断腸亭料理日記2006

帝国ホテル・ラ ブラスリー・3

「シャリアピン・ステーキ考察」

またまた、三日に渡ってしまった。
東京日比谷の帝国ホテル。
伝統のシャリアピン・ステーキ。
昨日はオードブルが終わり、ステーキを食べたところまで。

今日は、考察。


さて、食べ終わり、若いギャルソン氏がにこやかに、下げに来る。
「いかがでしたか?」と、問いかける。

そこで、筆者、こう答えてしまった。
「おいしかったですが、ハンバーグみたいですね」。
ギャルソン氏、苦笑い。

これは、断腸亭、失言か、、?!

思ったことをいえばいい、と、いうものではない。
しかし、直感的には、そういう結論であった。

シャリアピン・ステーキは、玉ねぎの味。
そして、繊維を切り、柔らかくした牛肉。
香ばしい焦げ目と、様々な隠し味。
煎じ詰めると、それはハンバーグ。

間違ってはいない。
しかし、言っていいことと悪いことがある。
失言であった。ごめんなさい。担当してくれたギャルソン氏、
他帝国ホテルのシェフ及び、関係者の皆様。

しかし、一方、こうも思う。
これくらいの冷静さは持っていてもよいのではなかろうか。

もっといえば、ひょっとすると、これよりも、
肉のレアな感じと、肉汁もあるハンバーグの方が、
勝っているのかもしれない。
帝国ホテルの伝統メニューにはハンバーグステーキもあるという。
ドラマの主演、高島氏は、玉ねぎのみじん切りに留まらず、
そのハンバーグステーキもマスターしたらしい。
喧嘩を売っているのか、墓穴を掘っているのかわからぬが、
こうなったら、ここで、ハンバーグステーキも食べてみなければならない、
のか!?

このへんで、ゴタクはやめにする。

シャリアピンステーキとはなんなのか。
その現代的な意味である。
日本各地の洋食レストランに、シャリアピン・ステーキが
広まっているのは、なぜか。
それは、すり下ろした、玉ねぎに漬け込み、安い牛肉でも
柔らかく食える、そういう効果である、と、いう説。
(現段階では、筆者はここまでしかわかっていない。
プロの方にうかがえば、もう少し違うことがわかるかもしれない。)
まあ、よくわからぬが、玉ねぎの旨みが肉に加わるなど、
他にも効果は当然あるのだろう。

現代のほうぼうの洋食やにある、シャリアピン・ステーキと、
今回食べた、帝国ホテル伝統の、シャリアピン・ステーキとは
別の物、とよんだほうがよいのではなかろうか。
町の洋食やに、あんなに薄い、シャリアピン・ステーキはなかろう。
帝国ホテルのものが、別個に進化したのか、
あるいは、町場の洋食やのものは、よいところだけを取って、
今の姿になった、どちらかである。(多分、後者であろう。)

ともあれ、そろそろ、結論に近付かねばならない。

まず、今の東京のホテル事情のことである。
ご存知のように、東京にはここ何年かで外資系ホテルが多数進出し、
また、これからも予定されているものもあるようだ。
そんななかで、歴史と伝統のある帝国ホテルなどの
古くからある老舗も、厳しい競争にさらされている。

そして、帝国ホテル伝統のシャリアピン・ステーキのことである。
最初の回に、書いたが、この伝統メニューは、ここの
メインダイニングにはもう既にない。
そういう意味では、実質的には第一線を退いたメニューである。
筆者などが考えても、ここまでしなくとも、(ハンバーグでよいのでは?)
と、思ってしまう。
だがしかし、このシャリアピン・ステーキは抜群にうまい。
一つの料理としての完成度の高さは、今も食べる者に感動を与える。
これは誰が食べても、紛れもない事実であろう。

このシャリアピン・ステーキに代表される、
ムッシュ村上以前のシェフ達も含め、産み、工夫し、戦争中も決死の思いで守り、
育ててきたは帝国ホテルのフランス料理は、
今の日本のフランス料理界はもちろん、一般家庭の洋食にまで、影響を与えてきた。

商業的には終わっているものなのかも知れぬが、
日本の今の食文化へ与えた影響とその功績は、計り知れないものがある。
そしてそれぞれの料理としての完成度は、実に傑出したものがある。
これは是非とも残して欲しいものであると思うし、
我々日本人は、忘れてはいけないものではなかろうかと思う。

以前に、筆者は南千住「尾花」のうなぎに、べらぼうにうまく、
江戸の食文化を今に伝え、かつ、なくなって欲しくないものとして、
料理の世界に、もしも人間国宝があるのならば、
尾花に差し上げたいと、書いたことがある。

で、あれば、この、帝国ホテル伝統のシャリアピン・ステーキにも
文化的歴史的重要度、料理としての完成度に対して、
人間国宝を差し上げなければならないと思うのである。

帝国ホテル




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