断腸亭料理日記2017

両国・山くじらすき焼き・

ももんじや その2

引き続き両国の[ももんじや]。




この浮世絵は広重※。「東両国・とよだ屋」とある。
両国橋があって、手前に大きな看板で「山くじら」。

とよだ屋というのはこの店の昔の屋号。
幕末頃のものである。

昨日は、つゆの張られた鉄鍋が出たところまで。

部屋が寒いので、さっそく点火してもらう。

煮込みがきた。

これは、猪肉のモツなのか、大根などと煮込んだもの。
薄い味噌味で、うまい。

お姐さんが肉を持って再登場。

野菜はねぎ、豆腐、白滝に、青みは芹。
シンプルなもの。
皆、お姐さんが入れてくれる。

さあ、ここからが大切なところ。

猪肉というのは、15分以上は煮込まねばいけない。

不思議なのだが、豚の親戚のような猪であるが、
火が通ってすぐは、かなり堅い。
煮込めば煮込むほど、柔らかくなる。
豚に限らず、たいていの肉は火が通ると堅くなる。
ただ、色が変わってすぐは猪肉は豚などよりも
さらに堅いのである。

しかし、その後、30分、1時間、2時間と煮込み続けると、
牛でも、豚でも繊維がほぐれ、柔らかくなる。

考えるに、猪はこの時間が早いのではないか、と。
15分程度で繊維がほぐれてくるのではないか。

ともあれ、鍋に入れてからかなり待たねばならないということ。
この店に初めてきた時、確かこの年、亥年で、干支でもあり
大量のお客でお姐さんもてん手古舞。この説明を
ちゃんとしてくれなかったことがあった。
それで、色が変わったら、食べ始めていたのである。
そうすると、堅いこと堅いこと。
こんなものかと、食べていたら、後から知らされ
途中で食べるのをやめて、柔らかくなるまで再び待った、
ということもあった。

15分待つ間、芹やら順々に煮えてくるので、つまみ始める。

このつゆ。
見た通り、赤い。
これ、もしかすると、例の江戸・東京の伝統味噌、
「江戸甘」ではなかろうか。

ただ、味はかなり甘めなので、江戸甘にさらに
砂糖を入れているのか。

ともあれ。

芹なんぞはすぐに火が通るし、ねぎもそうは時間が
かからない。
肉以外をどんどん、食べてしまう。

食べながら、ビールから、燗酒に替える。
すぐにきたので、おそらくお燗器。
呑んでみると、案の定、湯気が出るほど熱くなっている。
(だからさぁ、熱燗はやめてくれ、って、言ってるじゃない!)
もはや、燗酒といえば、熱燗がスタンダードに
なっていることは、目を覆うばかり哉。

なん渡でも書こう、お燗=熱燗ではないのである。

本来、湯気が出るほどの熱燗は嫌われたのである。
今も日本酒メーカーでも熱燗は大推奨はしていない。
お燗向きの酒でも、ちゃんと味わうのであれば、
ぬる燗か、上燗がよい。
上燗とは、ぬるくも熱くもないいわば適温。
(菊正宗によれば、50℃前後)

なにもいわないで、燗酒といわれたら
上燗を出すものである。
皆様も、条件反射のように「熱燗」というのはやめようではないか。

と、いうことで、少し置いて冷まして、呑む。
そんなことをぐだぐだといっていると、
そろそろ15分。

煮えてきた。

ふむふむ、ちゃんと柔らかくなっている。

ただ、肉は縮んでもいるようには見える。
脂身の部分はあまり変わらない。

だが、うまい。

くさみのようなものもむろんない。
これは処理の問題で、さすがにプロの仕事。

それでも、豚肉の同じような厚みのものよりも
多少、コリコリしているような食感。
脂がつゆに溶け出してもいるのであろう、
甘い味噌のつゆが、格別にうまい。

うまいのと、待ったのとで、バクバク食べてしまう。
あらかた肉以外は食べつくしてしまったので、
野菜だけ一皿追加でもらう。

煮詰まってくるので割り下でうめながら
野菜も煮て、食べる。

この頼み方、よいかも。

酒もおわり。

ほどのよいところで、ご飯と味噌汁。

味噌汁は豆腐となめこ。
この味噌は、赤だしのよう。

ちょっと、飯が柔らかめなのが、残念。
こういうところも少し気を使ってもらえたら
よいかも。

ご馳走さまでした。

うまかった、うまかった。

立って、下の帳場で勘定。

やっぱり年に一度はきたいところ、で、ある。




※二代目広重のよう。この「両国橋とよだ屋」は正式な江戸名所百景には
入っていない。似たような構図のものに「びくにはし雪中」というのが
あって、これがベースで店が二代目広重に宣伝のために書かせたもの
ではなかろうか。






墨田区両国1-10-2
03-3631-5596




    

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