断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その31 桂文楽・よかちょろ

文楽師「鰻の幇間」を書いてきた。

さて、次。
「よかちょろ」をいってみよう。
好きな噺、で、ある。

〜〜〜〜
毎回のお運びでございまして、ありがたく御礼申し上げます。

間にはさまりまして、相変わらず、馬鹿ゝゝしいことを
申し上げてお暇(しま)を頂戴いたします。

ドウラクとは、道を楽しむと書くそうでございますが、
中には、道に落ちると書くドウラクもあるそうで
たいていお若い内は、ご婦人をお愛しあそばすてぇことにとどめを
刺しております。

旦「番頭さん、ちょいとここへきとくれ。」

〜〜〜〜
完全に頭から書いている。「間にはさまりまして」とあるのは、
寄席でトリではなく、文字通り、間で演じているということ。

ここからすぐに噺に入る。

三行挨拶。
枕が、四行。

枕ほぼなし。
これが文楽師、なのである。
〜〜〜〜

旦「どうも、あきれたねぇ〜。
  うちのバカ野郎には。
  一昨日(おととい)出たなりなんだろう。
  いまだに帰ってこない。そーなんだろ。
番「さいでございます。
  いまだにお帰りがございません。ヘイ。」
旦「ヘイ、じゃないよ、番頭さん、あんとき私はなんていった?。
  
  うちのバカ野郎に金を持たせると満足に家に帰ってきたことがない
  から、依田さんのご勘定、わずか二百円だけども、お前が行ってくれる
  とか、清吉をやってくれるとか、なんとかしてくれないと困ります。
  お前そん時なんていったぃ?。

  若旦那はこの節、ご辛抱。そうあなたみたいにお疑ぐりになると、
  かえってお若いうちはヤケになって、お遊(あす)びんなりますから、
  あたくしが請け合いますから、大丈夫でございますから、若旦那を
  おやりんなった方がよろしゅうございます、

  ってお前そいったろ。やりました。ご覧!、案の定、二日も三日も
  帰ってこない。

  どーも、実に、情けない、歯がゆいね。
  野郎、今日帰ってきたらね、みっちり小言を言うつもりだからね。
  お前さんがツベコベそばで、詫び言なんかしちゃ困りますよ。」
番「へい。」
旦「番頭さんの前だけど、実にどうもあれでは困るね。」
番「さいでございます。実にどうもあれでは困ったことで。」
旦「若い者だから遊ぶなじゃないよ。たまにゃぁいい、のべつじゃ困る。」
番「さいでございます。お若い内でございますから、たまにゃぁ
  よろしゅうございます、が、のべつでは困ります。」
旦「親の心子知らずといってね。」
番「さいでございます。親の心子知らずと申しまして。」
旦「どういう了見なんだろうねぇ。」
番「さ〜〜〜〜、どういう了見、、」
旦「なにを言ってるんだ。お前、あたしの真似ばかりしている。

  馬鹿野郎、帰ってきたら、すぐこっちへ寄こしてくれよ。」
番「かしこまりました。」

  (軽く戸を叩く音)
若「おい!、番頭ぉ。番頭、バンシュウ。
  レキかい?」
  (レキとはここは旦那のこと。)
番「ばかな、コレですよ。」
  (角を出す仕草か。)

旦「なにをしてるんだい?」

番「あーた、のべつだからいけませんよ。
  お遊びならお遊び、ご用ならご用と片っぽづけて下さいよ。
  あーたのためにあたくしが小言ぉいわれたん。
  今日はね、あたくしぃ、あーたに伺いたいことがあるン。」
若「なんだい番頭あらたまって。なにを伺うんだ。」
番「あーたねえ、そーやって、毎晩のように、吉原においでんなりますが
  吉原の花魁てえものが大事なんですか?、この親旦那が大事なんですか、
  それをあたくしは、伺いたいと思う。」
若「馬鹿だね、お前、いい年をして、頭ぁ禿げらかして、なにを言ってんだ
  番頭!。おい!。吉原の花魁てぇものは赤の他人だよ。オイ。
  うちの親父はてぇものは、天にも地にもかけがいのない、男親だよ。
  あたりめえじゃねえか。」
番「そーでしょぅ。なんぼ、あーただって、お父っぁんが大事でしょ。」
若「花魁さ。」
番「しょーがないねえ。」
若「おい、番頭、お前はそういうことをいうがねえ、ナカの花魁がばかな
  惚れ方」
  (ナカとは吉原のこと。大門から入った真ん中の通りが仲之町といった
   ところから。)
  今朝ねー、別れ際に花魁がねー、こういうことを言うんだ。
  若旦那、あーたと私はどうしてこう気が合うんでしょう?。とこういうんだ。
  そいから、あたしが星が合うんだろ、ってそいったんだよ。
  あーたの星を当ててみましょう、っていうんだ。
  なんの星だか知ってるかい?ったら、あーたの星は梅干しだ、ってんだ。
  そいから俺は怒っちゃった。
  おい、冗談言っちゃいけないよ。お前とあたしの仲だよ、なにをいっても
  かまいませんよ。けれども、あたり前の時には、真面目に話をしてる。
  世の中に梅干してぇ星があるか?!って、そいった。
  そういうとね、ある、とこういう。悔しいだろ、だから突っ込んでやった。
  どういうわけで、梅干しだと、突っ込んでやった。
  するとねー、花魁のいうのには、私が好いているから梅干しだ、番頭。
  おい!、どうだよ。
  どういうわけで、梅干しだ、私が好いているから、梅干しだ、番頭。
  どうだ!。どういう・・」
番「わか、わかりました、わかりましたよ。
  早くお父っつあんとこへ行きましょう!」
若「行くよ、行くよ。
  じゃ、親父んとこ行って、俺ぁ、これから意見をするよ。」
番「どなたが?」
若「あたしがさー。
  で、親父がね、腹の中ではね、なるほど倅(せがれ)の言うことも
  もっともだ、と思うこともあるんだよ。
  けれども、根が癇癪持ちで、気が短いときてるだろ、
  親に向かって生意気だ、と
  そばにね、銀のノベの煙管(きせる)があります、旧式の。
  
  (鬼平など池波作品によく登場する。長谷川平蔵が亡父遺愛のなどと描写
   されるあれ。彫刻など入って高価なものであるが、ノベなので、
   かなり重い。)

  あの煙管に手がかかる、と、途端に、このあたしの額かなんかに
  ポカとおいでなさる。
  人間なんだから、血が出ますよ。
  これ、あたしの身体ならいいよ。
  ぶたれようが、殺されようが、かまいませんよ。
  これ、あたしの身体じゃないんだ。
  誰の身体と思う、素人了見に、番頭?。」
番「若旦那、あなた、少しヘンなこと仰(おっしゃ)る。
  あーた、素人了見にも、玄人(くろうと)了見にも、あーたのお身体は
  立派なあーたのお身体じゃございませんか。」

 

つづく

 

 

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