断腸亭料理日記2015

豚丼〜その1 丼ものとはなにか。

9月6日(日)第一食

豚丼が食べたくなった。

名前は覚えていないのだが、
なにかのTVでやっていたのだと思う。

ブタドン、なのか、トンドンなのか。
使い分けがあるのか。

これはどうもなさそうで、漢字で書けばわからぬか、
私はブタドンと思ってきたので、ブタドンで
読んでいただくことにしよう。

豚丼とは、焼いた、あるいは、煮た豚肉を丼飯にのせたもの、
ということになろう。

家庭などでも、以前からあったものだと思うのだが、
BSE問題で牛肉の輸入が制限された時に
牛丼チェーンが代替メニューにし、表舞台に出てきた。

またこの時、北海道の帯広地方で以前から定着していた
メニューであったことも話題にもなった。

その後、牛丼チェーンなどでもメニューとして残り、
学生などを中心に今はある程度定番化しているといって
よいのであろう。

また、さらに、すた丼、すためし、なる丼版ラーメン次郎のような
超ガッツリチェーンも現れているが、あれらも豚丼のバリエーションの
一つといってよいのであろう。

なにか、豚丼というもの、メニューとして
いい加減な感じがするのだが、こやつ、なんであろうか。

いや、そもそも丼(どんぶり)ものとはなにかということにも
なるような気がするのである。

よい機会である。今日は少し考えてみたくなった。
しばらくのお付き合いをいただけないであろうか。

広くいえば丼飯になにかの具材をのせたものが、
丼(どんぶり)ということになろう。

以前に丼(どんぶり)の歴史を調べたことがある。

丼もの考察1

丼もの考察6

これによれば、明治以前からうな丼、その次が明治に入り天丼、
大正期に親子丼、昭和初期にかつ丼が、それぞれ定着している。
(これはあくまで定着。出現はそれ以前である。)

おそらくこの4つの丼が今でも東京の定番(地方によって少なからざる
差があると思われるので東京としておく。)といってよいのであろう。

長い年月かけて一般化し定番メニューとなったことには
それなりの意味があると私は考えている。

例えば、明治以降だけ取り上げても、丼飯の上になにかの具材を
のせたものは、おそらく数限りなく出現していた。
その中で、この4品は生き残ってきたのである。

うな丼は蒲焼をのせただけ、天丼はのせて甘辛のつゆをかけたもの。
これに対して、親子、かつ丼は、今の甘辛の玉子とじの形に
統一されている。これにはそれなりの意味があったと思われる。

つまり、長い間に様々な料理人が様々な工夫をし、お客に
取捨選択され、この形が一番うまかったから。
そして、100年、200年生き残る(東京人に)普遍性のある
メニューとなった。

玉子とじの二品の方がうな丼、天丼よりも進化しているようにも
一見みえるが、そうではなくそれぞれには、この調理法が
一番合っていたから、ということである。

うなぎ蒲焼を玉子でとじた、うな玉丼というのも世の中にあるが
定番メニューではない。うなぎ蒲焼は飯にのせてたれをかけただけで
うまい、のである。これで完成形。必要十分。
それだけうなぎ蒲焼が完成しているということでもあるし、
ご飯にのせることでさらに一食として完結したのである。

しかしどうも、生まれた順番から考えても、このうな丼が、
東京の丼もののやはり原点であるといえるように思われる。

主たる具材+甘辛いたれ(つゆ)をご飯に染み込ませる。
これが東京の丼物の基本要素となっている。
まずこれを指摘しておきたい。

一方、天丼はどうか。
これはどちらかといえば、天ぷらのうな丼化といえるように
思われる。つまり、天ぷらをのせ、うな丼のような甘辛の濃いたれ
をかけたわけである。(実際にはかけただけでなく、天ぷらを
濃いたれで短時間だが煮ることもある。)

では、親子丼はどうか。
親子丼の生まれとしては、江戸からある軍鶏鍋(鶏の甘辛鍋、
鶏すき)を飯にのせた、ということだと私は推測している。
しかし、うなぎ蒲焼や天ぷらとは異なり、玉子とじにする、
という一工程を加えている。

ただのせただけで完成にならなかったのはなぜであろうか。

まあ、そちらの方がうまかったから、といってしまえば
おしまいなのだが、私の推測では、軍鶏鍋は溶き玉子を
くぐらせて食べており、この溶き玉子を、鍋の残りに入れ、
軽くとじたものを飯にのせた。こんな感じなのでは
なかろうか。
また、少し別の観点になるが、飯に生玉子をかけた、
いわゆる玉子かけご飯に、鶏肉が入ったもの、という
解釈もできるかもしれない。(鶏が入らない、玉子丼
というもの存在はする。)

そんなことで玉子とじの親子丼が定着。
ここでも注目したいのは、うな丼、天丼の甘辛のたれ(つゆ)
というのも親子丼に継承されている。

その次に、かつ丼。
これも、親子丼の玉子とじが踏襲され、鶏肉の代わりに
とんかつになっている、ということである。
かつ丼も親子の派生品なので、甘辛のたれ(つゆ)は同様。

かつ丼にはご存知の通りソースをかけたソースかつ丼というのも
地域によっては定着しているところもある。
しかし、少なくとも東京ではソースかつ丼は定着しなかった。
今、情報を持っていないが、おそらく、東京でも発生はしたはずである。
理由はこれもソースかつ丼よりも、玉子とじのかつ丼の方がうまかったから
である。(東京人の口に合ったともいえるか。)

しかし、ここでちょっと疑問に思うのは、天丼の玉子とじ版である。

これはあったのであろうか。
とんかつの方は、衣にパン粉は入っているが、天ぷらも同じ揚げ物である。
おそらく、成立はしそうである。

天ぷらでは聞いたことはないが、天かす(揚げ玉)を玉子でとじた
たぬき丼、というのを東京の複数の蕎麦やで見たことがある。
皆さんも、おありではなかろうか。
であるから、かき揚げでも海老天でも玉子でとじて、ご飯に
のせるものは、あり得るはずである。
あり得るというのは、うまいということである。
ということは、メニューにして試した店が過去きっとあったと
思うのである。

じゃあ、それがなぜ定着しなかったのか。
やっぱり、ただつゆだけをくぐらせただけの方がうまかったから。
結局そういうことであろう。
(ただ、たぬき丼はともかく、ちゃんと海老などの具の入った
天ぷらの玉子とじ丼はちょっと食べてみたい気はするではないか。)

 

つづく


断腸亭作 豚丼

 

 


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