断腸亭料理日記2010

神田・洋食・松栄亭 その1

5月6日(木)夜

御茶ノ水で、18時半仕事終了。

昌平坂を秋葉原方向へ降りる。
なにを食べようか。

秋葉原、御徒町方面もよいのだが、
久しぶりに、須田町方向。
蕎麦のまつや?
もうこの時間は、混んでいるかな、、?
まあ、混んでいても、一人ぐらいなら、どこかに座れよう。

考えながら、坂を下り、右に曲がり、昌平橋を渡る。
渡って、神田郵便局側へ交差点も渡る。

郵便局の前を通り、路地に入る。

この、昌平橋の通りと、JRの中央線、
さらに、靖国通りとの三角形の区域、の、ことである。


より大きな地図で 断腸亭料理日記/神田連雀町 を表示

現在は神田須田町と神田淡路町の一部。
昔は、神田連雀町といったところ。

戦災で焼け残り、震災後に建てられた建物が
神田という場所にあって、稀有にも残っていた。
ただ、建物が残っていただけではない。

今、JRの神田駅は、靖国通りを渡って、
南へいったところにあるが、以前は、先年閉じられ、
今、ちょうど解体が始まっている、旧交通博物館、
の場所に、その頃は万世橋駅としてあった。

このため、この一画は、中央線の始発駅の、駅前として、
飲食店やら、寄席やら映画館まであったそうで、
繁華なところであった。

その頃の雰囲気と店々が残っていたのである。

明治以前、江戸の頃はこの界隈は、どうだったのか。

場所とすれば、中心はもう少し南側の神田多町。
青物を商う、青果市場、やっちゃ場として栄えていた。
靖国通りの南側にある、万惣フルーツパーラーの
前身は、万惣という青物の問屋であった。
(やっちゃ場は、震災後に、秋葉原へ移転。
今は、ご存じの通り、大田市場へと、さらに移転している。)

ちなみに、連雀町の名前の由来は、連雀(行商人などが
荷物を背負うための背負子(しょいこ)のこと。)を
作る職人達が住んだことからついたという。
(さらに、余談だが、三鷹、吉祥寺にも連雀という地名があるが、
千代田区史によれば、江戸期、このあたりを火除地として
空き地にしたことがあり、その時、三鷹方面に移住させられた人々があり、
それが由来であるという。)

ともあれ、そんな、大正、昭和初期、戦前の東京の繁華街の雰囲気を
残していたこの界隈も、この5年ほどであろうか、都心再開発の波で、
大きなビルが建ち、街の空気は、大分に変わってしまっている。

今は、ビルの谷間に、ポツポツと、以前からある店舗が
点在している、という状態。

どんな店かというと、神田藪蕎麦、鮟鱇鍋のいせ源
鳥すきのぼたん、甘味の竹むら、蕎麦のまつや
などなど。

町並みを残せばよかったのに、と、部外者は勝手なことを
思うが、住んでいる、あるいは、いた、方にとっては、
むろんのこと、そんなものではないのだろう。

ともあれ。

郵便局の路地を入ってくると、左側に、藪蕎麦。
と、ここまできて、ふと、最初に考えていた、
まつや、ではなく、洋食の松栄亭を思い出した。

最近、なにかで、松栄亭の名前を見たような気もするが、
実際のところ、なぜだか自分でもよくわからない。

実は、松栄亭には、学生の頃、一度、有名な夏目漱石も食べた
と、いう、洋風かき揚げなるものを食べに、興味本位できてから、
足を向けていなかったのである。
(最近になって、のぞいてみたことはあるが、
休みだったりで、それっきりであった。)

松栄亭は、神田藪を左に見て、右に曲がり、少しいった右側。

ほんとうに、小さな店、で、ある。
少し前に改築し、今は小ぎれいな、店。

ドアを開けて入る。
先客は、私と同年輩程度のサラリーマンが
二人。

おかあさんが、あいているテーブルを指して、
どうぞ、と、いう。

水のグラスを持ってくるが、置かれる前に、
ビール!。

生?

いや、瓶で。

キリンクラシックラガー?

はい。

なにより、ビール、で、ある。

まずは、一杯。
うまい。

さてさて、なににしようか。
眼鏡を取り出し、壁に貼られた品書きを見る。

やっぱり、ここの看板、洋風かき揚げ、であろう。
それから、私がどこの洋食やでも食べる定番、チキンライス。

ビールがきたら、この二つをすぐさま、頼む。

このあたりのおかあさんとのやり取り、
なんということはないのだが、気持がよい。

文章では、なかなか表わしがたいのだが、
テキパキ、というのか、ポンポンというのか、
余計な事を言わないで、頼む、のである。

おかあさんも、余計なことをいわない。

これ、東京下町の、空気感、とでもいってもよいかもしれない。

むろん、私は、この店の常連でもないし、意図して
こういう応対をしたわけではない。
ないが、名にし負う、松栄亭、この店に入り、
座り、と、ここまでの一連の時間の流れで、
これしかないであろうというのを、
ある程度瞬時に考えて、出てきたもの、であった。

東京人はせっかちだから、という言い方もできようが、
メニューをぐずぐず考えたり、これはなんですか?
なんて聞かず、スパ、スパッと、気持がよいではないか。



この稿、長くなりそう、、。
つづきはまた明日。



住所:千代田区神田淡路町2-8-6
電話:03-3251-5511






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