断腸亭料理日記2020

鴨鍋〜ねぎとしょうゆ

1月1日(水)第二食

元日、第二食。

十時頃に、雑煮を食べたので、半端だが
15時頃。

昨日、年越しそばを鴨汁せいろにしたが、
あの鴨を見たら、どうしても食べたくなった。

よい鴨肉であった。

なににするかといえば、鴨鍋。

鴨鍋というのもいろいろあるが、池波レシピの鴨鍋。

池波レシピの鴨鍋でも実は、二種類ある。
甘辛で、芹が入るもの。これは「剣客商売」第四巻「天魔」の
「老僧狂乱」あたり。(文章には甘辛までは明記されていないが。)

もう一つは、鴨とねぎで、しょうゆだけで食べるというもの。
作品はこれも「剣客商売」で、第二巻「辻斬り」の「老虎」。

「剣客商売」でもまだ、初期。
秋山小兵衛は、若い女房のおはると鐘ヶ淵の隠宅暮らし。
大治郎はまだ一人。
橋場の道場の弟子はやっと一人飯田粂太郎少年が入ったところ。

息子を探しに小諸から出てきた老剣客山本孫介を小兵衛と
大治郎らで助ける話しである。

こんなところに登場する。

『おはるは父親が持たせて寄こした鴨の肉と、見事な葱を一束と
芹と、手打ちの饂飩を小兵衛の前へひろげ、
「お父っつあん、今日は、これをとどけに来るつもりでいたんだ
 とよ、先生」  
「何よりのご馳走だ」
 小兵衛は、おはるに命じ、金鍋(かななべ)で葱と供に焼き、
酒をふくませた醤油(しょうゆ)につけて、(鴨を)食べる
ことにした。』


池波正太郎著 「剣客商売 辻斬り〜老虎」新潮文庫から

おはるの父は、鐘ヶ淵ともほど近い、関谷村の百姓。
この鴨は山本孫介に酒とともに出される。

その後、鴨の脂で炊いた飯に、肉を叩き、醤油で煮たものをかけ、
刻んだ芹をかけて出す、なんという鴨のフルコースとでも
いうべきものになる。

ともあれ、この「老虎」に出てくる、しょうゆのみで、
ねぎの入った鴨鍋、私は、もしかすると、簡単だが
鴨の最もうまい食い方ではないか、と、思っている。

昨日の鴨は、厚めにそぎ切り。

入れるのはねぎだけでもよいのだが、芹も買ってあったので
これも切って用意。
ねぎは斜め切りだが、火が通りやすいように薄め。

材料はこれだけ。

すき焼き用の小さな鉄鍋。

火鉢もあるが、さすがに鉄鍋の料理を火鉢でするには
火力がそうとうに必要である。
カセットコンロ。

鉄鍋をかけ、点火、熱くする。

鴨肉には昨日も使ったが、脂身が大量にある。

脂身を3切れ入れ、十分に脂を出す。

ここに、肉、ねぎを入れ、焼く。

鴨は火を通しすぎてはいけない。

ねぎは鴨の脂で炒めるような恰好。

鴨にちょうどよく火を通し、ねぎがしんなりしたら、
取り、しょうゆをたらして、食べる。

作品では、酒で割ったニキリのようなものだが、
しょうゆそのもので、十分。

これがもう、堪えられないうまさ。

特に、たっぷりと鴨の脂がからんだねぎが、
べら棒に、うまい。

まったく、シンプルこの上ないものなのだが、
これ以上ない、鴨の食い方。

鴨肉というのは、思っている以上に脂が多く、強い。
鴨葱とはよくいったもので、ねぎ、または芹とともに
料理することで脂は緩和される。

甘辛のすき焼き風でもよいのだが、脂の多い鴨には、甘みは
ないしょうゆのみ方が、きりっと食べられて、進む、のである。

まさに、これはいくらでも食べられる。

薬研堀の、あひ鴨一品[鳥安]

も、しょうゆ味のみで、甘くはしない。

[鳥安]でも食べさせるが、脂の出きった脂身がまた、うまい。
今日はそのまま食べたが、この最後の脂身と鍋に残った脂を、
飯に、玉子とともにかけると、これがまた、うまい、
のである。

まさに、鴨を味わい尽くす。

うまかった、うまかった。

正月から、大満足、で、ある。

 

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