断腸亭料理日記2013

国立劇場・初春歌舞伎公演

「夢市男達競」その3

1月13日(日)

さて。

国立劇場の「夢市男達競(ゆめのいちおとこだてくらべ)」。

今日は、役者について。

毎度特に説明もしないで書いてきているが、
歌舞伎では、座頭(ざがしら)と、いう役割があり、
今回の芝居であれば、尾上菊五郎がそれになる。

歌舞伎の座頭というのはそもそもは江戸の頃にさかのぼる。

市村座、中村座、守田座といった江戸の芝居興行元から
年契約で役者達は、雇われる。

この時、座頭を中心に1年間きまった役者達が、
芝居をする。

座頭が芝居には全責任を負う。

基本、立(た)て立ち役(No.1の男役)が座頭
ということになる。

芝居の最終幕の最後(大切(おおぎり)などという)、で、
舞台中央、「本日はまず、これ切りぃ〜」といって、
頭を下げるのが、座頭。

今の松竹の興行している新橋演舞場など、
大幹部達がたくさん出るような舞台では、誰が
座頭と決められないようなことも多いのであろう。

しかし、例えば、ちょっと小さな所帯で、
平成中村座では、むろん勘三郎が座頭であった。

座頭、というのがはっきりしていると、
よくもわるくも、その座頭のカラーが出て
おもしろい。

で、今回は「菊五郎劇団」といって尾上菊五郎が座頭、
と、いうわけである

尾上菊五郎、当代は七代目。
屋号は音羽屋。

奥さんは富司純子、長女、寺島しのぶ、
長男が尾上菊之助。

最近はちょっと太ったのか顔が丸くなっているように
思うが、若い頃は、細面(ほそおもて)の二枚目。

時代劇などにも出演ているので、
顔は知っていた。

2006年に、重要無形文化財保持者、人間国宝。
今年で七十歳。

幸四郎と同い年、吉右衛門は二つ下。
このあたりと同世代で、歌舞伎界の大幹部。
(團十郎は六十六でその下。)

尾上菊五郎という名跡は、明治以降、
五代目、六代目と名優として人気を博し、大幹部として支えてきた。

明治の頃は、團菊左(團十郎、菊五郎、左團次)時代、
などといわれて歌舞伎界を引っ張った、
なんというのは、日本史の教科書にも載っていたので
私も知っていた。
これが幕末生まれの五代目。

六代目は、五代目の子息で五代目亡き後、
初代吉右衛門とともに、大正、戦前の歌舞伎界を支えた、という。
六代目といえば、菊五郎といわなくとも、この人を指すらしい。

まあ、ともかくも、明治以降の歌舞伎界を語るには、
菊五郎の名前は外せないということ、なのだろう。

この人の芝居は、なん度か観ているはずなのだが、
なぜかあまり覚えていない。

調べてみると、二本。

2008年、顔見世『盟三五大切』。
笹野屋三五郎、ほぼ記憶なし。

まあ、この頃はまだ、気合も入っておらず、
幕見に毛が生えたくらいのところでちょい観ただけだからか。

2010年の同じく、顔見世『天衣紛上野初花』。
この直侍(なおざむらい)。

いや、これは、よかった。
有名な、雪の入谷のそばや。

これぞ当代菊五郎の真骨頂といってよいのだろう。

雪の中、足をまくって、素足に藁の草履で、花道をスタスタと走ってくる。
この菊五郎は印象的で、よく覚えている。

世話物の中の、こうした江戸庶民の美学
(黙阿弥の見せたかった江戸)を見事に現出させていた。

しかし、私が観たのがたまたまなのかもしれぬが、
他の人に比べて、数が少ないような気がする。
勘三郎は平成中村座で観ているので例外として、
吉右衛門、幸四郎、よりも菊五郎は出演回数は少ない?。
数えてみたわけではないので、わからないが、どうなのであろう。

ともあれ、今回の菊五郎はどうだったか。
はっきりいって、あまり存在感を感じなかった。

夢の市郎兵衛。
侠客の親分で、この物語の主人公。

むろん、その役の範囲では十分に責任は果たしていたのだろうが、
そこまで。
やはり、親分はこの人のキャラ、人(ニン)ではない、
のかもしれない。

では、誰がよかったのか、というと、菊之助。

五幕目、第三場。
ここは、鼠と猫のバトルの場。

原作にもある場面のようだが、仮面ライダーのショッカーのような
鼠の集団と猫耳をつけた、菊之助(ここでは新造なので女形)が
追い駆けっこをする。センスは現代。

実に可愛く、エンターテイメントとして、good!。

端正な顔立ちの菊之助は、この前の場面の新造、胡蝶というのも
よい。(ついでだが、もう一人の新造、八重垣であったか、尾上右近
も、なかなか。)

あとは、片岡亀蔵。
この人、三の線なのか。
生瀬勝久にどことなく、似ているが、
現代ギャグの場面があり、これも笑わせてくれた。

もう一人、尾上松緑。

もしかすると、この人、私初めてかもしれない。
若手、と、いってよいのか。
37歳。

丸というか四角というのか、ごつい顔。
松緑としては四代目。

若い頃、やんちゃして(?)ヘビメタのバンドをやっていた。

早くに三代目松緑を継ぐはずだった父を亡くし、苦労をした、、。
(で、ヘビメタ?)

お祖父さんの二代目松緑が、先代の團十郎、
先代の幸四郎(白鸚・初代鬼平)と三兄弟。
(名門といってよいのだろう。)

役は悪の親玉、木曽義仲。
悪役相撲取り、仁王仁太夫、など。

特に義仲が重たい役なのだが、今一つのように感じた。

どうも声が出ていないような、、、
迫力が今一つ。

風貌体格の押し出しもあり、本来声質はわるくないと
思われるのだが、残念な印象。

年齢を重なれば違ってくるのか。

以上、役者のこと。
トウシロウなりに書かせていただいた。

さて、まとめ。

お話を細かく書けないのが残念なのだが、
ごちゃごちゃいわないで、エンターテインメントとして、
楽しんでください、という芝居に仕立てられており、
ほぼ、飽きることもなく楽しく観ることができた。

前にも書いたが、伝統を現代に、というのは
こういうことなのであろう。
国立劇場もなかなかやる、ではないか。


そうそう、そういえばもう一方の、伝統を現代に、の故勘三郎。
私は観ていなかったのだが、勘三郎が赤坂ACTで演っていた
『赤坂大歌舞伎』、勘九郎と七之助(+獅童)で3月、演るらしい。

遺志を継いでくれることはなにより。
どんな舞台になるのか、たのしみ、で、ある。





 


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