断腸亭料理日記2013

国立劇場・初春歌舞伎公演

「夢市男達競」その2

1月13日(日)

引き続き、国立劇場の歌舞伎。
「夢市男達競(ゆめのいちおとこだてくらべ)」。

正直のところ、新橋演舞場よりも
たのしめた。

おもしろかったのではなかろうか。

昨日、黙阿弥の原作から大幅に手が入っている、
と、書いたが、いわゆる現代アレンジになっていた。

つまり、現代人が観ても、わかりやすくしている、
のである。

あれから、手に入れた『忠臣蔵』のDVDも
大序から討ち入りまで、全部観たのだが、
結局、入り込めないのは、今の我々の感覚では、
そもそも入り込めない造りになっている、ということに
気が付いたのである。

どういうことかといえば、まずは、テンポが遅くて
飽きてしまう。

いわゆる踊りの幕もそうなのだが、
歌舞伎というのは、浄瑠璃に合わせてストーリーが
進むというのが多く、浄瑠璃を聴いてみていただければ
わかるのだが、義太夫でも清本でも、おそろしく、
遅い。1センテンスをなん分もかけて語る。

これに対して、例えば、現代のドラマ、などは
テンポはおそろしく速い。

朝の連ドラなども、1週ごとに
どんどん話が変わっていく。
1週飛ばすと、もうわからなくなる。

それこそ、我々が子供の頃、30年、40年
程度前であれば、朝の連ドラは今は半年だが、
1年ワンクール。1か月くらいであれば、
同じような話が続いていたと、思われ、多少視なくとも、
話はわかった。

もう一つは、筋が整理されているということ。

前にも書いているが、芝居本編以外でも
街角の噂話も含めて、落語、講談、その他、
ストーリーには触れる機会が多くがあり、多少複雑でも
理解できたのではなかろうか。

現代の観客はまったく予備知識なしで観るわけで
以前のものをそのまま観させられても、やはり、
処理しきれない。

テンポを速く、筋を整理する。
現代アレンジ、というのは、どうも
こういうことのようである。

これだけで、だいぶ違ってくる。

一方、過去の台本でも、
現代人が入りやすいものはあるのでは
あろう。

平成中村座のものなどは、どうだったのであろうか。

例えば、昨年観た『め組の喧嘩』

台本も読んだのだが、筋はそのままで演じられていた。

筋が単純で現代人でも入りやすいものは、過去のものでも
存在はする。

ただ、やはり『忠臣蔵』のような大作、名作、と、
いわれるようなものは、現代人には厳しい。

また、飽きさせないような、工夫が必要。
テンポアップ、で、ある。

私など、どうも飽きるのは、先の浄瑠璃もそうだが、
立ち回りも、飽きてしまう。

歌舞伎の場合、ご覧になったことがある方はおわかりになろうが、
基本、立ち回りは、型で、TVの時代劇のような殺陣ではなく、
うそっこのチャンバラ。
つまり、お約束、なのである。

お約束、を、延々と観せられると、現代人はやはり、
だめ、で、ある。(これがまた、長いのがあるのである。)

どうせなら、立ち回りは、お約束、ではなく、
おどかしてほしい。

ネタバレになるので詳細は書かぬが、今回の「夢市男達競」、
立ち回りというのか、戦いの場面も、
大道具に力が入っており、そうとうにおどかしてくれた。
(先の平成中村座の『め組の喧嘩』では、お約束、ではなく、
舞台狭しとアクロバティックなアクションを展開させていた。)

が、まあ、『忠臣蔵』を現代人が飽きぬように、
変えてしまっては、それはそれで違う、というのは、
私にもわかる。

やはり、これは博物館として、残す、ものも必要。
そういうものと、アレンジしたものと、分けて演る。

あるいは、変えても、過去の“心”というのか“テーマ”を
壊さぬようにアレンジすれば、よい。

結局、今回の「夢市男達競」もそうだし、
平成中村座で故中村勘三郎が演ってきたのも、そいうことを
とてもうまくやってきたように思われる。

それが“伝統を現代に!”ということなのだろう。

と、まあ、そんなことで、今回はとてもたのしめた、
のである

さて。

今回の作品にちなんだ、浮世絵を二つ。


まずはこれ。

『櫓太鼓鳴音吉原(やぐらだいこおともよしわら)』
国周 筆。(歌川国貞門下)。
慶応2年、江戸市村座、初演時のもの。

最初に書いたが、この話、相撲が話の発端で、
これは、初代横綱といわれている、明石志賀之助(坂東彦三郎)。

今では実在の力士なのかは、はっきりしないようだが、
今でも初代横綱というとこの人ということになっている。

芝居の話とすれば、もう一人、悪役の大関との
将軍の上覧相撲が発端になっている。

今回は、菊之助が演じている。

夢の市郎兵衛(河原崎権十郎)


芳幾 筆。(歌川国芳門下。)
同じ、初演時のもの。
先の国周も芳幾も、こんな幕末もどん尻に
役者絵を描いているいるくらいなので、ともに明治まで生きている。

これが主人公の、夢の市朗兵衛。
侠客で、横綱明石の義理の兄ということになっており、
悪と戦う正義の味方。

“夢の”というのがいかにも正月らしくていいではないか。
おそらく、初芝居であることを頭に入れているのであろう。

浮世絵の着物にはないが、今回は着物に“夢”と大きく
書かれており、豪気なもの。

侠客といえば、幡随院長兵衛だが、
夢の市郎兵衛は、その長兵衛の身内で、実在の人物のよう。

これはもちろん、座頭、尾上菊五郎。

相撲と侠客。
いかにも、勇(いさみ)らしい設定だが、
話の元は、講談からのもののよう。


明日につづく。








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