断腸亭料理日記2009

鮨・神田鶴八・・・Returns

3月30日(月)夜

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裏ぁ返さないのは、客の恥

馴染み付けさせないのは、花魁(おいらん)の腕のわるい、、

なんてこたぁ、百も承知、二百も合点のお兄ぃさんが

よったり(四人)、揃ってんだ。

どうせ返すのなら、昨日の今日がいい、

ってんで、絣ぃ着てたのが縞になり、、、、


・・・・・・・・・・


これは、落語、居残り佐平次、の佐平次の台詞(せりふ)、
で、あるが、まあ、そんな気分、で、あった。

と、いうことで、鮨・神田鶴八・・・Returns。


昨日の今日、ではなく、1週間と2日。
またきてしまった。

神田鶴八、で、ある。

きてしまった、のではなく、佐平次の言っているように、
裏ぁ返さないのは客の恥、という心持、だったのである。

19時半頃、牛込市谷のオフィスを出て、TELを入れてみる。
あいている、という。
じゃあ、15分後。

市谷から神保町は意外に近い位置関係にある。
都営新宿線で二駅。

左内坂を大急ぎで、降り、靖国通りを渡り、
さらに外濠も渡り、都営新宿線に降りる。

九段下、神保町だが、九段下と神保町の駅の間というのは、
実は相当に短い。

降りて、後ろの改札から出ると、すぐ。
神保町交差点の方に歩き、一本目の路地を左、で、ある。

格子を開けて入る。

女将さん、親方に会釈をする。

あー。この人か、という顔。

名乗ったのだが、他にも同じ名前の人が当然いるらしく、
そう思われていたよう。

7つあるカウンターの席の、向こう側三つと、手前側二つが
埋まっている。

今日は着物は着ていないんですね。

そりゃ、仕事してますから。

近くなんですか?

そう、意外に、近いんですよ。市谷。

なんという会話。

走ってきたので、(別段、走る必要も、よく考えたら
ないのだが、走りたくなる、気分であったのである。)
今日も、肌寒かったが、薄汗がにじんでいる。
コートを脱ぎ、上着も脱ぎ、あいているカウンターの
真ん中に座る。


今日は、奥さんには内緒ですか?
いや、内緒、ということもないんですが、

仕事をしてるんで、遅いんですよ。


喉が渇いているので、やっぱりビール。

そして、つまみ、、は、
なにがよかろう、、、、。

さより、で、どうだろうか。

切ってもらう。

一切れ口に入れ、思わず、お世辞ではなく、
うまい、と、言葉が出た。

〆てますか?
と、聞いてみると。

うちは、一塩で、酢をくぐらせています。

これは、先代師岡親方も書かれていたが、
柳橋美家古からのやりかた。

昔、先代師岡親方が修業をされていた戦後すぐの頃は、
さよりも、みんなきちんと〆ていたという。
それを、柳橋美家古の先代親方が、今の方法を
考えた、と、いうことである。

現代はどうであろうか。
ほとんどが、生のまま、ではなかろうか。
さより、というのは、一塩で、味が随分変わる。
これが、今日の、うまい、の一言、で、ある。
(その後、酢洗いをするかどうか、は、意見の分かれるところの
ようである。)

今日、最初から、気が付いていたのだが、
前回きた時には、若い衆が、休み、と、思っていたのだが、
聞いてみると、やはり、若い衆はいない、のだという。
一人で仕込みをするのは、たいへん、で、ある。

みんな、やめちゃうん、ですよ。
うちみたいなのは、若い人はわかんない、んですよね。
と、親方。

他の有名店などに、移っていく人もいる、と、いう。

本当に、よい鮨やとは、うまい鮨とは、なんなのか。
やはり、そこに行き着くのであろう。
そういうことに、なかなか、若い人は、わからない。
そういうことなのか。

ひとしきりさよりを、つまみ、にぎって、もらう。
が、見ているうちに、札が、二枚ほどひっくり返された。

ひっくり返されたのは、小肌と、はまぐり。

あ、、た、、た、、。

これは、いたい。

私が期待している二品、で、ある。
マグロのない、鮨やは、承知をするが、小肌のないのは、、

しかし、まあ、仕方がない。

まぐろ中トロ、いか、しまあじ。

これは、先週と、同じ。
やっぱり、うまい。

それから。

鯵。

みる貝。

鯛の昆布〆があったので、それも。

穴子。

前回は、炙っていた、と思ったが、私の記憶違いであったか
実のところ、よく覚えていないのだ、、、。
今日は、炙っていなかった、か。

そして、なん度も書いている、鉄火巻。

浅草橋の美家古鮨、立喰で、書いた、鉄火巻、で、ある。

その、美家古の立喰、へ、いった話もした。

親方は、柳橋で修業をされてもいるので、
むろん知っている。

もとは、あそこは、あのあたり、浅草橋界隈の様々な問屋へ
買い物にくる人々が電車を待つ間、ちょっとつまむところで
あったという。

そして、鉄火巻。

これは、なんでも、海苔の大きさは、普通の細巻きと
同じなのだが、90度回した位置、
つまり、より太く巻けるように置いて、
手巻きで、巻くんだという。

四つに切って、出す。

中トロを一杯入れて、巻いてくれる。
これは、まったく充実の、鉄火巻、で、ある。

最後に、玉子をもらって、お勘定。

今度は、電話をされる時に、元浅草の、と、言って下さい、
といわれた。

と、すると、小肌と、はまぐりも取っておいてくれたかな、、、。

そして、こんなものは、食べますか、と、
しまあじの、頭をもらった。

塩をして、焼いて食べたのは、翌日。


むろん天然で、あろう。
脂もたっぷり。
べらぼうに、うまかった。





神田鶴八
TEL:03-3262-0665
住所:東京都千代田区神田神保町2丁目4



落語や、上の台詞を、ご存じでない方に、
少しだけ説明をする。花魁というくらいで、
江戸の遊郭、吉原などで、いわれた、成句、の、
ようなもの、で、落語によく登場していたもの。

当時、吉原などでは、お客は、あちらこちらの
見世へいかず、一人の花魁に通うもの、
で、あった。(むろん、例外はたくさんあろうが、
“そういうことになっていた”のだと思う。)

そして、ある店へいって、敵娼(あいかた)が、決まる。
これが初回。もう一度いくと、これを、裏を返す、
と、いう。そして、三回目からが、馴染み、と呼ばれ、
一人前の、お客として扱われる。





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