断腸亭料理日記2025

歌舞伎座 八代目 尾上菊五郎襲名披露
團菊祭五月大歌舞伎 その3

4771号

引き続き、歌舞伎座の八代目菊五郎襲名披露興行。

一幕目の「義経腰越状」五斗三番叟が終わって、休憩。
次が、口上。ちなみに昼は口上はない。

次の休憩という選択肢もあるが、腹も減ったし、
弁当を食べてしまおう。

銀座三越で買った[弁松]総本店の弁当。

前にも書いたが、、この歌舞伎座の晴海通りをはさんで目の前に
木挽町[瓣松]というのがあったが、コロナ中であったか残念ながら
閉店してしまった。
旧字の瓣を書くが、日本橋の本店の暖簾分けだったのであろう。
以前はどちらかわからぬが、歌舞伎座に入っていたと聞く。
いわば、歌舞伎見物の正しい幕の内弁当といってよいだろう。
幕の内弁当の幕は芝居の幕(間)のことで、芝居見物の弁当で
あった。[弁松]の弁当が、幕の内弁当の元祖といってよいのか。

が、これ、違っていた。江戸後期の百科事典「守貞漫稿」この
時代の基本文献として使われているが、ここに記述がある。
やはり当時、芝居茶屋というものが席の手配から飲食など観客の
世話をしていたわけだが、ここが作ったものが幕の内弁当と呼ばれる
ものになっていったよう。まあ、当然であろう。
[弁松]は日本橋魚河岸の飯やが元で、当時の歌舞伎芝居町は
木挽町、芳町(人形町)、天保以降浅草猿若町。まあ[弁松]は
無関係で、明治に入り新富座がなくなり歌舞伎座になった
後のことかもしれぬ。

ともあれ。
開けると、二段の折で、

ご飯は、たこが入ったたこ飯。
いつもあるわけではないが、たこ飯があると、
選んでしまう。
たこは強くはないがほんのりとしただし感。
ご飯のしょうゆ味も薄め。

おかずは、左上から、白いのが豆きんとん、玉子焼き、
右上がかじきの照り焼き、左へ行って、蒲鉾、たけのこ、
左下、つとぶ、蓮根、いんげん、その右が、ごぼう。
椎茸、その下が丸い里芋。右のトレー入りのものが、
ちょっと辛い生姜。
生姜以外すべて、濃い甘辛。
以前に比べると、時代に合わせて薄くなったような
気がするが、今でも十二分に濃い。

2/3、食べたところで、幕開きの太鼓がなり始めてしまった。

食べるのはこの次の休憩の方がよかった。

が、ここでやめてもしょうがない。急いで食べ終わる。

と、いうことで、拍子木が鳴って、またまた祝いの
引幕が開く。

歌舞伎というのは、基本、左から右、下手(観客から
向かって左手)から上手に向かって担当の若い衆(大道具
担当?)が人力で引っ張っぱる。それで引幕という。
(ちなみに、下から上に上がるのは緞帳(どんちょう)と
いう。寄席は緞帳。以前は引幕は、公認の歌舞伎のみしか
使えず、歌舞伎以外はすべて緞帳。緞帳芝居という言い方は
蔑んだ言葉であった。
歌舞伎を演じる場合、引幕はご存知の黒・柿・萌葱(もえぎ)
色の歌舞伎カラーの定式幕(じょうしきまく)以外使っては
いけない。例外は中村座で中村座の色を使う。また今回の
ような祝い幕を使う襲名披露は例外。逆に歌舞伎以外の劇場
ではこの色使いの幕を使ってはいけないというのがルール。)

席が花道下手前なので、今日はその若い衆一人の幕を開ける
人力動作がよく見える。引幕、かなりでかい。
舞台幅と同じだと思われるので、今の歌舞伎座は幅91尺、
約27.573m、だそう。ちなみに高さは21尺、6.363m。
で、面積は175.45u。この幕の布の重さがどのくらいか
まったく私にはわからぬが、数十kg?。
それを一気に舞台を走って引き開けるのである。
観客皆が固唾をのんで集中して観ている前で、
つまずきでもしたら、えらいことである。

特にこの幕は襲名の面々がズラッと前に居並んでいる。
若い衆は、緊張などしないのであろうか。
まあ、むろん、プロの仕事であろうが。

開いた!。
舞台中央に、右七代目菊五郎、左八代目菊五郎。裃姿で
平伏している。満場の拍手。オトワヤ〜〜〜の声が飛ぶ。

そう、今回、七代目は隠居名のようなものは名乗らず、
そのまま菊五郎。つまり、二人の菊五郎ができたのである。
なんでこんなことになったのか。八代目のインタビューで
あったか、過去の菊五郎は皆、亡くなるまで菊五郎を名乗った
ので、俺もそうする!、ということらしい。いかにも、
カブキ者の七代目らしい。

裃姿はむろん二人だけでなく、全員。
二人の菊五郎の下手が、七代目丑之助改め六代目菊之助、11歳。

他に居並んでいるのは、前列上手側から梅玉、團十郎、松緑、
三人がいて、その左、楽善、玉三郎。
後列はおそらく、音羽屋一門のお弟子の幹部。

七代目が頭をあげて、口上の口を切る。

もちろん、一言一句覚えているわけではないが、基本形通り。
「松竹株式会社様、歌舞伎界各位様、ご贔屓様のお薦め、
お許しを受け、この度、倅(せがれ)菊之助が八代目として
菊五郎を襲名させていただく、運びと、相成りましてぇ〜
ございます。(大拍手、大歓声、おとわや〜〜〜〜!)
中略、隅から隅まで、ずずずい〜〜〜〜〜〜〜と、希(こい
ねが)い上〜〜げ奉りまする〜〜。」(と、また平伏)

まあ、こんな感じ、で、あったろうか。

とにかく、いいもんである。この口調。大好きである。
なんというのか、この独特の如何にも時代的なイントネーション。
おわかりになろうか。
昔は、いろんなところで聞いたような気がするが、今の世の中、
こうした歌舞伎の襲名披露でしか聞けない。
(もちろん、落語などでは、こんな大袈裟で、大仰な
イントネーションは使わないだろう。)

歌舞伎界の大、大、大名跡なので、どれだけ大仰な
イントネーションで発声しても、足らぬくらい。

七代目もさぞ晴れ晴れしかろう。

健康不安もあったが、実に口跡明瞭、張りも十二分。
きっと大丈夫そう。安心、安心。

そして、本人は後で、順に、前列の面々が発声する。
一番右の梅玉、次がその左、團十郎であったか。

團十郎、ちょっと長めに話した。うちの内儀さんは
長すぎる、と言っていたが、これ、いいのである。
團十郎は身内でもない。二人は同い年、小さな頃から、
もちろんよく知った仲。ちょっとプライベートな思い出を
はさみ、話す。笑いも取って。
落語家の披露など本人以外はボケたり、突っ込んだり、
くさしたり、もっとおもしろ可笑しくやるが、
締めるところは本人、身内が締めるので、むしろ必要な
ことであろう。で、次が、松緑、楽善、玉三郎。
最後に、新菊五郎、新菊之助。菊五郎は型通り。
菊之助は、まだ声変わり前。ボーイソプラノとも形容
できそうなかん高いが、やはりよく通る声で立派に口上終了。


口上、もう少しつづく

 

 

 

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