断腸亭料理日記2014

三筋・天ぷら・みやこし

6月15日(日)夜

さて。

天ぷらの季節である。

いや、むろん、天ぷらは年がら年中あるのだが、
暑くなってくると、天ぷらの季節である、と感じる。

と、いうことで、夜は、天ぷら。

いつものご近所、三筋[みやこし]

夕方、TELを入れてみると、早い時刻は一杯とのこと。
8時なら、ということ。
先週鳥越祭も終わって、ご町内の皆様も打ち上げなどを
されているのかもしれぬ。
別段我々など多少遅くとも問題はない。

三筋というのは私が住んでいる元浅草の春日通りをはさんで
南隣の町である。

元浅草なんという町名は、戦後になって作られたものだが、
三筋は江戸からの名前がそのまま残っている。
正確には町名ではなく俗称。

幕府の大番組、御書院番組などの与力・同心の組屋敷が
ここにあり、その内側に三本の南北の通りがあった。
それで、三筋。

江戸の頃は『町』というのは文字通り、町人が住んでいるところで
武家の屋敷地は『町』ではなかったわけである。

地名がなければ不便であろうし、自然と呼び名が定まり、『町』ではなくとも
三筋町と呼ばれるようになっていた、というわけである。
意外にこういう例は少なくない。代表的なのは、御徒組の組屋敷があった
御徒町であろうが、これも正式な町名ではない。

さて。

8時少し前[みやこし]の女将さんからTELをもらい、
カウンターはまだあかないので、座敷でもよいか、とのこと。

別段、かまわないということで、内儀(かみ)さんと出る。
私は下駄履き。

外に出ると、偶然、ご近所のお知り合いにばったり出会う。
この方は、鳥越祭では小島町の祭組織である睦(むつみ)を
やっておられる方。

この週末は鳥越祭の“鉢洗い”に2〜300百人で
熱海へ行ってこられたとのこと。

“鉢洗い”というのは、神社の言葉で、
お祭の供え物をのせた器(鉢)をきれいに洗う
というのがもともとの意味のようだが、
一般には、お祭の打ち上げ会を“鉢洗い”といっている。

ともあれ。

春日通りを渡って、三筋の[みやこし]へ。

着いてみると、なるほどカウンターは一杯。
お座敷もにぎわっている。

奥へ入ったのは初めてであったが、大きな座敷とは別に、
障子で仕切られた畳の部屋があって、低めの椅子とテーブルの個室。

かえって落ち着いてよいかもしれぬ。

ビールをもらって、
いつもの梅の定食、4,500円也、を頼む。

むろん、揚げたてを運んできてくれる。


車海老から。

赤というよりは、朱なのか、塗りの木製の皿。
粋である。


二本あるので、塩と天つゆ、両方で食べる。
軽い揚げ上がりで、うまい。

二品目、若鮎。


この季節のものである。
ちょっとほろ苦いのが、うまい。

穴子。


先週も室町[砂場]で食べたところであった。
あれよりは、少し細め。
東京の天ぷらやでは一本をまるまる揚げてから切るので
このくらいの少し細いものを使う方が多いかもしれない。

衣はサックリ。
中はほかほか。

きすといか、最初の海老の頭。


いっしょに出てきた。

この季節のいかは、おそらく端境期であろう。
ちょっと、大ぶり。鮨やでもそうだが、東京の江戸前天ぷら
もともとは、江戸前のすみいかを使っており、
産卵期の今頃は、使えない。

きすは年がら年中あるが、やはり夏のもの。

野菜天。


左から、小玉ねぎ、椎茸、上、アスパラ、下、蓮根。

どれも、ほかほかでうまいのだが、椎茸が格別。

ちょうど衣の中で、蒸された状態になっているのか、
うまみが口の中全体に広がる。

ここまで。

あとは、天丼か天茶。

いつものことだが、内儀さんは天茶で、私は天丼。

天茶。


天丼。


味噌汁は蜆の赤出汁。

かき揚げは小柱。

かき揚げは芝海老のこともあるが、やはり、小柱の方が
うれしい。

どちらも江戸前の種で、むろん芝海老もうまいのだが、
小柱の方が、なんとはなしに乙ではないか。

口に入れて歯を合わせると、ほろほろと小柱がほどけていくのが
なんとも堪らない。
これぞ江戸前、で、あろう。

うまかった。腹一杯。

ご馳走様でした。


お勘定をして、ぶらぶら歩いて帰宅。







台東区三筋2-5-10 宮腰ビル1F
03-3864-7374







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