断腸亭料理日記2022

上野黒門町・八重山そば・みやら製麺

4070号

4月14日(木)第一食

新しいNHK朝ドラが始まった。
「ちむどんどん」、ご覧になっている方も多いかもしれぬ。
まあ、私は毎シリーズすべて視ているのだが、
今回は沖縄が舞台で、どんなことになるのか。

沖縄舞台というと、なぜか癒し系。
音楽、「BEGIN」などミュージシャンも然りであろう。
癒される。
あたり前のようでもあるが、おもしろいものである。

今回はお母さん役だが仲間由紀恵さんの「テンペスト
も思い出す。舞台は琉球王朝末期「美ぼうと才能を併せ
持つ女性が性を偽って」王国の高官になる。
日本でいえば幕末であり、琉球も激動の時期。
波乱万丈、なかなか見応えのある作品であった。
このあたり琉球の歴史というのは、日本人は一般には
ほぼ知らないのではなかろうか。私は知らなかった。
ちゃんと知らねば、とこれを視て気付き、
琉球・沖縄史の入門書を読んだものである。

沖縄というのは一方でなかなか難しい存在である。
この難しさは歴史的なものでもあるし、また、
基地問題などある意味、現代まで続いている。
癒し系沖縄のもう一つの面である。

琉球・沖縄というのは、別の国であると考えた方が
いいのではないか、と、考えた頃もあった。
文化も言葉も共通するものは感じられないではないか、と。

が、これは多少勉強をするとある程度はっきりした。

まず言葉であるが、沖縄方言、琉球語というのは、
言語学的には、日本語といってよいという。
文法、語彙、その他含めて。歴史的な軸でみれば、古い
時期の日本語にルーツがあるよう。

一方で、民族(民俗)学的に見ると、内地とは
大きく異なっている。
ほんの一例だが、お墓。伝統的に一族でお墓を共有するが、
日本のものと異なり、かなり大きく、むしろ古墳に
近いものにも見える。また、今は習俗としては
消滅しているのだろうが、風葬といって土葬でもなく、
火葬もせず石室にそのまま葬る。またこの墓を
共有する一族、朝鮮半島などにも共通するものがあるが、
共通の姓を持つ父系の一族は、門中と呼ばれ特別な
結び付きがあると考えられている。現代では弱まり
つつあるようだが。
あるいは、聞いたことがある方も多かろうが、
ユタという女性のシャーマンが重要な役割を果たす、
神観、精神世界も日本とは違う沖縄固有のもの
といってよいだろう。

さて、歴史的な視点。「テンペスト」でも描かれているが
明治以前の琉球王国の位置付けである。
独立国という言い方をされることも多いと思うが、
実際にはそうではない。
「薩摩入り」という言葉をご存知であろうか。
日本の江戸時代初期に幕府の命、同意のもと、薩摩が
琉球王国に攻め込み、征服。これが「薩摩入り」。
以降実情は、薩摩に支配・収奪されたが、清との
貿易は継続したいため、清に対しては独立した
王朝として振舞う二重外交のような姿を取っていた。

日本から見ると、海外貿易を長崎出島に限定していた
江戸期、もう一つの大切な裏窓口であったわけである。
沖縄では今も昆布の消費が盛んで沖縄料理でも多用する。
これは当時の中国への大切な輸出品の一つが昆布で、
大量の昆布が琉球を通っていたから。

明治に入り、琉球王は東京へ移され沖縄県として
名実ともに大日本帝国に併合された。
さらに、もう一つ。ご存知の通り、沖縄は太平洋戦争の
国内唯一の地上戦の激戦地。多数の民間人が亡くなった。
また、戦後、サンフランシスコ平和条約後も、沖縄だけは
アメリカの統治が昭和47年(1972年)まで続いた。
これが基地問題が今もって続いている経緯の一つ。

ざっくりだが琉球・沖縄の歴史、書いてしまった。

日本であって日本でない。一言ではとても言い表せない。
沖縄は沖縄、としかいいようがなかろう。

閑話休題。
だが沖縄というとやはり、癒されることは間違いない。
今週、朝ドラに出てきた、沖縄そば。
「こんなうまいそばを食べたことはない」と
東京からきた民俗学者(戸次重幸さん)が言う。
食べたくなったのである。

上野界隈にも沖縄料理の店は随分ある。
ちょっと調べて、そばが売りの知らないところを
見つけた。

上野黒門町、中央通りの向こう側の路地。
自家製麺八重山そば[みやら製麺]。
2018年開店とのことだが、まったく知らなかった。

ここは八重山そばで、沖縄そばではない。
内地人にとっては同じ沖縄だろと思うが、八重山と
沖縄は違う。石垣、与那国、西表などの最西端の
島々を八重山という。だが、少し北にある宮古島は
八重山に入らない。それこそ、歴史的には琉球王国に
支配・収奪される関係にあったのだが。

1時すぎ、自転車できてみた。
中央通り、みずほ銀行のある角の西側。

小さな和建築の一軒家。なにか商売屋の居抜きか。

食券制。八重山そばのランチセットにしてみる。

そばと炊き込みご飯、小鉢、おしんこのセット。
麺はストレートでちょっと丸みのある平打ち。
これが自家製手打ち。
かなりしっかりした、ちょっとゴワッとした食感。
沖縄そばだと、縮れが多いよう。

元来、沖縄のそばは、かん水は入らず小麦粉のみで
打った内地でいううどんに近いもの。

八重山そばは細切りの八重山かまぼこ、豚バラ肉を
のせたこのようなものという。
八重山かまぼこは、まあ、さつま揚げ。

つゆは沖縄そばとあまり違わないのか、鰹節に
豚骨なども使うとのこと。
脂がなくすっきり、うま味とコクがある。

付いている炊き込みご飯は、ジューシー
でよいのか、沖縄の炊き込みご飯。
細く切った昆布などが入っている。
昆布や豚の出汁で炊いたものとのこと。

沖縄そばの歴史というのは、意外に新しく戦後、
それも本格的に広まったのは本土復帰後という。
そもそも沖縄では小麦は希少で中国から日本同様
中華麺が伝わったが高級品で一般化しなかったのが
背景のよう。

どちらかといえば素朴な味。
だが、これがよい。

ご馳走様でした。
おいしかった。


みやら製麺


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