断腸亭料理日記2021

上野・とんかつ・井泉本店

3972号

11月15日(月)夕

さて。
今日はとんかつ。

久しぶりに、上野の[井泉本店]へ

行ってみようと考えた。
一年以上のご無沙汰であった。

[井泉本店]は上野とんかつ御三家の一つ。
昭和5年(1930年)創業。
カツサンドの元祖でもある。

上野とんかつ御三家だが他の二軒とは
値段帯は多少お安め。
とんかつ自体もちょっと違っている。
だがやはり、上野には欠かせない店であろう。

上野、上野といっているが、この店の所番地は上野
ではない。
まあ、感覚的には上野でなんら問題はないと思うが、
ここは、台東区ではなく文京区湯島三丁目。
[井泉本店]の裏に区境があるのである。

今の地図を出しておこう。

区境を赤いラインで入れた。

以前から不思議に思っていた。
なぜであろうか。
細い路地だったり、かなり妙なところに
境があるではないか。

不忍池があって、池の周りの通りがあって、その南が
池之端仲町。この通りが池之端仲町通り。
その昔、春日通りがない頃には、ここから本郷方面に
行く本道で、湯島天神の脇を通る、湯島の切通し坂
にはこの通りを通っていた。
文京区と台東区の区境はこの池之端仲町通りを通っており
南側は文京区、なのである。
こんな細い通りが区の境とは、妙ではないか。

昔の地図を見てみよう。

まず、明治から。

これは明治25年(1892年)。

以前は下谷区と本郷区の境。
地図がきたなくちょっとわかりずらいが、今と区境は
ほぼ変わっていないように見える。

では、その前、江戸の頃は?。

江戸の地図。

もちろん、区はない。
池之端仲町というのが見えると思う。
この町は現代まで名前も含めまったく変わっていない。
その南は大名(板倉摂津守)、旗本屋敷。
そして、その東隣に下谷御数寄屋町というのが見える。
その南が湯島天神下同朋町。

この町の境がその後の区境とどうも同じようなのである。
(参考「江戸明治東京重ね図」)

つまり、江戸期の武家屋敷と湯島天神下と
冠の付いている町は後の本郷区→文京区、
下谷の方が、下谷区→台東区になっているのである。

まあ、文京区と台東区の境は、江戸からそのまま、
といってよいのだろう。
実に、おもしろい。
明治大正昭和と東京区部の区境というのは、なんらかの理由で
動いている例がままあるのだが、こんな妙な区割りのまま
続いてきた。住民の要望というのもあったのかもしれぬ。
千代田区神田の人々は神田に強烈なアイデンティティーがあり
外さないでほしいと強く要望し残したとも聞く。
ここも湯島天神下にアイデンティティーがあったのかもしれぬ。
(では、なぜ、江戸期はここに境があったのか、
ということになると思うが、これは未調査、宿題。)

閑話休題。

17時近く、店に入る。

カウンターもテーブルも、5〜6割埋まっている。

カウンターにアクリル板があり、下に開けた
郵便局の窓口のようになっている。

瓶ビール、キリンをもらって、いつも通りに
かにときゅうりのサラダと、特ロース単品。

サラダがきた。

かにの入った、薄く切ったきゅうりのマヨネーズ和え、
なのであるが、きゅうりが実に驚くべき食感。
これ以上ないほどパリパリ。
こんなよい食感のきゅうりというのは
まず食べたことがない。
芸術的である。これだけでもここにくる価値は
あると思うのである。

そして、特ロース。

切り口。

ノーマルなロースよりも厚いのだが、箸で切れる、と
いうのがこの店の、キャッチコピー。
その通り、かなり柔らかい。
以前から思うのだが、なんらか下ごしらえ、
しているのかも、と。

だが、もちろん、肉のうまみは十分。
また、衣、パン粉が実に香ばしく、味がある。

このかつは、塩、もよいが、やはりソースをかけた方が
うまいかもしれぬ。

明治、大正、昭和とこの界隈は芸者さんがいる
花柳界であった。(全盛は戦前まで。)
この店にも芸者さんがきていたのか。
店の作りも、座敷にあがればそこはかとなく
今もそんな雰囲気が残っている。

花柳界の名前は「下谷本郷」といっていたよう。

やっぱり区境は関係なく、下谷と本郷にまたがっていた
ので、こういう名前であったのだろう。
まあ、実質的には一体。
おもしろい。

 

井泉本店

文京区湯島3-40-3
03-3834-2901

 

 

 

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