断腸亭料理日記2022

浅草・弁天山美家古寿司 その1

4169号

9月7日(水)夜

さて、浅草弁天山[美家古寿司]、

で、ある。

少し前から行きたかったのだが、
8月に少し休んでいたよう。

やっと予約ができた。

17時半。

たまたまなのだが、ご近所が続く。
前回の[今半別館]と[美家古寿司]は
直線距離だと80m。裏表のような位置関係
ではあるのだが。

これも偶然ではあるが、この二軒は数ある浅草の
飲食店のなかで、最も好きなすき焼き店であり、
鮨や、である。浅草では、という枕詞を外しても
そうかもしれない。

浅草というところは、江戸初期からの古い盛り場
であり、今も東京屈指の観光地である。
老舗、有名店、新しい注目店数多いが、好ききらい、
相性もある中で。

コロナ禍であったというのもあるし、年を取って
より保守的になってきたというのもあろう、
もうなん年も鮨やといえばここ、浅草弁天山
[美家古寿司]以外にはほぼ行っていない。

東京で生まれ育った人間としては、
江戸発祥のにぎり鮨は、うなぎ蒲焼、天ぷら
と並んで、故郷の伝統的食い物である。
であれば、その始まりから、どのように育って、
発展してきたのか、ということは、知らなければ
ならないと考えてきた。
まあ、私が民俗学を学んだからということももちろん
関係しているが、故郷のことを知らなければいけない
というのは、当然のこと、で、あろう。

江戸前鮨という言葉があるが、冷蔵設備がなかった頃に
にぎりの鮨は生まれ、育ってきた。
それで魚を日持ちさせるために様々な下拵えを江戸前鮨は
してきた。ただ日持ちをさせることだけが目的ではなく
もちろん、うまく食べさせるために。

魚が獲れてから我々の口に入るまで、冷蔵設備があり
鮮度を保つ様々な技術がある今となっては、
以前の技は必要ではなくなったものもあることは
否定できない。
生で食べた方がうまいものもある。
また、地方へいけば、独特の魚介類がある。そこでは
独自のにぎり鮨があって然るべきである。

しかし、なんでもかんでも生がうまいのか、といえば
これもそうでもない。
また、鮨職人が以前の江戸前の技術を知っていて、
生を使うのか、知らないで使うのか、大きな違いが
あろう。取捨選択。
いいものは、残すべきと私は考える。

東京のすべてとはいわないが、有名鮨やで、
以前の江戸前鮨の技を知らない、というところは、
ほぼなかろう。

それを残すことをポリシーとしている浅草弁天山
[美家古寿司]。創業の起源は江戸末にさかのぼれる
数少ない一軒。そして、ご近所浅草。

ともあれ。
元浅草の拙亭からタクシーで吾妻橋西詰から馬道通り、
伝法院通りの信号で降りて、店へ。

暖簾を分けて入る。

若親方へ挨拶。

カウンター、若親方の前へ掛ける。

瓶ビール、キリンラガー。

お通しはいつも通りまぐろの佃煮。

お!。

新いかのゆでた下足も出してくれた。
いつも、すみません。

つまみ二品、たこと鰹。

たこ。

最近、食べたくてもなかったのだが、今日は
幸運にもあった。

見ていただきたい。この色。
ただのゆでだこではない、江戸前仕事のたこ。
ちょっと赤味が濃い。
食べると、違いがよく分かる。
ちょっと甘味が出て、表面がほろっとしている。
そして柔らかい。

同じくつまみで、鰹。

しょうゆの小皿には、辛子だけではなく、
みじん切りのねぎ。
これはよいかもしれない。

鰹は普段食べたいのだが、どうしても魚やで
買う気にはならない。
やはりプロの手を経たものでなければ。
どうしたって、生ぐさい。
なかなか脂もあり、みずみずしい鰹、で、ある。

ここから、にぎり。

最初は、型通り、いか。

もちろん、新いか。
先週自分で食べたところ、ではある。
やはり一杯をそのままにぎる。
ほぼ歯応えを感じられぬほど。
10月になるともうこの柔らかさはなくなる。
まさに、今だけのもの。

次は白身、鯛。

昆布〆。
水分がほどよく抜けて弾力とうま味が増えている。
厚めに切っているのも特徴であろう。
東京でも白身は薄めに切る鮨やもあるが、
関西の影響であろうか。
やはり、厚めに切った方が、魚の味がよくわかる
というものかもしれぬ。

 

つづく

 


弁天山美家古寿司

台東区浅草2-1-16
03-3844-0034

 

 

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