断腸亭料理日記2019

須田努著
「三遊亭円朝と民衆世界」その2

引き続き、須田努著「三遊亭円朝と民衆世界」。


まあ、バラバラとしているようだが、自分としては一貫性というのか
ある程度の筋はある。私の父方は東京大井町の出で、明治の初め
曾祖父までさかのぼるとあのあたりの百姓で、江戸の頃から苗字を
持って田畑もそこそこあったようななので、名主くらいは勤めて
いた家であったのだと思う。私の祖父さんは三男で家を出ている。
付き合いはないが本家は今もあのあたりにあって子孫があると思う。
子供の頃はそんな祖父さん祖母さんと同居してた。祖父母二人とも
ヒとシが言えなかったし、環境としては東京、それもどちらかといえば
下町にアイデンティティーのある家で、私自身は、大井町あたりは
住んだこともなく知らないが、故郷は東京であると思っている。

たまに書いているが大学で学んだ民俗学では、当時は江戸・
東京といった都市は扱わないことになっていた。学部レベルの
学生は自分の故郷でフィールドワークをして卒論を書くのが
推奨されていたのだが、故郷を研究できない私は、大学で民俗
調査を請け負っていた新潟県の最北の町の調査に加えてもらって
卒論は書いた。(低級な内容であったが。)そんなものの
代わりが、江戸落語であり、池波先生の作品群であったのである。
故郷江戸・東京の庶民の文化、心象を明らかにしたい、というのが
まあ、ざっくりいえば、私のしたかったこと、ということに
なるのである。

庶民の文化といっても、江戸・東京は大都市で衣食住、落語、
歌舞伎などの娯楽、文化文芸、美術その他、実に様々な分野があって、
様々な人々が関わり、学術研究も数多くされてきているわけで、
私個人がすべてをフォローすることは不可能ではある。
また、考える軸も、文学、芸術、歴史という大きな軸があり、
それぞれに各フィールドを扱っている。
私としては、文学、芸術という軸もあるが、どちらかと
いえば、民俗学を学んだということもあり、文学、芸術よりも
民俗学の隣といってよい歴史学、日本史学に軸足がある。

まあ、こんなところを前提としたい。

旧臘、サラリーマンを辞めて、断腸亭として生きていく
などと書いたが、具体的になに、というあてがあるわけでは
正直のところまだない。

「講座」や落語もあったが基本的には書くということを主にしてきた
のでまあ、そちらの方がメインなのだと思うのだが。
だが、30年のサラリーマン生活の垢を落とすというのであろうか、
「日記」は続けながら今しばらくはブラブラしていようと思っている。

閑話休題。そんなことでやっと本題。

須田努著「三遊亭円朝と民衆世界」。

この本、論というのか、研究というのか、私にとっては
かなり興味深く、画期的だと思うのだが、まあ、いってしまえば
あたり前だが専門的というのか、まあ、マニアックというのか、
難しい。

できるだけ、わかりやすく書いてみたい。

三遊亭円朝というのは、落語好きの方は名前くらいは
聞いたことがあるかとは思う。
ただ、そんな方も具体的にはどんな落語家、噺家であったのか、
どんなことをした人なのか、いえ、といわれると、
はて?と首をひねってしまうのではなかろうか。

なんだか有名で伝説の人なのだが、実際にはよくわからない。
そんな存在だと思う。

1839年(天保10年)江戸、湯島切通町の生まれ。
父は橘屋円太郎という噺家。
没は1900年(明治33年)。享年61歳。

ちなみに、歌舞伎の大作者、河竹黙阿弥が、ほぼ同時代1816年
(文化13年)生まれ、1893年(明治26年)没で若干年上。

書いた通り二人とも江戸と明治両方に活躍している。

この、江戸から明治にかけて江戸・東京で生きて、落語、歌舞伎の
表現活動をしていた人というところが、とても興味があるのである。

黙阿弥についてもなん回も書いているが、江戸期の数多い
泥棒を扱った白波物と、明治になって作られたものとある。
例えば毎度書いている「直侍」のそばやは明治になって書かれた作品
で、ある。

興味の中心というのは、江戸人が時代が替わり、
どうやって東京人になったのか。

もちろん、江戸生まれでも勝海舟のような、武士、政治家も同じ時代を
生きて、江戸から東京を生きていたのだが、こうした人では
だめなのである。

つまり、円朝は落語家、落語作者、黙阿弥は歌舞伎作者だが
どちらも当時売れており、第一線の人であると同時に、
政治家でも商人でもなく、庶民である。

表現者がどんな風に変わったのか、変わらなかったのか。
庶民は、どんな風に変わったのか。もちろん生活は変わった
のであろうが、特に、考え方が、変わったのか変わらなかったのか、
ここである。

もう一つ。
今でも落語の中で「上からは明治などというけれど
オサマルメイと下からは読む」なんという言葉が
残っている。
江戸人、この場合江戸っ子がよいか、にとって、薩長の
田舎者が土足で、愛する江戸に入ってきて、私たちの
将軍様を追い出し、江戸をぶっ壊し、勝手に支配者になり、
新しい世の中、文明開化、富国強兵なんという時代を
作ってしまったなんという見方もある?。

明治という時代をどう評価するのか。

東京人、いや、日本人、日本という国にとって、庶民の江戸から
明治を明らかにするということは、明治という時代をどう評価するのか、
ということにもつながっていくはずである。

前にも書いたが、私自身、実際のところ、はっきりしていない。
もちろん、一言でいえるようなことでもないが、
だがこの研究書を読んで、一つ目から鱗が落ちたような
気がしている。

須田先生の研究、さて、どこから、書こうか。
まずは、背景から書いてみようか。

須田先生の研究は、もともとは「悪党の研究」といってよいか、
この論の一つ前の「悪党の十九世紀」(青木書店)

が天保以降明治0年代の百姓一揆の研究である。
当時の百姓の中心にした庶民の(反?)社会活動(運動?)の研究。
幕末前後の一般庶民(農民)の実像を浮彫にしている。

これを背景に今回の研究「三遊亭円朝と民衆世界」

がものされている。

前作「悪党の十九世紀」ももちろん読んでた。
両書合わせて、みてみたい。

 

 


つづく


 

 

 

 

 

 

断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5
|
2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |

2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15

2005 リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20 |

2005 リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006 6月

2006 7月 | 2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006 12月

2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月 |

2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月

2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月

2008 10月 | 2008 11月 | 2008 12月 | 2009 1月 | 2009 2月 | 2009 3月 | 2009 4月 |

2009 5月 | 2009 6月 | 2009 7月 | 2009 8月 | 2009 9月 | 2009 10月 | 2009 11月 | 2009 12月 |

2010 1月 | 2010 2月 | 2010 3月 | 2010 4月 | 2010 5月 | 2010 6月 | 2010 7月 |

2010 8月 | 2010 9月 | 2010 10月 | 2010 11月 | 2011 12月 | 2011 1月 | 2011 2月 |

2011 3月 | 2011 4月 | 2011 5月 | 2011 6月 | 2011 7月 | 2011 8月 | 2011 9月 |

2011 10月 | 2011 11月 | 2011 12月 | 2012 1月 | 2012 2月 | 2012 3月 | 2012 4月 |

2012 5月 | 2012 6月 | 2012 7月 | 2012 8月 | 2012 9月 | 2012 10月 | 2012 11月 |

2012 12月 | 2013 1月 | 2013 2月 | 2013 3月 | 2013 4月 | 2013 5月 | 2013 6月 |

2013 7月 | 2013 8月 | 2013 9月 | 2013 10月 | 2013 11月 | 2013 12月 | 2014 1月

2014 2月 | 2014 3月| 2014 4月| 2014 5月| 2014 6月| 2014 7月 | 2014 8月 | 2014 9月 |

2014 10月 | 2014 11月 | 2014 12月 | 2015 1月 |2015 2月 | 2015 3月 | 2015 4月 |

2015 5月 | 2015 6月 | 2015 7月 | 2015 8月 | 2015 9月 | 2015 10月 | 2015 11月 |

2015 12月 | 2016 1月 | 2016 2月 | 2016 3月 | 2016 4月 | 2016 5月 | 2016 6月 |

2016 7月 | 2016 8月 | 2016 9月 | 2016 10月 | 2016 11月 | 2016 12月 | 2017 1月 |

2017 2月 | 2017 3月 | 2017 4月 | 2017 5月 | 2017 6月 | 2017 7月 | 2017 8月 | 2017 9月 |

2017 10月 | 2017 11月 | 2017 12月 | 2018 1月|2018 2月| 2018 3月|2018 4月 |

2018 5月 | 2018 6月| 2018 7月| 2018 8月| 2018 9月| 2018 10月| 2018 11月| 2018 12月|

2019 1月|2019 2月| 2019 3月|

BACK | NEXT

(C)DANCHOUTEI 2019