断腸亭料理日記2019

断腸亭、能を観にいく。

2月2日(土)

内儀(かみ)さんの友人の友人の従兄?という
つながりで(それはつながり?)、能を観にいくことになった。

宝生流の佐野登氏の「未来につながる伝統-能公演-」

というというもの。

歌舞伎はともかく、能というのはまったく生では
観たことがない。
当然というべきか、今公演の主催である佐野登という
能役者さんも存じ上げない。

だが折角、つながりがあったので、行ってみようと考えた。

やはり断腸亭として、能を観たこともないというのは、
まずかろう。

皆様、この文章を読んでいただいている方で、能、というものを
観たことがあるという方はどのくらいおられるであろうか。
一度ぐらいはあるものなのか。

正直のところ、能というのは、既に博物館に入っている
芸能というイメージ。むろん、文化的価値は別である。
現代リアルタイムのエンターテインメントとしてはもはや
成立していないというもの。

例えば、落語、歌舞伎は、厳しいところもちろんあるが、
まあ、リアルタイムで成立しているといってよいか。
これは興行的に商売になるという意味で、成立しているかどうか、
さらに、世の中の人々に親しまれ、ある程度の影響を与えることが
できているか、ということ。

文楽になるともう違うか。(これも観たことはないので、
ないをかいわんや、であるが)

講談も松之丞先生の登場などで光が少し当たっているが、
実際のところ、微妙であろう。
浪曲は、厳しい、か。

芸能というのはもちろん、栄枯盛衰があって、
時代が移れば致し方のないことではあろう。

ともあれ。
佐野登氏の公演。

場所は水道橋の宝生能楽堂。
午後3時開演。

佐野登氏というのは、宝生流能楽師、重要無形文化財総合指定(能楽)。
中島みゆきの「夜会」にも出演するなど、能楽を現代のものとする活動に
力を入れているとのこと。1960年生まれ。

初めて入った、能楽堂。

席は、橋掛というらしいが、花道のような舞台向かって左、下手側。
能楽堂というのは、皆このくらいなものなのか、歌舞伎座などと比べれば
小さい。

例によって、プログラムを書き写す。
〜〜〜〜〜〜〜

【番組】開場14:30 開演15:00
■スペシャルトーク 佐野 登
■舞囃子「小袖曽我」 田崎甫 辰巳和磨
■狂言「鎌腹」 
 シテ:野村万作 アド:中村修一 小アド:岡聡史
■能 「望月」
 シテ:佐野 登 子方:水上嘉 ツレ:水上優 
 ワキ:殿田謙吉
 間:野村萬斎
 笛:一噌幸弘 小鼓:観世新九郎 
 大鼓:柿原弘和 太鼓:小寺真佐人
 地謡:三川淳雄 武田孝史 金森秀祥 小倉健太郎
     小倉伸二郎 川瀬隆士 田崎甫 辰巳和磨
 後見:辰巳満次郎 辰巳大二郎

〜〜〜〜〜〜〜

舞があって、狂言、能、という構成。

なんとあの“総合統括”野村萬斎氏、お父上の人間国宝、
野村万作氏も出演られている。
超一流の舞台、なのであろう。
15時から6時頃まで3時間。(トウシロウにはちと長い。)

全体を通すと、初心者向けにわかりやすい演目を用意されていた
ようである。狂言も能も特段、イヤホンガイドのようなものは
ないのだがそこそこのみ込めた。
「そろ〜り、ソロリ」のあの発声で言葉は「カシコマッテ、
ソウロウ、、」なんという、室町の頃のもの(?)。
すべてを理解するのはきびしいが、発音がゆっくりなのもあり、
まあ、意味は取れる。ただ、歌舞伎の浄瑠璃もののように、
謡(うたい)が台詞の代わりになる部分がある。浄瑠璃同様、
謡になってしまうと、ほぼ理解はできない。

まず、狂言の「鎌腹」。喜劇ではあるが、なんだか落ちがなく
終わってしまうという、、、。え?これで終わり?というもの。
不思議な感じ。

能の「望月」。
能というと、世阿弥が完成させた、台詞もなく謡曲だけで舞い、
なんだか観念的なものと思っていたのだが、この演目は
そうでないので、びっくり。

一般にはそういう観念的なものは「夢幻能」というらしいが、
「望月」はジャンルとして「現在物(げんざいもの)」というそうで、
主人公(シテ)は直面(ヒタメン)というらしいが、面をつけないで
台詞のある劇で、普通にストーリーが展開する、普通の芝居にみえた。
お話としては、仇討もので、いかにも歌舞伎にありそうなもの。
(実際に、明治期に歌舞伎化されているよう。)見どころは、
室町期に流行ったらしいが、歌や舞をいくつも披露する芸尽くし。
(歌舞伎にもこんな構成のものはありそう。)

作品としてのエンターテイメント性は高いのであろう。
だがこれであれば歌舞伎で観たいように思えてくる。
能舞台というのは、いかんせん、狭く小さい。
道具もほぼなく、背景もない。
まあ、そういうものなのであろうが。
あるいは、能狂言があって歌舞伎が生まれているので、当然か。

であれば、能の本領発揮、その観念的な“夢幻能”を観なければ
いけなくなってくるのだろう。
(しかし、能狂言は室町から400年も500年も変わっていない
のであろうか、という疑問も出てくる。)

さて、話題の萬斎先生。
意外に背が高くないように見えたのには驚き。
細身だからか、存在感か、TVではもっと大きく見えていた。

また、トウシロウの私など能の「望月」に萬斎先生が出演ている
のにまず疑問符が付いていた。彼は狂言師で狂言に出演るのでは、と。

能は主人公のシテ、相手役のワキとそもそも役者が専門化しており、
さらに間(アイ)というお供の役があり、これを狂言役者(方)が
演じるということらしい。
実際、萬斎先生は、この曲(能では芝居のことを曲というよう。)の
お供の役を演じていたのである。

は〜、こんなこともするんだ〜という感じ。
台詞はそこそこ多いが、もちろん役割なのでオーラのようなものは、
消して、従者らしい演技。あたり前なのだが、ちょいと拍子抜けでも
あった。

能狂言、一度観たくらいでは、まったくわからない、というのが
正直なところではある。
いろんな疑問が沸いてきた。

ただ、、、やはり、実際に観て、博物館の芸能という印象は
強くなっているのは偽らざるところ。
であれば、なんで現代において存在しているのか、誰が支えているのか、
(国もあろうがそれだけではなさそう)というのも疑問になるのだが。
(夢幻能のおかげか?)

 

 

 

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