断腸亭料理日記2012

大根と油揚げの鍋

11月27日(火)

今日は天気はよかったが、寒い。

日が沈むのも早い。
5時になれば真っ暗。

なにを食べよう。

鍋。それも、ちょっとこのところ、食べすぎぎみ、なので、
大根の鍋、に、しようか。

大根の鍋は、私もなんどもやっているが、
かの、池波レシピ。

池波正太郎先生自身がお好きであったから、
なのだろうが、エッセイにも、小説にも、よく出てくる。

池波先生の人気3シリーズの中でも、仕掛人藤枝梅安に
出てくるものが、印象的。

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 「ま一つ、こんなものでもよければ、いっしょに箸を入れながら、

 話し合いましょう」

 畳に部厚い桜材の板を置き、その上の焜炉(こんろ)に

 土鍋が懸かっている。

 ぶつ切りにした大根と油揚げの細切り。それに鶏の皮と脂身を、

 これも細切りにし、薄目の出汁をたっぷり張った鍋で煮ながら食べる。


池波正太郎『梅安針供養―仕掛人・藤枝梅安』 (講談社文庫)



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仕掛人シリーズはTV化もなん回もされているが、
鬼平、剣客シリーズよりは多少マイナーかもしれぬ。

池波先生が作り出した“仕掛人”という殺し屋の
キャラクターだが、お話全体とすればダークな部分があり
マニアックなシリーズなのかもしれない。

針医者でもある仕掛人の梅安が主人公だが、
一人で暮らしている、ということもあり、
出てくる料理は、梅安が作る男の料理が多い。

この、大根の鍋、というのもそう。

品川台町の針医院兼、梅安の住まいに一人訪ねてきた、
元香具師(やし)の元締め、萱野の亀右衛門老人と二人、この鍋を囲む。

入るものは大根と油揚げ。
だしは、鶏皮。

池波先生の持論でもあったが、江戸・東京の下町の鍋と
いうのは、基本、シンプル。

野菜一種と魚、肉どちらか一種。

例えば、どぜう鍋はどぜうとねぎだけ。
軍鶏鍋はレバーなどを含んだ鶏肉と笹がき牛蒡(ごぼう)。
このあたりが、原型、で、あろう。

ごちゃごちゃといろんなものを入れる、寄せ鍋はだめ。

シンプルのよさは、一つ一つの素材に集中できる、
と、いうこと。

この鍋は大根を食べる鍋。

今、大根も安い。
帰り道、いつものハナマサに寄って、大根一本、
それから鶏皮、油揚げ。

これだけ。

帰宅。

スーツを脱いで、丹前に着替える。

この鍋には、やはり燗酒。

炭を熾す。

炭は、先週の土曜、毎年買っている合羽橋道具街の
裏通りにある炭や、斉藤商店で“岩手切炭6kg”を
この冬分、二袋買ってきた。

いつもは、12月に入ってから買っていたが、
今年は数週間早い。

まずは火熾しに炭を2、3入れてガスコンロにかける。

同時進行で大根を切る。
時間があれば、厚めの銀杏切り、でもいいのだが、
今日はむろん、すぐに食べたいので、煮えやすい千六本(千切り)。

大根を長さ5〜6cmに切り、皮をむく。
ここから縦に板状に切り、さらに長手方向に
細く切る。

こうすると、大根の繊維方向に長くなる。
大根の千六本はこちらの方が、普通であろう。

炭。
ある程度熾ったら、火鉢へ。

お燗が早くつくように鉄瓶もガスに掛けておく。

油揚げ。
これも短冊に切る。

鶏皮。
これは洗って、だし、なので、細かく切る。

土鍋に水を張り、先に鶏皮、大根を入れる。

煮立ったら、油揚げも。
お燗の方は火鉢、で、あるが、鍋の方はカセットコンロ。

本当なら、鍋とお燗つけ、が、一つでできる、銅壷つきの長火鉢
がよく、このためにこれらを数年前に入手したのだが、
銅壷から水が漏り、このところは使っていない。
(金属製品の修繕をしてくれるところを見つけたので、
今度相談してみよう。)

熱くなった鉄瓶を火鉢へ。

卓袱台にカセットコンロを用意。
大根に火が通った土鍋も移動。

それから、取り皿と箸としょうゆ。

菊正宗と一合徳利、猪口も用意。

追加用の大根と油揚げ、鶏皮を盛った皿も運ぶ。

OK。
これで、すべて準備完了。
後はもう、座ったまんまで呑み食いができる。

徳利に酒を入れ、燗をつける。


鍋の方。


大根の千六本と油揚げ、鶏皮のだし。
ほんとうに、それだけ。

燗もついた。

大根と油揚げにはしょうゆだけ。


こんなもの、と、思われるかもしれぬが、
これがべら棒にうまい、のである。

いくらでも食べられる。

酒も、うまい。

煮ては食べ、また足して煮えたら、食べる。

酒と大根で、身体も温まる。

よいもんである。






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