断腸亭料理日記2016

最近の?東京落語のこと その2

さて、最近の落語のこと、つづき。

前回は“江戸の風”のことを書いてきた。

おそらく談志家元の死とともに東京の江戸落語を
話す、落語家の中では“江戸の風”は滅んだと
いってよいということ。

悲しいことであるが、これは時代の趨勢。
致し方のないこと。

むしろ、よく生き永らえた。

しかし、それでも。
今、若い落語家がうけている。

それはなぜであろうか。

お笑いの1ジャンルとして、
気まぐれに、イケメン落語家を中心に
うけている、ということか。

まあ、そんなところが一つ、なのであろう。

また、それだけコンテンツとしての
江戸古典落語が、おもしろい、
名作である、ということに他ならない
といってもよいと考える。

江戸古典落語の噺一つ一つが今の形になって
100年〜150年くらいであろうか。
その間に、淘汰され、磨かれ、生き残ってきた
噺である。
これが、つまらないはずがない。

東京の寄席は、万歳でも手品でもなく
メインは落語であった。
これは今でもまあ、顔ぶれ上は変わっていない。
(今の寄席の落語がおもしろいかは別として。)

落語は並べてみても圧倒的に
他のお笑い、演芸よりも強力なのである。

わからなくなってしまった言葉も
少なくないが、それでも100年ほど前の
同じ日本語である、100%わからない
とうことはない。
同じ話をなん回か聞けば、また理解も深まる。

なにかの拍子に、落語っておもしろいじゃん
ということにシブヤの若い娘(こ)が気がつけば、
人気が出てきてもなんら不思議はない。

今回のイケメン若手落語家ブームで
やっぱり落語の話芸として、コンテンツとしての
噺のポテンシャルの高さが証明されたといってよいだろう。

これを機会に“江戸の風”までいかずとも
“江戸”の一端でも、若い人に、引き継がれて
いってもらえるとありがたい。

おそらくそういう人もきっと出てきている
のであろう。

さて。

もう一度“江戸の風”のこと。

いや、もう少し簡単なことなのだが、
古典落語に、現代語をいれてよいのか、
いけないのか。

これ、あたり前のことだが、イケナイ、
というのが正解であった。

少なくとも談志師、志ん朝師まで。
つまり“江戸の風”が吹いていた落語家までは。

最初に書いたように、最近聴いている
喬太郎師、志らく師の噺を聴いていると、
古典でも現代語が入っている。
むろん、これは昔からそうで、知っていたことで
以前はそれなりに、気になった。

むろん、本人は承知で意図して、現代語を
入れており、逆にそれが笑いにもなっていた。

それが今、どうか。

談志家元が存命中はある種のパロディーとして
笑いになっていたのだが、今は、これが
普通のことになったということ。そして気にならない。

おもしろければ、なんでもあり、
とまではいかなかろうが、
その噺を生かすためであれば、
ある程度、手段は問わない。
(その限度はその落語家のセンス次第であろうが。)

それで完全によい時代になったということであろう。

こうなってくると、ナマジきちっとした
古典を話す方が、難しくなる。

例えば、談春師などは若い頃から、
天才的に、きっちり古典が演じられる。

今、きっちり古典が演じられることは、
実際にところ、マイナスになってきはしまいか
と思うのである。

談志師や志ん朝師であれば、よかったのである。

以前に正月の演芸番組で協会会長の柳亭市馬師が
「一目上がり」を演っていたことを書いたことがある。
もともと言葉が難しい噺で、ご通家の方であれば
よろしかろうが、きちっと演ればやるほど
若い人には、距離ができてしまうと思うのである。

また、きちっとできるといっても
今の50代以下の落語家には限界がどうしてもある。
談志師や志ん朝師レベルにできるはずがない。
(そもそも噺以前に存在感が違う。)
そうすると、逆に、小さな穴が気になってしまう。

ともあれ。

これからの東京落語界のこと。

“江戸の風”が滅び、なんでもありになった。

そうすると今まで以上に落語家各々のセンスが
より問われるようになっていく。

老若男女誰にでも判って、笑ってもらえるということも
難しかろう。
ターゲットを絞ってもむろんかまわなかろう。

こうなると、喬太郎師、志らく師なんというのが
やっぱり強くなるのかもしれぬ。







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