断腸亭料理日記2010

顔見世大歌舞伎

天衣紛上野初花 その1

11月22日(月)昼

飛び石になった月曜日、休みを取った。

久しぶりに、芝居、で、ある。
歌舞伎を観に行く。

休みは、少し前から取ろうと思っており、
ウイークデー、休むのであれば、観に行こう、
と、思っていたのである。

昼がよいか、夜がよいか。
調べてみると、ご存知の通り、歌舞伎座は今は建替え中で、
やっているのは、新橋演舞場。
演目は、昼は「天衣紛上野初花」(くもにまごううえののはつはな)、
河内山(こうちやま)と直侍(なおざむらい)、の通し狂言。
ほう、これはよい。
決めた。

事前に、Webでチケットを取る。
ウイークデーだからか、好きなところが、取れる。
一度、座ってみたかったのが、花道の脇。
役者が一番近くで見えるであろうと考えた。
その前の方の席をおさえる。

昼の部の開演は11時。
9時に起きれば大丈夫と思って、目覚まし時計を掛けて
起きるには起きたのだが、既に生活は連休モードで
ぐずぐずしている内に10時になってしまう。
あわてて着物を着始める。
羽織は、一昨日『講座』で着た紬。
着物は紺のウールの細かい縞もの。
なにか食べてから出ようと思っていたのだが、
そのまま。

天気はどうも、今は降っていないようだが、予報では雨模様。
下駄でいくか。

昨日、いつも世話になっている、ひさご通りの、まつもと
という履物やに雪駄の裏を直してもらいにいったのだが、
「大事に履いてますね」と、いわれたところであった。
濡れるのは大敵だという。

白足袋を履いて、下駄。
下駄は、あまり履いていなかったものだが
細身の角ばったもの。

傘を持って出る。

大江戸線の新御徒町から乗って、築地市場まで。
車内は、飛び石の真ん中で、すいている。

築地市場で降りて、銀座方向に戻り、最初の路地を
右に入ると、もう新橋演舞場は目の前。

路地を入っていくと、ん?
弁当を売っている。

よく見ると、旗を立てて、木挽町辨松、と、してある。
歌舞伎座の前に店があったのだが、
改築中のため、臨時に道端で売っているよう。
いつも、ここのものを買っていたので、よかった。
赤飯の入った1000円に満たぬものを購入。
(中で売っているものは値段が張るばかりである。)

この路地、今、気が付いたのだが、一番奥の、演舞場前は
料亭の金田中、で、あった。
昨日まで書いてきた、新橋花柳界に含まれる料亭で
現代も営業しているところの一つ、で、ある。

入口で、予約してあるチケットを取り出し、入る。
バタバタ出てきてしまったが、既に開演10分前。
プログラムだけを買って、席に急ぐ。

舞台から前から4〜5列目で、花道の際。

きてみると、あれま。

花道の際というのは、通路から
一番奥であった。

既に席に着かれている皆さんに迷惑をかけてしまう。

すみません、すみません、と、いいながら、中へ入る。

と、間もなく、幕が開く。

ここで、外題と配役を書き抜いておく。

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河竹黙阿弥作

通し狂言

  天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)

  河内山と直侍

   序 幕 湯島天神境内の場

       上州屋見世先の場

   二幕目 大口楼廻し部屋の場

       同 三千歳部屋の場

       吉原田圃根岸道の場

   三幕目 松江邸広間の場

       同 書院の場

       同 玄関先の場

   四幕目 入谷村蕎麦屋の場

       大口屋寮の場

        浄瑠璃「忍逢春雪解」

   大 詰 池の端河内山妾宅の場

                 河内山宗俊    幸四郎

                   三千歳    時 蔵

                 金子市之丞    段四郎

                 松江出雲守    錦之助

                  宮崎数馬    高麗蔵

                  腰元浪路    梅 枝

                  北村大膳    錦 吾

                   おみつ    萬次郎

                 暗闇の丑松    團 蔵

                和泉屋清兵衛    友右衛門

                高木小左衛門    彦三郎

                 後家おまき    秀太郎

                  按摩丈賀    田之助

                 片岡直次郎    菊五郎

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11時開演で、4時前までの長丁場。
「天衣紛上野初花」が通し、で、上演される。

作は、上にあるように、河竹黙阿弥。
1881年(明治14年)初演。
初演時には、河内山を九代目團十郎、直次郎を五代目菊五郎を演じ、
大当たりであったという。
もともとは、講談のねたで「天保六歌撰」。

この後、歌舞伎以外にも、映画、TVの時代劇などで、
河内山宗俊を扱ったものは多数ある。

河内山宗春は実在の人物である。

実在の方は宗俊ではなく「春」である。
時代は、文化文政の頃、江戸城の茶坊主で、いわゆる同朋衆であった。
芝居にあるように、強請、たかりで、
捕えられ、1823年(文政6年)に獄死している。

江戸を舞台にした、いわゆる世話物だが、
明治になってからの初演。

河竹黙阿弥という人は、1816年(文化13年)の生まれで
1893年(明治26年)に77歳で亡くなっている。
浅草猿若町に芝居があった頃。幕末から明治にかけての人、
なのだが、実際には明治になってもたくさんの作品を残している。

最も有名なのは「しらざあいって聞かせやしょう」の
『青砥稿花紅彩画』(白浪五人男)であろうか。
これは観た。

泥棒を扱った、白浪もので、七五調の美文の台詞が名物。
白浪ものと、七五調は黙阿弥の代名詞といってもよかろう。

あるいは、『三人吉三廓初買』、、、月も朧に白魚の、で、ある。

この作品の河内山や直侍は泥棒ではないが、悪人。
黙阿弥得意の、美文の台詞も十分に登場する。

配役は河内山は幸四郎で、直侍が菊五郎。
初演は團菊の組み合わせで当たったが、今回は直侍が菊五郎。

世話物で、江戸の風情をきれいに描き、台詞もきれいで、
現代人にもわかりやすい。
黙阿弥の作品はそういう位置付けになるかもしれない。

とまあ、そんな予備知識で、芝居が始まったわけである。



明日につづく。



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