断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その39 桂文楽・つるつる

引き続き、文楽師「つるつる」。

小梅が湯から帰ってきた。
八「師匠はいないし。
  一つ、ご機嫌をうかがってみるかな。

  (小梅の部屋へ。)

  お梅ちゃん。
  え、へ、へ、へ。

  鏡台の前で、もろ肌脱いで。
  おけいけい(化粧)ですか?。
  いい肌ですね〜。あなたの肌てぇものは。
  餅肌、羽二重(はぶたえ)肌。」
梅「そっちへ行ってらっしゃいよ。
  男の入ってくるところじゃないのよ。」
八「へ、へ〜〜ん。
  なんですよ。
  
  いいお乳ですね。あなたのお乳てぇものは。
  麦饅頭(むぎまんじゅう)に隠元(いんぎん)豆を
  のせたようですな、、、」

  (大声)
梅「お師匠さんに、言い付けてよ!。」

八「な、な、なんですよぅ。あーた、大きな声で。
  あたくしはね、本当のことを申し上げるとね、あーたに四年半
  岡惚れしている。
  あたくしはねぇ、三日でもいいから、どっか静かなとこ行って、
  あーたとご飯をいただきたい。
  ただの三日。
  三日がいけなければ、二日でよーがすよ。
  二日が、あーたが嫌だとおっしゃるなら、一日でもいいんだ。
  、、、、だから、半日にしましょう。

  三時間!。

  どうです?二時間にしましょう。

  一時間!。

  三十分!。

  十五分!。

  十分!。

  五分!。

  三分!。

  二分!。

  一分!。

  なし!。

  なしは、いけません!。」

梅「なに言ってんの、一八っぁん。
  お前さん、ほんとにそんなこと言ってんの?」
八「真剣に。まったく、本当に。」
梅「そんなら、私うれしいけど。
  お前さんみたいにね、色だの恋だの、浮気っぽい話ならごめんこうむる
  のよ。曲がりなりにも私みたいなもんでも女房にしてくれるっていう
  話なら、ほんとに私、うれしいと思ってんのよ。」
八「へ?
  私は、あなたが女房になってくれれば、あたくしてぇ者は、
  ばかな喜び!。」
梅「お前さん、自惚れちゃぁいやよ。
  ナカ(吉原)には大勢大夫衆(たゆうしゅう=幇間)はいる。
  けれどもね、お前さんあんまり、いい男じゃない。
  けれども、お前さんは親切だ。私は忘れないことがあって。
  この前、大患いしたことがあって、お前さん、寝ずに看病してくれた。
  うれしいと思って、忘れないの。
  どうせ亭主を持たなきゃなんない。邪険な亭主を持って、おっ母さんに
  苦労させるのやだと思って。そいでお前さんに話しをすんのよ。」
八「あたくしはね、あーたが女房になってくれればねー、
  そーりゃもー、親切にしますよ。親切株式会社の頭取になろうと
  思ってるの、あたし。」
(中略)
その代わり、小梅は、ズポラはやめてくれ、と。
お酒を呑むと、だらしなくなるし、時間も滅茶苦茶。
わかりました、と、一八。
梅「それじゃ、今日、(深夜)二時を打ったら私の部屋へきて。
  色々話もあるから。その代わり、二時が五分でも遅れても、
  あー、お前さんのいつものズボラが始まったんだなぁって、思って
  私も諦めちまうから。ない縁と思って、諦めて下さいよ。」

一八、了解。
八「どーです。
  こう、トン、トーンと運ぼうとは思わなかった。」
大喜びである。

八「お梅ちゃ〜ん、二時を打ったからきたよ〜〜〜、って、、
  あ、いらっしゃいまし。」
  (お客である。)
大「なんだい。馬鹿だな〜、こいつぁ、踊ってやがる。」
八「あ、は、は、は、は。どーーーーも、大将!、お珍しい。
  あんまり、あーたが、おいでがないんでね、どーなすったかと
  思ってね。お案じ申し上げてた。」

吉原も飽きたから、今日は河岸を変えて、柳橋へ行って夜っぴて
騒ぐから、付き合え、という。

八「結構ですなぁ〜〜。
  では、今晩は一つ、手前、一つ、助けていただきたい。」
旦「よーせやい、そんなこというなよ。一緒にこいよ。」
八「それが、いけないんですよ。今夜だけ大将、他のもんで
  間に合わせてくださいよ。」
  (中略)
旦「そうか、一八。お前いい芸人になったなぁ〜〜。
  いい幇間になったなぁ〜〜!。そ〜じゃね〜か!。
  手前(てめえ)が初めてこの土地に出た時なんて言った。
  木から落ちたなにか同様でございます。身寄り頼りも
  ございません。一生懸命にやります。勉強をいたしますから、
  どうか贔屓に願いたい、って。俺は随分お前のことを世話して
  いるつもりだぜぇ〜。随分贔屓にしてるつもりだ。」
八「あ〜たねぇ、おこっちゃいけませんよ。あ〜たに世話になって
  いるってぇことは、誰一人知らない者はない。
  あたくしはねぇ、あ〜たのためなら真剣に尽くそうと思って
  いるんですよぉ〜。」
旦「じゃ一緒にきねぇ〜な。」
八「それがね、こ、ん、や、だ、け、ちょっと、、わけがあるん
  ですよぉ。」
旦「じゃ、それを言いなよ。俺が聞いて、なるほど、もっともだな
  ってことがわかれば、お前にきれいに暇やろうじゃねぇか。」
八「あー、そーですか。それでは、お話しを申し上げますがね、
  大将、これは大秘密ですよ。大秘密。
  当家にねぇ、小梅という芸者がいましょ?。」
旦「ないをいってやがんだ、馬鹿。
  んなこと、お前(おめえ)に言われなくたって、わかってら。
  あのくらいの芸者はねえなぁ。どうだい、三味線は達者だし、
  喉は光ってて、トコトン(鼓)がいけて、親孝行で、客扱いが
  よくて、女っぷりがいいし、淑(しと)やかで、あれが本当の
  一流の芸者てんだ。」

  (大声)
八「それなんです!。」
旦「なんだい?!、大きな声で。」

 

つづく

 

 

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