断腸亭料理日記2006

帝国ホテル・ラ ブラスリー・2

「シャリアピン・ステーキ」

さて、今日は昨日の続き。
NHK土曜ドラマ「人生はフルコース」に感動し、
「シャリアピン・ステーキ」を食いに、
7月16日(日)夜、帝国ホテルのフランス料理レストラン
「ラ ブラスリー」へ行き、オーダーをしたところまで。
今日は、オードブルの登場から。

オードブルが運ばれる。

このタイミング、思ったよりも早い。
そこいらの居酒屋、ちょっと気取ったフレンチレストランでも、
最初の一杯を呑み終わっても、まだ出てこない、
などということは、よくあることではないだろうか。
一口、二口呑むうちに、出てきた。

筆者は、テリーヌ。妻はニシンの酢漬け。
妻がなぜこれを頼んだのかというと、少しわけがある。
妻が北海道出身、ということもあるのだが、
このニシンの酢漬けは、帝国ホテル伝統の、ムッシュ村上のレシピ
なのである。

これには、唐突のようであるが、バイキング、
のことから説明しなければならない。

バイキング、とは、食べ放題。
ホテルのバイキングはそもそもが帝国ホテルが元祖。
1958年、ドラマによると、ムッシュ村上の新館料理長時代。
バイキングという名前もこの時に付けられた。
そのために作られたのが、ニシンの酢漬け、と、いうメニュー。
そもそもはこうした(バッフェ=ビュッフェ)スタイルはスウェーデンの
スモーガスボードというものにヒントを得て考えられた。
それであれば、当地のメニューであるニシンの酢漬けは
なくてはならぬ。しかし、スウェーデンのままのニシンの酢漬け
では、とても生臭くて、日本人には食べられぬ。
そこで、ムッシュ村上は〆鯖からヒントを得て工夫され、
生臭くない、ニシンの酢漬けを完成させた、という。

そんなわけで、ニシンの酢漬け。
筆者は、特にニシン自体には思い入れがあるわけではないので、
メニューに、“帝国ホテル特製”の文字があったため
テリーヌを選んだ。
(帝国ホテルでもこの「ラ ブラスリー」は基本的に
ムッシュ村上時代からの伝統のレシピをそのまま提供しているという。)

さて、まずは、テリーヌ。

ギャルソン氏が、サーブしながら、
「いのししの、テリーヌで、ございます。」、と、囁くようにいう。

いのしし、で、あるか、、。豚ではなく。
テリーヌに生野菜、コンソメのゼリーが右に添えられ、
左に少しの塩と、黒胡椒の荒く挽いた粒。

まず、気が付くのは緑色のナッツのようなもの。
これが、いく粒か、切り口に見える。
そして、思ったよりも、見た目には脂は少ない。

ナイフで切って食べてみる。
見た目通り、脂っこさは少なく、肉のうまみが上品にまとめられている。
コンソメのゼリーがまた、うまい。
緑色のものは、ピスタチオのようである。

妻のニシンの酢漬けも一切れもらってみる。
これはなるほど、〆鯖、で、ある。
ニシンというと脂も多いように思うが、
さっぱりとし、生臭さはなく、さすがの味。

ビールを呑み終え、ワインにかえる。
赤をデキャンターで。
(銘柄は、まったくわからない。メニューの中で安いもの、で、ある。)

オードブルを食べ終わり、しばし待つ。

いよいよ、シャリアピンステーキ登場、で、ある。

まず、由来から。
ドラマでも登場していたが、このメニューは
ムッシュ村上以前から帝国ホテルにあったもの。
その昔(1936年)、ロシア人の著名な声楽家シャリアピン氏が滞在された際、
氏は、ステーキが好きなのだが、歯が悪くて食べられない。
柔らかく、歯が悪くても食べられるステーキを、と、いうリクエストに
シェフ達が工夫したもの。
ポイントは、すり下ろした玉ねぎに肉を漬け込み、焼く。
これが肉を柔らかくするノウハウであるらしい。

皿が運ばれる。
中央に肉。厚さは1cm弱であろうか、さほど厚くはない。
大きさは20cm×10cm程度か。
肉の上には玉ねぎ(など?)のみじん切りが数ミリの厚さで
均等に敷き詰められ、その表面には格子状のへこみで
きれいに飾り付けられている。

ナイフで切って、食べてみる。

なるほど、これは柔らかい。
叩くなどし、繊維なども切っているのであろう。

味である。
肉の上の玉ねぎのみじん切りで、表面の色はよくわからないが、
肉のこんがりとした風味もある。
焼き具合はミディアム程度であろうか。
玉ねぎみじん切りはむろん味が付けられている。
また、これは玉ねぎだけでもないのだろう。
にんにくその他。味は、もしかすると、
しょうゆも入っているかもしれない。
渾然一体、なにがどう、というのがわからぬくらい、
またまった、味である。
筆者のようなものが、四の五の、考える遥か上。
経験した味覚を超えている、と、いうことであろう。

なるほど。これが、帝国ホテル伝統の味、
元祖シャリアピンステーキであるのか。

とにもかくにも、うまいことは、間違いない。




さて、今日はここまで、もう一日だけ。
明日は、シャリアピンステーキ考察、にお付き合い下されたい。




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