断腸亭料理日記2010

博多長浜屋台その1

『屋台』考察の試み。

4月7日(水)夜

さて。

昨日が大阪で、今日が福岡。
連日の出張、で、ある。

今日の福岡は以前に福岡に転勤経験のある
若い頃から親しい同僚と。

仕事が終わり、その人の案内で、長浜の屋台へ。

15年以上も前、その人の赴任中に、連れてきて
もらったことがあった。

博多の屋台というのは全国的に知られており、
長浜以外にも、天神、中洲などに集まっている。

私も確か、長浜以外にも中洲へ連れてきてもらった
ことがあったと記憶している。

全国的にみると、この種の屋台は、他にどこにあるのだろうか。
私が知っているのは横浜。
やはり、地元の人に連れてこられたが、
横浜駅のそば、川沿いに屋台街があった。
(今でもあるのだろうか。)
(そういえば、家の中に入っていたが、静岡のおでん
元は屋台、で、雰囲気はかなり近い。)
このあたりの酒を呑むことを主目的とした屋台は、
おおかた、直接的には戦後の闇市あたりから続いているのであろう。

『屋台』というのは、ちょっとおもしろい文化、で、ある。
好き嫌いでいえば、私は好き、で、ある。
安くてうまい。腹も一杯になれば、安直に呑んでよい機嫌にもなれる。
庶民の活力を全身で表現しているものの一つが、
『屋台』といってよいだろう。

昨年のモロッコ旅行の際のマラケシュ。
ジャマエルフナ広場の『屋台』は、世界遺産にまで
なっている。

また、中国、台湾、韓国など東アジア、
あるいは、ベトナム、シンガポールなど東南アジアも
『屋台』は盛んであろう。

ヨーロッパなどにもあるのかも知れぬが、
やはり、アラブも含めてアジア的なもの
というイメージがある。
既にあるかも知れぬが、世界中の『屋台』を文化として、
体系的に調べたら、そうとうにおもしろいものに
なるのではなかろうか。

試みに、日本の『屋台』を考えてみようか。
私が知っている範囲であるので、東京中心に、で、ある。

まず、現代の日本においては『屋台』は、基本的には、
道路交通法、食品衛生法などで、そうとうに制限され、
なくしていく方向のものである、と、いうこと。

これは、公共の道路を勝手占有し、商売をする、というものであり、
また電気ガス水道もなく、衛生上よろしくない、
ということであろう。

では、次に『屋台』を、いくつかに分けてみよう。

まずは、東京でも少なくはなったが、ラーメンの屋台。
リヤカー(これも最近、とんと、見なくなったものである。)
を引いて夜になると現れ、湯を沸かし、スープを温め、
客は、リヤカーの側面などにある、小さな木の板の上で
ラーメンを食べる。
どうかすると、上野の駅前などにも今でも
出ていたのではなかろうか。
完全に移動式で、ほぼ単独で営業している。
屋台とすれば、最も一般的で、これはこれで、
一つのカテゴリーにしてもよいかもしれぬ。

東京で、これに加えると、やはり移動式・リヤカーのおでん屋台。
ラーメン屋台でも酒は出すところもあったと思うが、
おでん屋台は、酒を呑むことが主目的、で、ある。
これも、東京にもまだ多少は残っている。

このあたりが、伝統的にも最も一般的な『屋台』であろう。

もう少し、範囲を広げると、お祭りや縁日の出店
などは『屋台』に、含まれるのであろうか。

たこやきやら、ベビーカステラのように、
歩いて食べるものだけではなく、椅子があり、
酒なども提供するところもある。メニューはおでん、焼鳥、
その他いろいろ。鮎の塩焼き、なんぞもある。

しかし、まあ、これらは、常設ではなく、また、
営業をしている人々の業態というのか、人種というのか、
も少し違っていよう。
おそらく、各地を回る、いわゆるテキヤ、といわれる人々で、
彼らは彼らで、出自として、別の歴史的文化的背景を
持っていると思われる。(テキヤについては、体系的な研究が
あったはずである。)
また、そういう背景もあり、お祭りという別の社会的な力学
によって管理され、調べていないので断定的なことはいえないが、
先の、道交法、食品衛生法など、公からも、いつも出ている
『屋台』とは、多少違う扱いをされているのではなかろうか。

あるいは、最近は東京の都心部でよく見かけるが、
昼の弁当売り。これもある種の『屋台』といってよかろう。
いわゆる普通の弁当だけではなく、エスニック(なぜか
カレーが多いように思われる。)だったり、ちょっと
こだわったオーガニックのようなものをコンセプトに
していたり。また(むろん)リヤカーではなく専用のバンで、
きれいにペイントされ、やっている人達も若い人が多いだろう。
また、最近もニュースに出ていたと思うが、
今、東京で、一番の取り締まり対象になっているのは
彼らかもしれない。

専用のバンで思い出したが、前にちょっと書いた、
東京下町から、千葉にかけて、よく出没する、
ホットドックの大学堂というのもあった。

これは『屋台』というよりも移動販売(車)
というような言い方の業態になるかもしれぬ。

しかし、本来『屋台』と、移動販売、どう違うのか
定義をするとすれば、むずかしいことになる。
考えてみれば売るときにはむろん停まるわけで、
ある特定時間、特定の場所、に毎日車を停めて、
お客も待つし、本質的には『屋台』と変わりがないとも
いえよう。

『屋台』を考える方向は、むろん、これだけではない。
これは既に先行研究が随分ありそうだが、
歴史的なアプローチもある。
ご存知のように、鮨も天ぷらも江戸の街で
屋台として始まったわけだし、落語「時そば」などでも
有名だが、蕎麦も屋台で、酒食の移動販売としては、
随分と古い。ついでに、落語には、うどんや、という噺もある。
やはり、(鍋焼き)うどんを売り歩く屋台である。)

どうであろうか。
『屋台』は定義をすることからして、むずかしい。

しかし、なくなりつつある日本の屋台。
『屋台』の本質とはなんなのか、
考えてみると、随分とおもしろそうである。

といったところで、長くなった。

長浜屋台まで、たどり着かなかったが、
つづきはまた明日。





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