断腸亭料理日記2023

上野・そば・翁庵

4265号

1月26日(木)第一食

さて、またそば。

今日は、上野の[翁庵]。

先日、神田[まつや]を書いた。

居心地のよい老舗そばやとも書いた。

今、東京のそばやもかなりのバリエーションができている。
その中で、自分がそばやに求めるもの、というのは
なにか。まあ、時代とはずれているかもしれぬが。

これも先日書いた、ミシュランの西浅草[ひら山
はそばも料理もうまい。
趣味そば系?、だが、味もサービスもプロであり上級。
よい店で出掛けるだろうが、ここも少し違う。

[まつや]の回に散々書いたが、浅草、上野の
ご存知の二軒の老舗も違う。

通し営業で、ご飯ものもあって、というのは、
池波先生のご意見に従う。
ご飯ものは私などはあってもなくともよいのだが、
象徴的に、庶民的、敷居が低いと考える。
上野[翁庵]は通し営業でご飯ものもある。

通し営業というのは、私のような変な時刻に
行く者にはよい。
そして、昼時は、お昼を食べにきたお客さんに
わるいと思うので、TPOとして避けるべきだが、
昼食のお客が引けた午後、早い時刻でも、
一杯やれるところ。
これが私などには、通し営業のよさ、で、ある。

今、東京の町の蕎麦やでも通し営業はほぼない。
オフィス街などでは半端な時刻には、お客は
こなかろう。

上野[翁庵]は場所のよさ。
浅草通り沿い、上野警察前、上野駅前といっても
よいであろう。
通し営業で、半端な時刻にもお客が絶えない。

それから、蛇足だが、そうは見えぬが上野[翁庵]も
立派な老舗。
神楽坂[翁庵]の分かれで明治32年(1899年)創業
で、ある。
敷居が高い方が、老舗っぽいというのも妙ではあるが。

小洒落てなくともよい。通し営業で、東京のそばやが
伝統的にしていたサービスを今でもちゃんとしている
ところ。
まあ、そばの味が、ひどすぎてもだめ、ではあるが、
ある一定以上であれば私はまったくかまわない。
前回も書いたが、サービス、居心地がだめであれば、
どんなにうまくとも、歴史と名のある老舗でも
そこへは継続して行けない。

そばやというのは、食い物やでありながら、
居酒屋のように呑めて、喫茶店のようにくつろげる、
そんな場所とでもいおうか。

今、地元、上野、浅草でこれらを満たすのは、ここと
雷門[尾張屋]だけではなかろうか。

今日、寒い中自転車で到着は、3時半前。

各テーブルに一組程度の客の入り。
この時刻であれば、食券を買うようにはいわれない。

あいていた窓側の飾りの囲炉裏のあるテーブル。

壁を背に掛ける。
天井の角にTVがあるのもこの店らしくよい。

お酒お燗と、つまみは板わさ。
そして、看板のねぎせいろ。
ここでも、ぬる燗ではなく、ただお燗といってみた。
そばと、お酒を同時にいう。

ここは、つまみは伝統的な、町の蕎麦やのものしかない。
もう少しなにか、とも思うが、まあ、料理やではないので、
これでよし。必要条件ではない。

板わさ。

お燗もきた。
湯気が出てるほどではないが、気持ち、熱燗寄りか。
やっぱり、お燗といっても、熱めにするのが
この店でも普通になってしまっているのか。

お通しは、枝豆。ここは年中これ。

酒を持ってくるときに、お姐さんは、ちゃんと、
そばはどうしますか、と聞いてくれる。

例によって、持ってきてくださいと、頼む。

二本も三本も呑むわけではなく、呑みながらも
そばは喰えるので、このくらいの時間差で私の場合は、
OKである。
ただ、これで、完全に酒とそばを同時に持ってこられても、
それはそれで違うのである。
場違いなところは、おそらく逆に合わせている可能性は
高いのだが、一緒に持ってきてしまう。むろんこれは論外。
ともあれ、やはりここで一言聞いてもらいたい。

また、趣味そば系にありがちだが、お通しのないところ。
これもちょいと、寂しい。伝統的にはそばやはそば味噌だが、
なめるもの、枝豆でもなんでもよい、なにか添えてほしい
ではないか。

そばやでなくとも、お通しのない食い物やというのは、ある。
お通しを出さないというのは、うちは呑む店では
ありません、という意思表明なのであろうか。
まあ、それはそれで理解はできるが。
(料金を取るのか取らないのか、という店側の問題は
あるかもしれぬが、それは置いておいて。)

しかし、そばやは明らかに呑むことが前提の業態と
いうのは異論はなかろう。酒とともにお通しを出さない
となると、他の料理を一品は頼めということか。
頼んでもむろんよいのだが、気持ちの問題である。
そばやでは、お酒一本と、そば一枚あるいは一杯で
すますというのも選択肢として用意するのも東京の
そばやの習慣、伝統であったのではなかろうか。
敷居の低さである。ちなみに、先の[ひら山]はお通しはなかった。

ねぎせいろもきた。

ちょっと緑がかったのもここのそばの特徴。
つゆには小さないかの入ったかき揚げ。
このかき揚げは特段かわったすごいものではない。
これでよい。

かき揚げをつまみながら、残った酒を呑む。
そして、つゆでそばを手繰る。これでちょうどよい。

立って勘定。
ご馳走様でした。


台東区東上野3-39-8
03-3831-2660

 

 

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