わった、という感じの金曜。

今日は、もう、6時すぎに、オフィスを出る。

どこへ行こうか。

久しぶりに、池の端藪。

3月

7月

6時20分頃、オフィスを出る。

牛込神楽坂駅まで歩く。
この時間はもう真っ暗。

秋の日は釣瓶(つるべ)落とし、などというが、
日が短くなったものである。
まあ、もう、11月になる。
今年も、もうわずか。

上野御徒町で降りて、広小路、池之端側の
地上に出る。

路地をくねくねと抜けて、池之端仲通り。
左に曲がって、左側。

7時前。

緑のある入り口。
格子を開けて、入る。

だいぶにぎわっている。

一人、と、いうと、
座敷の窓際があいていた。

この座敷は、往年の噺家の寄せ書きの
おさまっている額の前の、一番奥もいいが、
やっぱり、緑の見える窓際が最も落ち着ける。

靴を脱いで上がり、胡坐をかく。

日は短いが、今日などもまだ寒くはない。
テクテク歩いてくると、薄汗も出てくる。

で、やっぱりビール。


恵比寿の中瓶。

つまみは、なににしようか。
秋になり、少し前から、食べたくなっていた、
天ぬき。

天ぬきとは、天ぷらそばの、そば“ぬき”。

つまり、芝海老のかき揚げのがおつゆに浮いている、
と、いうもの。

一般には、天ぬきは、ふつうのそばつゆが多い。
同じ藪でも雷門の並木などもそうである。
しかし、ここのは、澄んだつゆ。

そば味噌をなめながら、ビール。

ややあって、天ぬきがきた。


天ぬき、と、いうのは、考えてみれば、
不思議な食い物、で、ある。
それも、これをつまみに、呑もう、なんというのは、
誰が考えた、のであろうか。

だいたいにおいて、天ぷらそば、と、いうのは、
毎度書いているが、天ぷらがつゆに入って、
衣がサクサクではなく、ふにゃふにゃ、
溶け出すくらいのものが、また、うまい、のである。

路麺(立ち喰いそば)などは天ぷらだけで、なん種類も
揃えているが、これはやはり、それを裏付けていよう。

つまり、天ぬきは、そのふにゃふにゃを、
あえて作り出すことを、目的にした食い物、
と、いえるだろう。

広い意味でも東京の甘辛いしょうゆだれをたっぷりとかける
あるいは、かき揚げ自体をタレにくぐらせる、天丼も
広い意味では、そのふにゃふにゃを狙っているともいえよう。

さらに、これは、関東人の味覚のような気もするが、
そのふにゃふにゃも、並木藪のような、
しょうゆ味の方が、よりうまい、とは思われる。

しかし、澄んだここのつゆも、またよい。

つゆを飲みながら、喰い、かつ、ゆっくり呑む。

食い終わり、
そばは、迷ったのだが、ノーマルなざるに。


気持ちのよいのど越し。

幸せ、で、ある。

勘定をして、

「ありがとうございまぁ〜す。」

の声に送られて、出る。

うまかた、うまかった。

一週間の疲れが取れるよう、で、ある。




池の端藪蕎麦





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