断腸亭料理日記2006

酒盗のトマトスパゲティー

11月3日(金)文化の日 第一食

朝起きた。

なにを食べようか。
祝日であるため、路麺はやっていない。

昨日作った、トリッパの煮込みで使ったトマト水煮缶が
余っている。

トマトソースのパスタでも作るか。

アンチョビ?
アンチョビを入れた、トマトソースなんかどうだろうか、、。

買いに出ようか。

いや。で、あれば、酒盗、で、いいか。

2000年

2004年

酒盗をパスタにする、というのは、筆者は比較的、よくする。
なんにもないときに、冷蔵庫に常備してある酒盗は便利である。

以前の記事を見ると、トマトではない。
そのまま、にんにくとオリーブオイルで炒め、
白ワイン、タイムなんぞを入れている。
これはこれで、また、うまい、のであるが、
トマトもいけるであろう。

アンチョビというのは、鰯の塩漬け、さらにオリーブオイル漬けである。
酒盗は鰹の内臓の塩漬け、さらに発酵させたものである。
まあ、遠い親戚のようなものであろう。

魚の塩漬け、というと干物、などが日本では、まず一般的な食い物である。

そして、麹などで発酵させると、今の鮨の原型である、
いわゆる熟(な)れ鮓(すし)になる。

琵琶湖の、鮒ずし、秋田のはたはたのすし、
北海道や、東北のいずし、などが有名である。

そして、塩漬けのまま、さらに発酵が進んだのが
先の塩辛。
塩辛は、いか、が、一般的であるが、
鰹の塩辛、酒盗も、つまみとしては、うまいものである。

塩辛は、つまみ、でもあるが、新潟から東北の日本海側などでは
調味料にもする。

筆者が学生時代、新潟県最北部の日本海に面した、山北町というところで、
民俗学の卒論を書くために、フィールドワークをした。
ここでは、鰯の塩漬けを、鰯のショッカラ(塩辛)といって
野菜の煮物などの味付けに使っていた。

このショッカラ、のようなものの上澄みが、秋田の有名なしょっつる。
魚醤(ぎょしょう)というものになる。
東南アジアではニョクマム、ナムプラーというようなものになり、
様々なものの味付けに使う調味料である。

一昨年のフィリピンセブ島の、オキアミのくさい塩漬け。これも調味料である。)

酒盗もそうであるが、魚介の発酵したものは、とにかく、くさい。

伊豆七島などの名産、くさや、などというものもある。

これは、鯵などの干物を、酒盗のような魚の内臓などの発酵したつゆに
漬けたもの、である。

しかし、このくさい、ところがまた、なんとも、うまいのである。

ついでだが、くさや、に近いものは、中国にもある。
これは、鹹魚(日本読みをすると、カンギョ。「鹹」は塩からいこと。
中国ではハムユイ、シュンユイなどと発音するようである。)
という。

有楽町・慶楽

鹹魚も、上のようにそのまま食べたりもするが、
チャーハンに入れたり、ひき肉と合わせ、ハンバーグのような
蒸し物にしたり、調味料として使うものでもある。

アンチョビ、酒盗から、
かなり、話がそれたが、魚介類の塩漬け、あるいは発酵品のお話であった。

世界中にあるのだろうが、ことに、アジアには多いように思う。
魚介類を保存するために塩漬けにする。
かつ、発酵することにより、よりうまくなる。
これも偉大なる、発酵食文化である。

ともあれ、酒盗のトマトパスタを作る。

まずは、にんにくスライス。
なべに、オリーブオイル。
にんにくを弱火で炒め、ここに酒盗を入れ、軽く炒める。

酒盗など塩辛は、熱をかけると、溶ける、というのか、
形がすぐになくなる。
(これは、アンチョビも近いことになる。
発酵魚介類の特徴であろう。
ピザのように、焼いただけでは形まではなくならないが
煮込むと形がなくなる。)

ここに、ホールトマト缶。
トマトは細かく切る。

鍋に汁も、ともに入れ、少し水も足す。

パスタを茹でるための湯を沸かす。

ソースは少し煮詰まったところで、味見。
気持ち、塩。
タイムなどを入れてもよいが、今日はなし。
酒盗と、塩だけにしてみよう。

湯が沸いたら、スパゲティーを茹でる。

完成。

見た目は、ただのトマトソースである。

パルメザンチーズをかけて食う。

熱がかかり、トマトと合わせると、酒盗らしいくさみは、
かなり緩和される。
しかし、それでも、ほんわかとした、うまみは、残る。

魚介系の発酵食材は、こうした微妙な隠し味、ともいえる使い方も
一つの生かし方。

うまいものである。



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