断腸亭料理日記2010

駒形・どぜう

10月6日(水)夜

さて。

駒形のどぜう、で、ある。

今日は7時すぎ、仕事を引けて、帰り道、
寄ることにした。

なぜ、どぜう?。

いや、なんということはないのだが、
昨日配信の野田岩を書いていて、
食べたくなった、のである。

どうも、あの、丸ごとのどじょうを鍋にした
丸鍋の、ねぎがしょうゆで煮えた匂いを思い出すと、
無性に食べたくなる。

大江戸線を新御徒町から一駅、蔵前まで乗り越し、降りる。

大江戸線の蔵前駅は春日通り沿いにあるが、
ここから、裏通りづたいに、バンダイ本社の裏を通り、
駒形どぜう、までくる。

駒形どぜうの建物は、昔風の木造のがっしりした建物。
戦災にも遭っているというので、戦後にわざわざ
昔に近いものを建て直したのであろう。
板塀があり、角に柳の木。
夜はこの建物をライトアップしている。
なかなか、心憎い演出である。

表へまわり、重い開き戸を開ける。

ウイークエンドは、はとバスのお客で
満員だが、ウイークデーのこの時間は、並ぶこともなく、
楽に座れる。

下足のお兄さんに1人といい、木の下足札をもらい、
上がる。

「一番奥へ」と、案内される。

お膳代わりの桜の一枚板が奥に向かって
なん列も並び、皆、めいめいに焜炉(こんろ)のどぜう鍋を
突いている。

座布団は、七割方埋まっている。
お客とすれば、このくらいが、ちょうどよいだろう。
ギュウギュウはくるしいし、スカスカも、寂しい。

奥の壁際へ。
ここは、入れ込みの座敷で、お膳もないので
胡坐をかいて座った場合、前かがみになるので、けっこう、
座り疲れるのである。背中が壁だと、ありがたい。

奥の壁を背にして座ると、店全体が見渡せて、
これもよい。

座って、まずは、ビール。

そして、迷うことなく、丸鍋、と、お姐さんに頼む。

丸鍋、というのは、通称で、この店での名前は
どじょう鍋だが、これで通じる。
おそらく、東京になん軒かある、どじょうやでは
皆、通じるであろう。

昔から、この丸のままのどじょうの鍋は、
丸鍋といっていた。

ビールをついで、呑み、一息ついていると、
目の前の桜板に炭の熾った焜炉が運ばれ、
丸鍋がのせられる。
丸鍋というのは、底の薄い鍋にどじょうがびっしりと並べられ、
つゆにひたっている。

そして、割り下が置かれる。
刻んだねぎと薬味の入った白木の箱もくる。

はい、はい。
待ってました。

と、菜箸でねぎを鍋のどじょうの上に山盛りにのせる。


鍋が温まり、どじょうも温まる。
ねぎはもう少し時間がかかるが、どじょうは、
下拵えはすんでおり、火も通っているので、
先に、つまむ。

ねぎも早く煮えるように、どじょうを少しよけて、
ねぎの場所を作り、煮る。

この、しょうゆの割り下で煮えたねぎが、
また、格別に、うまい、のである。

ねぎをしょうゆで煮ただけ、ではなかろう。
おそらく、この割り下の味加減が絶妙、なのである。
甘くなく、さりとて、しょうゆだけでもなく、、、。

この丸鍋は、ひょっとすると、このねぎが、主人公なのでは、
と、思うほど、うまい。

どじょう一匹と、煮えたねぎを口に運ぶ。
ねぎがなくなってくると、足す。

つゆも煮詰まってくるので、割り下も
足す。

ねぎを足しては食べ、割り下も足す。

はふ、はふ、と、口に運ぶ。

汗もかいてきた。

一枚食べ終わり、おかわり!。

もう一枚。

冷酒を一合だけ、もらう。


この猪口、ちょいと、乙、ではないか。

箱の中のねぎ、全部ではないが、
2枚の丸鍋とともに、あらかた食べてしまった。

昔、売れない芸人は、一枚の鍋で、腹を一杯にするために、
ねぎばかり食べていた、なんというが、
そんな感じではある。

ねぎがうまいのだから、仕方がないではないか。

うまかった。

と、グラスに入った氷入りのお冷(ひや)を、頼んでもいないが、
持ってきてくれた。
行き届いたものである。

一気に飲んで、勘定。

ここは、座ったまま、下足札を渡し、勘定をする。
勘定を済むと、番号は同じだが下足札は裏に『代済』と、
書かれたものに変わって、帰ってくる。

これを持って立ち上がる。

下足で、靴を用意してもらい、
戸を開けて、出る。

気持ちのよい爽やかな夜である。
ぶらぶら歩いて、元浅草まで、帰宅。


よいもの、で、ある。




駒形どぜう






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