断腸亭料理日記2018

浅草・弁天山美家古寿司 その3

浅草弁天山[美家古寿司]の三回目。

一回目の注文が、いかと鯵、小肌、きすの光物三種。
二回目が平目昆布〆、シマアジ、たこ、中トロヅケ、生とり貝。

都合ここまでで9個。

にぎりをこうしてバラバラと頼むと、
この店にあるものを食べ尽くしている、ということになる。

あとはなにが残っていたっけ、てなものである。
もちろん、腹もそこそこ一杯になってきてはいる。

テーブル席であるが、若親方はそこそここちらにも
目を配ってくれている。

すすめてくれたのが、蒸し鮑(あわび)。
蒸し鮑は江戸前伝統の種といってよろしかろう。
春から初夏、夏のもの。

今、普通の鮨やでは鮑は生でにぎるのが普通になっている。

値が張るし大好きというものでもないのでそうそう頻繁には
食べない。それで詳しくはないが、コリコリとした食感
あるいは、柔らかいものと部位によるのか、二種類あるのか、
それぞれうまいもんではある。

蒸し鮑は、江戸前では塩蒸しという言い方もするが、
実際には、塩茹で。塩で茹でて、その煮汁を煮詰め、
再び鮑に含ませるという調理法である。
時間もかかるのであろうが、かなり柔らかくなる。

じゃ、蒸し鮑に加えて、海老、それから煮いかの3個。

左が煮いか、右が蒸し鮑。

この三種は仕事のした種。
それも完全に火が通っているもの。

煮いかはするめいかか。
これはニキリではなく、甘いたれ付き。
いかは、江戸前だとすみいかと決まっており、今は生でにぎる。
しかし、生をにぎるようになったのはそう古いことではなく、
大正以降という。
それ以前はいかはすべて火を通しているということである。
一般にはやりいかの場合もあるが、ここはするめを使っている。
若親方に聞いたことがあるが、決まっているようで、
昔からそうなのであろう。
やりいかは中に酢飯を詰める、印籠詰めというのがあるが
使い分けがあるかもしれぬ。

この日記に書いているが、ちょっと安いやりいかを見かけると
よく買って、茹でて甘いたれを塗って食べている。
うまいもんである。
あの甘いたれというのは先ほどのたこだったり、もちろん煮穴子、
煮蛤などに使うが、酢飯との相性が抜群なのである。
また、茹でたいかとも好相性。
〆て、うまいにぎりずしだと思われる。
今は東京の鮨やからほぼ滅んでしまったといってよい。
この数年、するめいかは不漁で高騰しているが、基本は
高いものではなかったはず。小売りでも一杯100円程度であった。
手間がかかる割に値段は安い。生のいかよりはにぎりとしては地味。
こんなところが滅んでいった理由であろう。
生のいかのにぎりとは別物として、存在してよいと思うのだが。

蒸し鮑。
これは滋味というのであろうか。
一度出した鮑のうまみを濃縮して戻しているので
濃厚なうまみ。
そして、プリっとした食感は残しながら、なんなく噛み切れる
柔らかさ。

そして、海老。
茹でたさいまき海老。さいまき海老というのは江戸前天ぷらでも
使うが、小型の車海老のこと。芝だったり佃あたりだったり、
このサイズのものがよく獲れたのであろう。
ここは、濃くはないが、甘酢漬け。
甘酢漬けが伝統的な江戸前の仕事。
ただし、手間が許せば、茹でたてを人肌に冷ましてにぎるのが
最もうまい。

食べていると、若親方が差し入れ。

えんぺら。煮いかに使ったもの。

さて、最後は巻物。
いつものように、内儀(かみ)さんがおぼろ、という。
なんで、あんなものを、と思うのだが、好きらしい。
じゃあ、小肌と?。
小肌だったら、ガリと巻きますか?。
そうですね、それにしてください。
おぼろは却下になった。

小肌巻。

ねぎとろだったり、とろたく、だったり、巻物というのは
新しい定番のものが現れてくる。

頼めば、もちろんなんでも巻いてくれる。
巻けるものは。

光物も生姜と巻くことが多いが、鯖巻、鰯巻、、。
赤貝のひもとかっぱを巻いたひもきゅう、練梅を入れた梅きゅう、
かんぴょう巻にわさびを入れた鉄砲、などは定番であろう。
一時、私もおもしろい巻物がないかとちょっと凝った
ことがあった。高価だが、平目の縁側なんぞも大葉と巻いてもうまい。

ご馳走様でした。

おいしかったです。

ビール二本で、これで二人で19,000円ほど。
つまみを頼まないとここはこんなものなのである。

また、つまみなし、なので、時間的にも早かった。
だが、大満足。

ご馳走様でした〜、といって外へ出ると、
若女将が見送りに出てきてくれた。

カウンターが二席開いていたのだが、
予約の客がこなかったらしい。
座っていただけたのですが、とすまなそう。

それはひどい。
我々は、テーブルでも一向に構わなかったが。

ご馳走様でした。

さて、弁天山[美家古寿司]。
浅草の鮨やでは、今の私にとっては一番よい。
親方はちょっとこわいというのか、近寄りがたい感じ
であるが、若親方は我々より年も若いし話がしやすい。
もちろん江戸前仕事を正しく伝えているところは
ポイントではある。私の場合、これが基本ラインにあって、
その先は、それぞれの鮨職人の個性で、まあ最終的には
居心地よく食べられるか、ということに尽きよう。
そういう意味でここは、もちろん正しい仕事をしている上で
比較的リーズナブル。こちらも浅草の住人で、普段の客筋は
意外に地元感があって片が張らない、構えなくともよい。

またきます。




弁天山美家古



台東区浅草2-1-16
03-3844-0034




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