断腸亭料理日記2009

鮨、考察 その2

さて。

今日は昨日の続き。

柳橋の老舗鮨や、美家古鮨系数軒へいったてみたことから
このあたりの考察。

そして、さらに、

そもそも、鮨とは、なにか?

というような大きな問題も、少し考察してみようか、
と、考えた。

大きな問題なのだが、これを考えるには、
私(の興味)は、次の二点を考えれば、答えが出るのではないか、
と考えた。

一つは、鮨はなぜうまいのか。
そして、もう一つは、鮨は、これから、どこへいくのか。

200年ほど前、江戸、東京で生まれた、鮨が、日本中にそして、
世界中に広まったのは、むろん他の様々な要因はあろうが、
やっぱり、うまかったから、これに尽きるだろう。

つまり、白飯に酢を混ぜ込んだ酢飯と
主として生魚を一緒に握ったり、海苔で巻いたりした
形の食い物が、うまかった。うまいものとして、
日本はおろか、米食文化ではない欧米も含め、
世界的に、人類にとって、普遍性があったのである。
まあ、これは、間違いなかろう。

でなければ、ここまで広がらなかろう。

しかし、よくよく考えれば、これはさほど、驚くには、
値しないかもしれない。

世界的にポピュラーな食い物は他にはなにがあるか。
例えば、サンドイッチ、ハンバーガー。
(これらと、鮨を一緒にするのは、いささか乱暴かもしれぬが。)

サンドイッチも、ハンバーガーも世界中どこにでもあるし、
まあ、嫌いという人はあまりいないだろう。
うまいかどうかは、材料もあれば調味料もあろうし、
千差万別。
鮨だって、形は鮨だが、食えたもんじゃない、ものは、
世界はおろか国内でも、ゴチャマンと存在する。

なんとなく、少しみえてきた、かもしれない。

ご飯と具材のシンプルな組み合わせ。
パンと具材のシンプルな組み合わせ。

サンドイッチ、ハンバーガーと、鮨も同じ、で、ある。
どちらも簡単に食える。簡易食、ファストフード出身。

集約すると、鮨の基本要素としては、普遍性があったのは、
このあたりになるのだろう。
(なぁ〜んだ、簡単なことじゃないか、で、ある。)

じゃあ、同じ日本の食いものだが、似たようなものに、
酢飯ではなく、具材を中に入れた、おにぎり、というのがあるが
これは、どうなのか。
おにぎりは、世界に広まらないのか。
似たようなものではないか?、である。

おにぎり、と、いうのは、今、日本では、
むろん、家庭の、お母さんが握り、家族が食べる、
弁当用のおにぎり、という伝統的な姿も、むろん
滅んではいなかろうが、存在感があるのは、コンビニのもの、
で、あろう。
ある種のファストフードとして、これも
定着しているといってよかろう。
しかし、これは、意外に、世界には広まっていない。

例えば、同じコンビニのファストフードで、世界ではないが、
東アジア、東南アジア方面に広まりつつあるものに
おでん、が、あるらしい。
私なんぞは、滅多に買わないが、
あれも日本では定着している、と、いってよかろう。
今では、冬限定ではなく、通年、コンビニの店頭で売っている。

あれが、中国、香港、タイ、などに、日本のコンビニが
進出する際に一緒に持ち込み、定着している
という話を聞いたことがある。

実は、中国、タイ、などには、日本のおでんに入っている、
魚介のすり身を団子にして、火を通した(揚げた)ものと、
同じようなものがもともとあったのである。
中華の火鍋料理などに入っているので
ご存じの方もおられるかも知れない。タイなどでも、
タイスキ、トムヤムクンなどにも、同じような魚介の
すり身団子は入る。
これが、採用された背景らしい。
従って、見かけはおでんだが、味付けはむろん、
現地のもの、で、あるようだ。

ちょっと脱線してしまったが、コンビニで他もので、
採用されている日本食はあるのに、おにぎりは、
だめ、というのは、やはり、理由があるのだろう。

東アジア、東南アジアは同じ米食の国々であるるが、
おにぎりは、採用されない。
鮨はよくて、おにぎりは、だめ。

と、すると、最初のシンプルな構成であったから、
世界に広まった、という理論は、修正しなければならなくなる。

たぶん、これは、必要条件であって、十分条件ではないのだろう。
パンのようなものと具材の組み合わせで、
単にシンプルなファストフードに近いものは、
世界中にいくらもあるが、必ずしも広まっていないのは、
やはり、そういうことであろう。

たとえば、メキシカンのタコス、ブリトーのようなもの、
トルコの、例のケバブなど、いろいろあるが、世界に広まっている
とはいえないだろう。

もう少し、鮨とおにぎりの違いで見ていこう。
ご飯と、具材の組み合わせというシンプルさでは同じである。
違いは、値段。具材が魚中心であること。
ご飯が酢飯であること。

これくらいであろう。

値段、などというと、なんとなく、このへんから、
文化的なものも関わってきている匂いがしてくる。

のであるが、やはり、その前に、もう少し科学
(と、いうほどのものではいが)的に素材構成をみてみよう。

やはり、酢飯、と魚で、ある。

まず、酢飯は、どうであろうか。

同じ、米食文化の中国、東南アジア、インドなど南アジア
などを含めた、アジア地域で酢味の米の例はあるのだろうか。
細かい例まで、情報は持っていないが、あまり聞いたことはない。

そもそも、うまいのか、ということである。
日本の米、ジャポニカは、ご存じのように、粘りの多い
スティッキィーライスで、酢飯には、合っているように思う。

しかし、パラパラなインディカ米には、
やはり酢飯は合わなかろう。
(一方、ヨーロッパなど、野菜に近いものとして米を食う
文化のところでは、サラダのような位置付けで
酢味の米は存在しそう、では、ある。)

スティッキーに炊いた日本の米を、口あたりよく酸味を付け
食べやすい大きさと形に、にぎりったものには、
ある程度の普遍性はありそうである。

次に、魚との組合せ。
酢飯とスティッキーな酢味のご飯と、魚を握る。
これは、昨日も書いたように、アミノ酸の量が増える、という意味で
絶対値として、うまい(はずである)。

つまり、ここまでで、構成要素としては、
普遍的に世界に広まる素地はある、といえる、としよう。

そういうものが、すべて世界に広まるわけではない。
先にいった、十分条件の部分。
食は文化であり、人々は、新しい食を受け入れるには文化として、
受け入れる、ということになるのである。

欧米人は、本来、肉食文化で、魚には馴染みはない。
しかし、先にも述べたが、健康志向の高まりで
魚も食べよう、と、なってきた。

その上に、生、とくるわけで、ハードルは高かったのだが、
生魚も、しょうゆをつけて食べれば、うまいもの、であると
段々に、わかってくる。
(細かく見ると、欧米人以外にも生魚を食べない人々は
多い。例えば、中国人。中華でも基本的には、火を通したもの
以外食べない。)

そこへ持ってきて、日本文化ブームのようなもの。
これは、欧米も中国を中心にしたアジアも同様である。

なんとなく、かっこいい、ものに日本文化がなってきた。

これに、もう一つ加えて、先の値段、の、問題。

鮨という食いものの、格と、いってもよいのかもしれない。

格は、1.実際に、金額に見合ってうまいものである、ということ。
2.職人仕事を含めた、料理として洗練された文化(芸術)的な
付加価値がある。さらに、
3.プレミアも含めて、希少で高価な材料を使っている。
この三つあたりが構成要素、で、ある。

日本では、まあ、上から下まであるが、平均値をとれば、
やはり鮨は、高価なご馳走、で、ある。
特にその頂点、東京都心の鮨やの値段は、客単価300ドル以上で
まさに、格とすれば世界屈指の高級レストランである。
これらに、日本料理の持っている季節感のある素材と、美しい盛り付け、
職人仕事、こういったものが付属要素として、盛り立ててもいる。

これに(昨年リーマンショックで崩壊するまで)ここ数年の
欧米、中国まで巻き込んだ世界的な金余り、にわか成り上がり
の、存在。そういう彼らをくすぐり、ハマッタ、のである。

そこで、鮨もここなん年かで、爆発的に世界の北から南、
上から下まで、津津浦浦に、広まっていった。

ちょっと、話の筋がずれてしまったようだが、
まとめると、基本的に、鮨という酢飯と魚のシンプルな組み合わせ、
これに普遍性があり、また、酢飯という素材もうまいし、
絶対値として、魚とにぎることによって、うまくなる。
日本文化ブームにのって、(と、いうことは、広義の
日本文化にも世界に受けいられるという普遍性があるのだが、
この考察は、過去にも少ししているが、これは
またの機会にしておこう。)
もともと持っていた、鮨の格(ステータス)が加味され、ハマった。
さらに、日本料理の素材、しつらえ、こしらえ、
職人仕事に、世界の人々を納得させる、普遍性があった。

つまり、鮨、とは、そういうもの、で、ある。

ふう。

やっと結論にたどり着いた。

最初に、提出した、なぜうまいのか?には、
自分で出しておいた問いながら、
その直接的な解答には、ならなくなってしまった。

しかし、鮨は本体として、普遍的にうまい、ものに
文化的な背景が加わったものであり、それも込みで、
うまい、のである、ということが結論なのである。
(つまり、どちらかでもなく、両方込みで、
鮨である、ということ。)

これで、少し、鮨の、分解と、
定義ができたような気がする。
(いかがであろうか。)

これをもとに、鮨の過去と未来、
発祥地江戸東京との関係について、考えていきたい、
のであるが、キリもいいので、今日はここで、
ひとまず終了。

来週もう少し、続けよう。





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