断腸亭料理日記2016

並木藪蕎麦

2月15日(月)夜

今日は朝から栃木。

春一番が吹いて、最高気温が23℃まで上がった昨日から
急転直下、寒くなった。

山沿いのため15時すぎには昼前から降っていた雨が雪に。

こりゃぁ帰れなくなっては一大事と、すたこらサッサ
スペーシアに乗って帰ってきてしまった。

浅草着は、18時すぎ。

東京も雨であったようだが、もう小降りになっている。
さすがに寒さは栃木ほどではないが、それでも寒い。

道々考えてきたのだが、思い付いたのは、
[並木藪]。

こんな寒い夜には、鴨なん、で、ある。
(これ、池波レシピ。)

駅前の交差点を渡ってカミヤバーの角を曲がり、
向こう側に渡る。

このあたり、この時刻のこんな天気で、いつもよりは人は少ないが
それでも、数年前を考えれば外人観光客などで随分と人が出る
ようになっている。

雷門前の交差点を銀行側に渡り左に歩く。

毎度思うが、この並木の通りは半分以上がマンションに
なってしまっているのではなかろうか。
夜は暗いし人通りも少なくなる。

雷門正面で場所としてはわるくないし、以前の浅草の表玄関はこちらで、
料亭やら寄席やら、立ち並んでにぎわっていた。
今のようにこの街にも大挙して外人観光客が押し掛けるのであれば
商業施設にしておいた方がよかったのではと思えてくる。
雷門から並木、駒形橋、駒形と人の流れができてより活性化したはずである。

といっているうちに並木の[藪蕎麦]到着。

暖簾を分けて入る。

いらっしゃいましぃ〜、と迎えられる。

ウイークデーでこの天気のこの時刻、さすがに空席は多い。

お座敷、テーブル、どちらでもどうぞぉ〜。

ゆっくりくつろごう。

座敷の窓側の奥へ座る。

窓際は、ちょっと寒いかな〜。

コートを脱いで、胡坐をかくと、
お姐さんが夕刊をお膳の上に置く。

お酒お燗と、板わさ、それから鴨なんばん。

一気に頼んでしまう。

板わさはむろん、考えてきていた。

まあ、と、いってもここは酒の肴の類は
焼海苔やら、わさびいもと別段変わったものがあるわけではない。

お燗といって、熱燗ですか?と、聞き返されないのは
さすがの[並木藪]。

お姐さんは調理場へ、独特の符丁で注文を通す。

夕刊を眺めながら、待つ。

やっぱり寒い。
コートを羽織る。

ここは木造の日本家屋で風情はあるのだが、窓を背にすると寒い。

と、お酒と板わさがきた。

 


お燗の温度は、上燗よりも少し温かいくらいだが、
熱燗てはない。
やっぱりなにもいわないで、お燗といえば、この温度のものを
もってきてもらいたいものである。

板わさをつまみながら、呑む。

杉が強く香る、菊正の樽酒。

お客はパラパラと入ってきては、パラパラと
入れ替わる。

ん?

そろそろ、板わさも、酒も残り少なくなってきた。。

特に出す順番を聞かれなかったし、いわなかったのだが、、
鴨なんはどうしたかな。
そのまま肴になるので、なりゆきで、出してもらっても
よいつもりであった。

それとも、私が鴨なんを言い忘れていた、かな?。

通りかかったお姐さんに、鴨なんをもう一度いってみた。

お姐さんは調理場へ注文を通す、、、、と、やっぱり。
注文は入っていて、ちょうどできたところであったよう。
(お姐さんは忘れていた様子。)

お兄さんが運んできてくれた。


この香り、なんともいえぬ。

鴨のだしが出た、つゆの芳(かぐわ)しい香り。

もう一合もらおうかと思うが、踏みとどまる。
呑みすぎはいけなかろう。

長く切った白ねぎと真ん中には、鴨肉のつくね。
半生に調理された大きな鴨肉。

つゆは熱く、香りに加えて、鴨の脂とうまみ。

そばもほかほか。

この鴨は、合鴨ではなく本鴨ではあるまいか。
肉というのか、血の香りが強いような。

つゆに沈んで、だし用の脂身も入っている。

全部食べきって、つゆもあらかた飲み干す。

勘定をして立つ。

靴べらを靴の脇に出してくれるのも
いつもの通り。

ご馳走様でした。

ありがとうございますぅ〜、の声に送られて、
格子を開けて、寒い浅草並木の道にもどる。

浅草並木[藪蕎麦]。
建物、冬の鴨なん、燗酒、心遣い、取り混ぜて、ぶれない。
間違いなく東京下町のそばやの宝。
断腸亭認定重要無形民俗文化財、で、ある。

 


03-3841-1340
台東区雷門2丁目11−9

 

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