断腸亭料理日記2023

浅草・弁天山美家古寿司 その3

4316号

引き続き、浅草[弁天山美家古寿司]、三回目。

昨日は、にぎりのいか、白身、光物まで。

光物は、まだ鯵があったと思うが、そろそろ腹も
一杯が近づいてきたので、パスして、次。

海老。

これは、内儀(かみ)さんが必ず食べたがる。

おぼろをはさんでいる。
ただのゆで海老ではなく、薄い甘酢に漬けてあるのが、
江戸前仕事。

最近、さいまき海老という言葉も、一般に
流布しつつあるようだが、ちょっと小さめの
車海老のこと。

江戸前、つまり江戸湾の奥、江戸の街の前の海は、
遠浅の砂浜であった。隅田川河口だったり、
芝の海でたくさん獲れた。
芝海老も芝で獲れたからその名前がある。

以前、ちゃんとしたところで食べる前は、
私は、海老など、たいしてうまいものだとは、
思わなかった。
ゆで海老は、ゆでた状態で鮨や向けに流通している。
こういうものはパサパサ。

むろん、ゆで立てが一番うまい。
ゆで立ての粗熱が取れたところで、にぎる
鮨やもあり、ぷりぷりで、あまい。
これをもたせるために、甘酢に漬けておく。
これも江戸前仕事である。

おぼろ、というのは、白身や芝海老の身をほぐし、
甘く味を付けたふりかけのようなもの。
私達が子供の頃よくあったでんぶ、に近いのだが、
今、鮨やで作っているのはそこまで甘くはなく、
水分も飛ばし切っていない、みずみずしい粒々。

こうして、海老にはさんだり、小肌にもはさむ。
小肌なんぞにはさんむと、ちょいと乙なにぎり
になる。

次は、貝。
お!、今日も平貝がある。

もらおう。

ここは、この厚さ。

あまり厚すぎるのも違うが、個人的な好みとしては、
もう少し厚い方がよいのであるが。

平貝は貝の中では最も好きなものである。
見た目にほたてに近いが、もっとサクサクと
しっかりした食感。これがよい。

最近入荷がなかったが、獲れなくなっている
のであろうか。

鮨ねたに大切な魚介類がどんどん獲れなく
なっているような気がする。
最早、江戸前どころではなく、日本中の
近海の魚介類が。

前の海で獲れていたものをにぎるのが鮨。
穴子は東京湾はもとよりどこの産地も風前の灯。
貝類はもっと顕著なのかもしれぬ。
身近なはずの浅利、蛤。
養殖をしてもよさそうだが、あまり聞かない。
浅利は少し前に産地偽装が問題になったが、
輸入した方が安いということなのであろうか。
東京湾にしても目の前の海はきれいになってきた
のだと思うが、まだまだ、ということなのか。
貝が生きる砂地がもうないのか。
食べるため、ということ以上に、目の前の海を
きれいに保っていたいではないか。以前の、とは
いわぬが、少しでもほんの一部でも近い生態系に
戻したいと思うのは、時代錯誤であろうか。

ともあれ。

次は、まぐろづけ。

いつも表面を霜降りにしていたと思うが、
今日は、そのまま漬けてある、ヅケ。
漬ける時間が長いと、漬かっている部分は
もっと黒くなる。
このため、漬かりすぎぬように表面を霜降りに
しておくのか。
今日のものは、短時間なのかもしれぬ。
漬けるのは、ニキリといっているしょうゆを酒で
割って、アルコールを飛ばしたもの。

赤身のしょうゆ漬けはうま味が加わり、
驚くほど、ねっとり、あまい。

さて、そろそろ、お仕舞。

内儀さんのお気に入り、玉子。

厚さはここのものは、5mmほどで、そう厚くはない。
この2〜3倍のものを出す店もあるが。

オールドスタイルの江戸前玉子焼き。
明治の中頃あたりまでか、鶏卵が高価だった時代に
魚のすり身などを入れて嵩増しをしていたものである。
むろん、今となっては、手間も材料費もなん倍も
掛かっている。
味はお節料理の伊達巻が近かろう。

最後は、海苔巻。

いつものさび入りかんぴょう巻。

わさびをかんぴょう巻に入れるのを、
鉄砲、などともいう。

呑む者には、ちょいとピリッとさせたのが、
よろしい。

いつも通り、うまかった。

ご馳走様でした。

勘定は、二人で酒も入れて23,320円也。
いつも通りか。

さて。
いうまでもなく、にぎり鮨は、東京固有の
伝統的食文化である。
コロナがあけて外国人観光客も店で見かけるように
なった。誇るべき食文化。
そして、私達にとっては大切な郷土食である。
種の魚介が減っているのは気がかり。

浅草[弁天山美家古寿司]は今年で創業157年。
若親方は六代目。
飽かず、見守っていければ幸せである。

 


弁天山美家古寿司

台東区浅草2-1-16
03-3844-0034

 

 

 

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