断腸亭料理日記2018

江戸料理・八百善・厚揚げおろし煮

10月15日(月)夜

夜。
なにを食べようか。
あまり思い浮かばないので、またまた、過去のこの日記の10月を 繰ってみる。

2011年と随分前のものだが「厚揚げおろし煮」というのが
目にとまった。

八百善レシピ。
私は以前から書いているのだが[八百善]という料理やを
ご存知であろうか。

江戸料理の老舗。享保年間創業。
江戸期長く、山谷にあった。

場所は山谷堀の今戸橋の袂と思われる。

広重の当時江戸名代の料理やを描いた浮世絵「江戸高名会亭尽」
にも入っている。

歌川広重「江戸高名会亭尽 山谷 八百膳」

この[八百善]のレシピ本を随分前に手に入れて、
作っているわけである。

江戸料理というのはなにか。
正確な定義はなかろう。まあ、ここでは江戸の料理やで
作られていた料理、くらいの意味でよろしかろう。

今、東京でも日本料理といえば、京都などの上方起源の
料理が主流であろう。以前は京料理とは違う江戸の
割烹料理、もてなし料理もあったわけである。
だがこれは、残念ながら関東大震災あたりを境に
東京からほぼ、なくなった。

東京の料理やの歴史は、おおかたこの関東大震災が
境で大きな変化をしている。
例えば、おでん。
今、東京のコンビニでももちろん、透明なつゆが主流。
だが[お多幸]などに残っている、しょうゆで煮〆た
真っ黒なものが東京のおでんであった。

煮込んだおでんは江戸末頃に江戸で生まれ、明治に入り
関西へも伝わって。関西では透明なつゆで煮て、
関東炊きという名前で一般化する。

大正に入り、震災で壊滅した東京に関西の料理人が大量に入り込み
関西風の割烹料理が一気に広まったのである。

庶民のおでんは、それでもしょうゆで煮〆るものが
下町などを中心に戦後、我々の子供の頃まではあったが、
今はほぼ滅んでいる。

また、なん回か書いているが、江戸伝統の江戸甘味噌。
これもやはり関東大震災後、さらに第二次大戦の物不足
などで東京からほぼなくなっている。

[八百善]もタイミングとしては同時期といってよろしかろう。
それでも、紆余曲折はあったようだが、今も10代目の御当主が
鎌倉で店を続けておられるよう。

なぜ江戸料理は滅んだのか。
まあ、一言でいえば、上方料理の方がうまかったから
であろう。江戸は濃口しょうゆなどで濃く味付けるの基本。
これは、江戸近郊含めて武蔵丘陵は、関東ローム層、
いわゆる赤土で、土地が痩せでおり野菜がまずかった。
これを補ったのが野田、銚子などで生まれた旨みの多い
濃口しょうゆであった。
やはりこれでは料理としては大きなハンデがある。
近畿地方のうまい野菜、そこに様々に手を尽くし技を磨いた
上方料理が江戸料理を駆逐するのは簡単であったのであろう。

江戸料理としてかろうじて、というべきか、残ったのは
天ぷらとにぎりの鮨、そしてうなぎ蒲焼、ということになる。
やはり、どれも濃口しょうゆが基本の料理である。
(天ぷらは“お塩でどうぞ”のものではなく、濃いめの天つゆ、
あるいは濃い丼つゆをかける天丼である。)
蕎麦、なども全国にあるが、濃いつゆで手繰るものは
江戸らしいものではあろう。

さて、そんなことで、八百善レシピ。
「厚揚げのおろし煮」。

大根おろしで甘辛に煮るだけなので、簡単。
ただ出しを取るのだが、出しくらいはちゃんととろうか。

帰り道、吉池の地下で材料を買う。

昆布、で、ある。
拙亭には、最高級といわれる、真昆布というのがある。

真昆布は函館あたりが産地。
これ以外には、煮ものに使う安い早煮え昆布というものだけ。
真昆布というのは、たまに使うが、私のようなトウシロウが
使っても、そんなによいものである、というのが、
今一つよくわからない。
ちょっと別のものも試してみようかと考えた。

吉池の昆布売り場。
真昆布以外で高そうなものは、利尻と日高、羅臼と産地を
標記したもの。
どう違うのか、よくわからない。
量があってもしょうがないので、小さい袋の、利尻昆布を
買ってみる。

ついでに、鰹削り節。
厚揚げ、大根を買って帰宅。

帰宅。

これが利尻昆布。

鍋に水を張り、切った昆布二枚を入れ、火にかける。
本来は水出しがよいのだろうが、時間がないので
加熱。ただ、弱火でゆっくり。

大根は皮をむいておろし、ペーパータオルで水を切っておく。
八百善レシピでは水にさらすというが、これは省略。

厚揚げは一口に切って油抜きのため、熱湯をかけておく。

昆布出し。もちろん煮立てず弱火で時間をかけてみた。
どうであろうか、あまり色は出ていないが出汁は出ているのか。
わからぬが、切りがない、もういいか。
鰹削り節を入れて、弱火で置いて、5分ほどで止めておく。

出しを濾して、しょうゆ、酒、砂糖で甘辛に味付けし、
厚揚げ、大根おろしを入れ、軽く煮込む。

出来上がり。

atsuageoroshini.jpg(129855 byte)

どうであろうか。
うーん。味が濃いので昆布出しはよくわからない。
これが江戸料理!?。
いやいや、そんなにわるくいうことはない。
もう少し薄めにすればよかったことである。

ただやはり鰹はまだしも、利尻だ真昆布だ、というどころではなく、
上品な昆布出しは濃口しょうゆに簡単に負けてしまうのは
事実であろう。

まあ、こういう料理として、うまい、のではある。
ただちょっと、おろしが足らなかったか。






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