断腸亭料理日記2024

国立劇場令和6年初春歌舞伎公演
初芝居 その3

4480号

引き続き、初台新国立劇場の「国立劇場」初芝居。

昨日までは一つ目の「梶原平三誉石切(かじわらへいぞう
ほまれのいしきり)」と「「芦屋道満大内鑑(あしやどうまん
おおうちかがみ)」−葛の葉(くずのは)−」を書き始めていた。

通称が「葛の葉」。その続き。

大阪府和泉市の信太(しのだ)の森というところが舞台。
そして、安倍晴明の出生の秘密を描いているお話。

やっぱり、筋はウィキにある。
これから観る予定がある方は、ご注意を。

ねたばれにならぬよう、気を付けて書いてみる。

本来は、人形浄瑠璃で長い長い全五段。
だが、明治以降はクライマックス、第4段保名住家の段あたりの
上演のみ、とのこと。

今回の劇場パンフレットでは過去の上演記録は載っていないので
上演頻度はわからない。
どのくらいのものなのであろうか。
過去、時蔵は女形の主人公を演じているとのこと。
ただやはり、歌舞伎芝居を含めて、たくさんのコンテンツがあって
お話の内容自体は、多くの人々が知っているものであったのだと
思われる。

演じられたのは、安部野機屋の場、同奥座敷の場、
信太の森道行の場。一幕三場で、回り舞台に三つ分の場面の
道具が設えている。三つというのは、この新国立中劇場の
特徴らしい。

葛の葉というのは、主人公の女性の名前。
早替わりもあり、それも見どころ。
また、クライマックスちょっとした曲芸のような部分もある。

さて。


恋しくば尋ね来てみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉


この和歌をご存知の方はどのくらいおられようか。

おそらく、以前はこれもあまねく知られていたもの
なのだと思う。
これが、まあ、この芝居のクライマックスであり、落ち
のようなものになっている。

実は、この歌、最初に私が勉強になった、というもの
だったのである。

「洒落小町」という落語がある。
この和歌が、下げになっているのである。

まあ、それをみても、皆が知っていたものであった
のが裏付けられよう。

「洒落小町」自体は、亡くなった談志家元でなん度か
聞いている。他の人のものは聞いたことがない。
難しかろう、演る人はそう多くはないのではなかろうか。

談志家元が言っていた、イリュージョン落語、の
部類に入る。本来この噺も全編が言葉通り、洒落言葉の
羅列でマシンガンのように喋る。言葉の意味を超越して、
イリュージョン、幻の世界へ聴衆を誘う。
私の落語の師である志らく師、イリュージョンは本領。
私は聞いたことがないが、調べると、やはり掛けておられた。

私自身はこの歌を知らなかったのだが、一応下げの意味は
理解できた。しかし、家元も説明はされなかったので、
歌の背景がまったくわからず、なにか釈然としない思いが
ずっと続いていたのである。

この芝居を観て、やっと完全に理解ができた、というわけ。

ただまあ、実際、イリュージョン落語なので、考えるな、
感じろ、であったのかもしれぬが。
実際、落語の下げとしての歌の内容は、言葉だけで、
この芝居の中身や、安倍晴明とはほぼ関係なかったのだが。

とにかく、私はこれ、観るべき芝居であると考える。
情報、知識として知っていたらよいものであるし、
演出も飽きさせず、とてもよくできている。
佳作といってよろしかろう。

また、葛の葉役の中村梅枝は、クライマックス、
かなり稽古を積まれたのではなかろうか。
文字通り、時蔵から梅枝、父から子へ芸の伝承。
よかった。

さて、最後。

これは、まあ、よくある正月、初芝居のご祝儀。
菊五郎も含めて、劇団全員登場し、鳶頭(とびがしら、
かしら)と芸者の衣装で華やかに踊る。

各役者の息子、菊之助の息子、尾上丑之助、
寺島しのぶの息子、青い目の音羽屋、尾上眞秀なども
かわいく登場し、踊る。

この幕でも私、実は勉強になったことがあった。

クビヌキという言葉を聞いたことがある方はおられようか。

これも実は、落語で聞いていた。
なにかというと、圓生師の「蛙茶番(かわずちゃばん)」。

音でしか聞いていないので、実際は首抜き、なのだが、
クギヌキ?、クビヌキ?だかも、よくわかってもいなかった。
当然、意味もわからぬ。

「蛙茶番」自体も歌舞伎の噺。
芝居は、四世鶴屋南北作「天竺徳兵衛韓噺」(てんじくとくべえ
いこくばなし)というものを扱っている。今となっては上演も
ほぼないのではなかろうか。(2019年に国立で演っていた。)
歌舞伎自体がほぼわからないので、下ネタの噺で
おもしろいのだが、やっぱり演る人は少なかろう。

ともあれ。
首抜きというのは、この幕では、鳶頭の衣装で、白地の着物に
明るい青で役者の家紋を大きく染め抜き、家紋から頭を
出しているように見えるデザインにしたもの。
派手で威勢がよい。

閑話休題。

座頭の菊五郎も最後に登場したのだが、やはり、体調が心配。
足元も危なっかしく、ほぼ板付きであった。

音羽屋の親方、七代目尾上菊五郎も今年で82歳。
息、菊之助もよくわかっていると思うのだが、心して、
音羽屋の芸を継いでいかれることを願っている。

菊五郎劇団、初台の国立、初芝居初日。
ロビーは華やかであった。
寺島しのぶに加え、富司純子も美しい着物姿でお知り合い、
ご贔屓に挨拶をされていた。

さて、最後に。

最初に書いたが、猿之助のこともあり、歌舞伎界、
これからどこへ行くのか。
猿之助は私自身、今、最も元気もあり、最も実力がある
役者だと思っていたし、実際そうであったろう。
いつの日かなんらかの形で舞台に帰ってきてほしい。

四〇代の看板を背負う役者全員。頑張れ!。

 

「芦屋道満大内鑑」

国芳 嘉永3年(1850年)江戸
葛の葉、安部保名

 

 

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