断腸亭料理日記2020

鳥越平戸藩松浦家の蓬莱園と
竹町・武井食堂のオムライス

7月13日(月)第一食

九州や岐阜、中国地方などでは水害が続いている。
被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げる。
もう日本国中、いつどこでどんな災害が起きないとも
限らない。
考えられる心構えと、できる備えはしておきたいが、
それを越えることが起きてしまえばどうしょうもない。
まったく人間など無力で、甘んじて受けるしかないのか。
コロナも然りだが、この国に住む限り致し方のないことか。
いや、最早世界中、どこにいても、なのかもしれぬ。
我々には助け合うことしかできない。

ともあれ。
梅雨前線の影響であろう、東京は今朝から急に寒くなった。
気温の変化は私のような、アレルギーを持つ人間には
かなりつらい。
寒暖差である。
朝から、くしゃみと鼻水が止まらない。
保湿ティッシュがあっという間に一箱空になるだけではない
アレルギーがひどいと、やたらと疲れる。

それでも昼、なにを食べようか。

思い付いたのは、旧竹町、佐竹商店街南の
[武井食堂]のオムライス。

毎度書いているが、チキンライスは好物だが、
オムライスは、そうでもない。
特に、流行りのフワトロもわるくはないが、
ちょっとでも冷めると、いけなかろう。
出来たら、玉子は焦げ目が付くくらい、きちんと火が
通っている方が、むしろ私はよい。

また、ケチャップライスも濃い味がよい。
だから浅草[ヨシカミ]のものが好きである。

ともあれ[武井食堂]のオムライス。

13時すぎ、雨もやんだので、鼻が止まらぬが、
マスクをして、自転車で出る。

毎度書いているが、この佐竹商店街は旧秋田久保田藩
佐竹家の上屋敷跡。また、この界隈の旧町名、竹町も
江戸からのものだが、佐竹屋敷に因むもの。

いつもこればかりなので、ちょっと、今日は、違うことを
書こうと思う。

久しぶりに江戸の地図も出そう。

90度まわして、北が左である。

佐竹屋敷が左下。
その前の通りが、今の清洲橋通りにあたる。
三味線堀から、鳥越川。

神田川沿いの一部を除いて、ほぼ全域がこのあたりは武家屋敷である。
旗本御家人の狭い屋敷もみえるが、佐竹家も含め、
大きな武家屋敷もある。
宗対馬守上屋敷がみえる。

宗家はご存知の古くからの対馬の領主であり、
朝鮮との外交官の役割も負っていた家。

そして、その上(東)に松浦壱岐守の名前が見える。

肥前平戸藩松浦家。
この松浦家も江戸以前からの壱岐の領主。
江戸時代に入って、長崎出島以前に貿易の窓口になっていた
のがこの平戸であったのは、あまり知られていないかもしぬ。

佐竹、宗、松浦、この三家に共通するのは、外様であること。
皆、上屋敷。このあたり、浅草、下谷はもはや江戸郊外。

松浦家の右に庄内藩酒井左衛門尉家の屋敷があり、
今の、拙亭前を通る左衛門橋通りの由来になっているが、
庄内藩といえば、譜代の名門。上屋敷は江戸城に隣接する
大手にある。ここにあるのは、下屋敷以下。

佐竹にしても宗、松浦ともに外様なので、上屋敷であっても
こんなところに追いやられている。

現代の地図も出しておこう。

平戸藩松浦家のことである。
松浦家といえば、なんといっても江戸後期の九代藩主松浦静山であろう。
NHKのBS時代劇「妻は、くの一」で田中泯氏が静山を演じている。
視た方もおられるかもしれぬ。

静山はちょっとおもしろい人であったといってよいだろう。
隠居後「甲子夜話(かつしやわ)」という20年間の膨大な随筆を
残している。大名のことから自分のこと、下世話な庶民の噂話まで
書いてあり、この頃の時代考証史料としてもよく使われている。

そして、今日書きたかったのは、さらに蓬莱園のこと。
聞いたことがある方は、おそらく少なかろう。
明治になっても松浦家は華族となりここにそのまま屋敷を
持っていた。
そして、その江戸期からの屋敷の庭が蓬莱園と呼ばれ、
明治以降も六義園、後楽園と並んで都下三名園として知られていた
のである。だが、蓬莱園は、大正時代の関東大震災で壊滅。
その後、(現都立)忍岡高校になって、現代に至っている。

今、高校敷地内になっており一般には見られないが、蓬莱園の
ほんの少しの名残の銀杏の大木や池のごく一部があるようである。

そんな名園、どんなものであったの知りたいと思い探してみると
こんな論文を見つけた。

(平戸藩江戸屋敷「蓬莱園」に織り込まれた景色
永松義博* , 杉本和宏 , 吉田 健
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科)

作庭にはあの小堀遠州も関わっていたよう。
庭と建物の図面もあり、モノクロで小さいが在りし日の
写真も載っている。

史料は忍岡高校と、平戸の史料博物館に保存されているよう。
やはり、見た感じいわゆる大名庭園といってよいのか。
ただ、建物、御殿といってよいのか、池に沿って建てられている
ものと合わせて趣がありそう。
これが失われてしまったのは、惜しい。
ここに、というわけにもいくまいが、復元できまいか。

ともあれ。なんだか、取って付けたようになってしまったが、
[武井食堂]のオムライスを登場させねば。

中のケチャップライスの炒め加減がまた、よいのである。
パラっと、というのか、堅い感じ。今日の仕上がりが、
ということかもしれぬが、、かなり、うまい。
ご馳走様でした。

 


03-3831-6267
台東区台東2-19-5 武井ビル 1F

 

 

 

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