断腸亭料理日記2013

芋茎と油揚げの煮たの

4月9日(火)夜

なぜであろうか。

理由はよくわからぬが、今日は芋茎(ずいき)を食べようと
思い立った。

芋茎というものをご存知の方はどのくらいいるのであろうか。

芋茎、書いて字の通り、芋の茎(くき)。
芋がら、などともいう。

芋といっても、じゃが芋でもさつま芋でもなく、
里芋。

我々よりも若い世代で、東京など街で育った人は
やはり知らない人の方が多いのではあるまいか。

いや、ひょっとすると、里芋そのものが、どんな風に生えている
野菜なのか、知らない人もいるかもしれない。

畑で育っている、里芋、で、ある。

私の育った東京郊外では子供の頃はまだ里芋の畑は残っていた。
これが思い浮かばないと芋茎はわからない。

大きな葉。それを支えている茎。

これが芋茎。

生を料理することもあるが、乾燥したものもある。
東京などで売られているのは圧倒的に乾燥したもの。

芋がら、として、子供の頃から知ってはいた。
しかし、昭和ひとけた生まれの親などは、食べ物がなかった
戦争中の記憶があるせいか、代用食というのか、
あまりよい思い出はがなかったからか、
食卓に登ることもなく、食べた記憶はなかった。

食べるようになったきっかけは、これも
池波作品からである。

作品は『剣客商売』狂乱。

秋のある日、秋山小兵衛が浅草・元鳥越の
牛堀久万之助道場を柄樽を持って、訪れる。
老僕の権兵衛が、軽い中食(ちゅうじき)を出す。

***

にぎりめしへ味噌をまぶしたのを、さっと焙(あぶ)ったものと、

芋茎と油揚げを煮た一鉢。塩漬けの秋茄子などの簡素な中食であったが、

(中略)

「うまいぞ、権ちゃん」

「あれ、また、権ちゃんといいなさると」

「お前のような人に食べるものの世話をしてもらって、

 ここの旦那はしあわせじゃな」

池波正太郎 剣客商売・狂乱 新潮文庫

***

芋茎と油揚げの煮たもの。

乾燥したものを使って、油揚げとともにしょうゆで煮た。

芋茎は実際にはそれ以前に、これも池波レシピだが、
銀座の[いまむら]という割烹で食べていた。
([いまむら]は今は代替わりをしているよう。)

薄味で出汁のふくめ煮。
太く、ゼリー状のものに上品な出汁が含ませてあるもの。

順番としては、その後、先の油揚げとの煮物を作ったのだが、
どうもこれが同じものとは思えなかった。

スーパーなどに売っている乾燥芋茎は概(おおむ)ね
切り干し大根のようもので細いもの。

その後、京都の割烹などで、和えものや酢の物などで、食べるとやはり、
太いものが多い。

このあたりから、段々に生のものがある、というのに
気が付き始めた。

また、乾燥ものでも元来の里芋の茎を思い出せば、
その根元の部分は随分と太いものもがあるということ。

割烹料理などで使うのは、生も乾燥ものもあるが、やはり太い部分。


また、たまたま産直セールのようなもので、
生の芋茎を見つけた、細めだが、これは千葉のもの。

これで油揚げとの煮物を作ってみたこともあった。

この頃であったか、京都にお住まいの読者からメールをいただき、
京都などでは生の芋茎は売られており、普通の家庭でも
食べるものだと、教えていただいた。

と、いうことで、芋茎と油揚げの煮たの。

帰り道、スーパーで乾燥ものを買う。

通販で生のものも、売られているようだが、
これも季節的には里芋の時期なので、夏から秋のよう。

割烹料理であれば、あく抜きをし、皮をむいて、
出汁を含ませるなど、とても手間をかけるようだが、
江戸庶民料理の油揚げと煮るのであれば、別段難しいことはない。

乾燥芋茎を洗って、水に15分ほどつけてもどす。

あとは短冊に切った油揚げとともに
しょうゆ、酒、砂糖で甘辛の濃いめに
味を含ませれば出来上がり。

素朴な家庭のお惣菜であり、乙な酒の肴でもある。

これに冷酒。

よいものである。

 


 

 


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